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日常へと引き込む渇望――『竜と魔女の住む屋敷』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

竜と魔女の住む屋敷 (ファンタジア文庫)竜と魔女の住む屋敷 (ファンタジア文庫)
(2014/02/20)
門倉 敬介

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作者紹介によれば、作者はアドベンチャーゲームのシナリオライターとのことで、小説の単行本はこれが初の刊行作品です。

主人公の城山一紀(しろやま かずき)は転校を繰り返してきたため、あまり親しい友達がおらず教室の人間関係にも距離を感じている高校生。
しかしそんな彼はある日、美人のクラスメイト・嵯峨野詠美(さがの えいみ)が謎の儀式を行っているところを発見します。
詠美は魔術師でした。しかも、一紀の何かが魔術に反応、詠美の儀式を失敗させてしまいます。
かくして、詠美が再封印を行うはずだった「始祖竜」イソラが解放されてしまうのです。
ただ、このイソラも外見は普通の少女であり、しかも始祖竜の力など捨てて、人間になることを望んでいます。

詠美はしばらくの間、一紀を敵の魔術師と見なして尋問・監禁したりしますが、実はまるで掃除も洗濯も料理もできず、しかもお手伝いにも逃げられて屋敷は散らかし放題と、生活能力に著しく難があることが発覚。
家事に対して異様な情熱を持つ一紀は、頼まれずとも勝手に家事を引き受け、同時にイソラにも料理やら掃除やら草むしりやらの仕事を教えて、そのまま嵯峨野家に居ついてしまいます。
しかも、ともすれば暴走しそうになってイソラを苦しめる、イソラの体内に封じられた古の神々の力も、一紀は鎮めることができることが判明。

始祖竜としてのイソラを危険視して封じようとする魔術師と、彼女に思い入れ、助けようとする一紀。
詠美も――祖父ヴィンセントを遺志を知ったこともあり――少しずつ考えを改めていきますが、他の魔術師はそうは行かず、後半は敵の魔術師の襲撃、そして戦闘となります。

外では美人の優等生ながら、内では生活不能者の詠美。
遥か昔から人間の悪意に晒されて生き続け、今も自分の内にある古の神々の力に苦しみながら、素直で普通の生活に馴染もうと一所懸命のイソラ。
二人のヒロインは味があって、全般の日常パートは中々に楽しいものです。

ただ、多少物足りないのはやはり、一紀の方のキャラですね。
地下牢に監禁されるほどの扱いを受け、現在も尋問されているのに、家の汚れ具合が気になって「この家を掃除させてくれないか?」と言い出すのは、まともではありません。そうした会話のズレや、彼の家事に対する欲求の強さは強調して描かれていて、彼のそういう意味での異常さははっきりと伝わります。
これは異様なまでに日常生活を求める少年が、竜と魔術師という特殊な世界の住人を日常生活の世界に連れ込んでしまう話――と考えるとすんなり来て、そのモチーフそのものに特に問題は感じません。
ただ、そういう異常なまでの日常生活への渇望と、死んだ妹の投影でイソラに思い入れているという設定は、微妙に距離があります。そもそも、妹云々の話も終盤で少し触れられるだけですし……
その意味で、一紀の背景描写には不足を感じました。


何よりの問題は、魔術に関する詳細な設定です。
イソラはこの宇宙を創造した8体の「始祖竜」の1体で、この8体の「始祖竜」の内4体は物理学における4つの力として知られているが、イソラを含む残りは科学にとっては未知の存在――といった設定がありますが、だからといってイソラは宇宙の全てを知っているわけでも万能なわけでもありません。彼女の人格はあくまで人間的です。
つまり、始祖竜それ自体は必ずしも人格的なものではなく、彼女が3000年前に人間としてこの世に具現化された時に、人間としての姿と同時に人格をも得た、ということのようです。
そして暴走しそうになりイソラを苦しめているのも、始祖竜の力そのものではなく、始祖竜の力を利用してイソラの内に封じられた「古の神々」(神話に登場するような神々)です。

……しかしこうして見ると、――まだ一紀の体質については詳細不明で、次巻以降次第という部分はあるものの――宇宙創造とは物理学との関連といった壮大な設定は、なくても物語が成り立つような……?

さらに詠美は量子力学を取り込んだ「量子魔術」の使い手で、物理法則を操作して、たとえば力を加えずに物体を飛ばしたり、逆に動いている物体を止めたりできます。
まあ、これを活用した戦闘シーンは何が起きているのかは分かりますし、臨場感もそれなりにあるのですが、どうもこの魔術の制約が明瞭でないので、そういう状況で詠美の苦戦が予想されるのか、よく分からないのです。
少なくとも、識神や精霊を召喚するというオーソドックスな魔術を使う敵と対戦させると、ルールがよく分からないというミスマッチの感がないではありません。


総じて、やはり主人公と二人のヒロインの関係性を描いた日常部分は良いので、もっとそちらに集中しても良かったのでは、という印象ですね。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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