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たとえ失われる想い出だとしても――『宇宙人と綴じたメモリア』

今回取り上げる小説はこちら。講談社BOXの新人作品です(箱は付いていませんが)。
第17回BOX-AiR新人賞を受賞し、電子文芸誌「BOX-AiR」に掲載されたものに加筆修正しての単行本化、とのこと。

宇宙人と綴じたメモリア (講談社BOX)宇宙人と綴じたメモリア (講談社BOX)
(2014/02/04)
折口 哲、三月 薫 他

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本作の主人公・朝田晶人(あさだ あきひと)は、林間学校の下見で町の裏山に来ていたところ、墜落した円盤から出てきた女性に出会います。
彼女、佐倉美弥子(さくら みやこ)は宇宙人、しかも定期的に記憶を文字として放出してしまう、という特殊な生態の宇宙人です。
この放出された記憶は放っておけば実体化し、経験された現象を再現して消えていくのですが、彼女たちは現在では、記憶を本に綴じる技術を持っています。かくして、自分で経験したことを記憶としては忘れながら、それを本に留めて読むことはできるわけです。
しかし、美弥子は自分でも読めないよう封印された7冊の記憶の本を持っており、その記憶を封じた人を見つけ出して封印を解いてもらい、読むことを目標にしています。少し変則的な形での「失われた自分の過去探し」ですね。

本作の基本はラブストーリーです。
効果的なポイントは、美弥子にかつて想い人がいたとしても、本人もそれを忘れているということです。
しかしだからこそ、美弥子が記憶を取り戻し、晶人も美弥子の笑顔がかつて別の人に向けられていたことを知った時、二人の関係は大きく揺らぐことになります。
それでも最後には、自分に救いを与えてくれた人を救うべく奔走する晶人――実に王道で、切なくも暖かい物語です。

晶人も絵を描くのが好きだったものの、自己で右腕が上手く動かなくなって夢破れたという過去があります。
――が、その絶望に対して美弥子がいかなる救いを与えてくれたのかという点は、それほど判明でない感がありました。
美弥子との交流におけるときめきやその大切さは、十分に伝わるのですが……まあ、晶人の側にも美弥子につりあう相応の重い事情があってこその二人の交流の意義、ということなのでしょうけれど。

たとえ楽しく美しい想い出を失っていく定めだとしても、素晴らしい想い出となるような交流の価値は決して失われはしない――それが主題です。


宇宙人の美弥子が特に説明なく外見的にも人格的にも地球人そっくりである時点で、SFとして深入りすべきでないことは言わずもがなです。
まあ、

 僕はドアのくぼんだ部分に指をかけて引っ張る。中のだレアはさっきからドアを外に押している。「せーので押せよ」と声をかける。そもそも宇宙人に日本語が通じるかどうかもこの時点では分からなかったのに、何故かそんなことを口にしていた。
 (……)
 ジーンズを摑む白く細い指は、足下に倒れ込んでいた女性のもの。見た目は僕より少し年上で、肩で息をしながら、不時着のショックに目を丸くしていた。未確認飛行物体に乗っていなければ……宇宙人だと言われなければ、宇宙人だとは想わなかっただろう。(……)
 (折口哲『宇宙人と綴じたメモリア』、講談社、2014、pp.9-10)


といった記述もありますし、作者もこのような宇宙人像が普通でないことは、自覚の上で書いているのでしょうけれど(ちなみに、言葉については――書かれたものも含めて――自動的に相手種族の言葉に変換されているという説明がありますが、姿については最後まで特に説明はありません)。

ただ、どうしても気になる点もあります。
記憶を放出して忘れてしまい、それを本に綴じるしかないという美弥子の種族の生き方について、以下のような台詞があるのです。

(……)「それでも全てが完全になくなってしまう訳じゃありません。放出した記憶は本に綴じて読めば、追体験出来るからです。アルバムの写真を見て、ずっと忘れていた記憶を思い出す作業に似ていますね。そうして補うことは、出来るんです」
 (同書、pp.227-228)


このアルバムの比喩は、アルバムを知っているけれども記憶を放出して本に綴じるということには縁のない地球人向けの説明です。
ところがこれは、美弥子の種族のある人物の台詞なのです。しかし、アルバム以上に記憶を本に綴じることを日常の営みとしている種族が、しかも周囲は同じ種族ばかりの中でこの台詞を口にするのは、いささか不自然です。

だからこの台詞は別の内容であるが、別人に言わせるべき――と言うこともできるのですが、見方を変えれば、むしろ美弥子の種族は皆記憶を放出する、という設定でない方が、すんなり行くのではないでしょうか。
つまり、ある特殊な人間(しかしやはり地球人)という設定である方が、余計な疑問を生じさせずに済むように思われるのです。その場合たとえば「惑星」と言われているところ等を別のものに置き換える必要はありますが、大きな問題は生じないでしょう。
結局、その方がこのストーリーは活きるのではないか、という話です。


作者は来月には、ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズから新作を出すようです。

バベルワードの言霊使い (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)バベルワードの言霊使い (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
(2014/03/03)
折口哲

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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