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殺し屋の街――『博多豚骨ラーメンズ』

かつては確かに日本のAMAZONに存在しなかった洋書が、発売からしばらく(時には何年も)経って登録されているのに気付きました。
当時は確かにAMAZONにないことを確認し、読書メーターではオリジナル登録を行ったはずなのですが……

とは言え、AMAZONとオリジナル登録でダブるのは他の利用者にとって良いとは言えないので(他に誰もこんな洋書を登録する人はいないとは思いますが)、オリジナル登録は削除して再登録しました。
本ブログの読書メーターまとめから飛ぶとそのページが存在しないことになりますが、ご了承ください。

 ~~~

今回取り上げる小説はこちら。
第20回電撃小説大賞の大賞受賞作で、電撃小説大賞は前回に引き続き、大賞2作がそれぞれ電撃文庫とメディアワークス文庫から発売されることになります。

博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)博多豚骨ラーメンズ (メディアワークス文庫)
(2014/02/25)
木崎ちあき

商品詳細を見る

本作の舞台は博多ですが、ただし作中の博多は人口の3%が殺し屋(p.60)という設定(もちろんフィクション)で、警察を買収すれば大概の犯罪は揉み消せすことができ、市長からして殺し屋に身辺警護をさせ、息子の連続強姦殺人を殺し屋に後始末させているような世界です。
登場人物の大多数は殺し屋、もしくはそれに類する裏の仕事をしている人間で、市長お抱えの殺し屋、殺人請負会社の新入社員、復讐屋、借金で中華系マフィアに縛られている殺し屋、私立探偵ect...といった登場人物たちが、同じターゲットを狙ってかち合ったり、互いを狙ったり、協力したりと様々な形で巡り合う群像劇です。

メディアワークス文庫には珍しく折り込みのカラー口絵がついていて、主要登場人物一覧が見られます。これでも全員ではありませんが、この名前は誰だったっけ? と思った時に何かと世話になりました。

博多豚骨ラーメンズ 口絵

しかし、それにしても人口の3%が殺し屋です。
一人の殺し屋が何件もの仕事を請け負っていれば、あっという間に市民がいなくなりそうなもので、「市民の3%が殺し屋と直接的な関わりを持っている」くらいの方が常識的な気がしますが……まあしかし、この荒唐無稽さとハードボイルドな内容、それに生活感あふれる具体的描写(「福さ屋の明太子」等の具体名が登場します)の取り合わせという独特のバランスが、本作の味でしょう。

現実的なことを言えば、殺し屋という商売の成立は難しいものがあります。
捕まらずに数々の殺人を犯すことはもしかしたら可能かも知れませんが、やはり依頼人としては「万一」が心配でしょう。そこで実際に捕まって「捕まって尋問されても依頼人のことを吐かなかった」という実績を作るには、殺人罪の刑期は長すぎます。
だから殺し屋の話など元々荒唐無稽なもの、と言ってしまえばそれまでですが、他方で本作のスタイルは部分的に地に足の着いたものをも感じさせるし期待させる、その辺が何とも言えぬバランスです。

作中に登場する殺し屋には、結構いい加減な行動も目立ちます。金のことで雇い主と揉めた挙げ句、雇い主を困らせてやろうと殺害依頼を受けたターゲットを護衛するという、後先考えない行動に出た人物までいますが、これも殺し屋の粗製濫造のせいかも知れません。
少なくとも、主要人物の一人である斉藤(本作は彼が入社試験を受けるところから始まり、彼で終わっているので、ある意味では彼が主役といってもいいくらいです)は、入った会社が殺人請負会社だったと入社後に知り、未だに仕事に成功していないというポンコツぶりですし、上述の「金で揉めてターゲットを護衛する」という行動に出た女装の殺し屋・林(リン)にしても雇い主にはかなりの低評価でしたし、そういう駄目な殺し屋もいる、ということはむしろ前面に出ている設定です(ベテランのはずの殺し屋の行動にも粗はありますが……)。

登場人物同士の絡み合いは随分と数奇な偶然ですが、しかしこれは誰かの意図ではなく、「数奇な巡り合いでこうなった」というところを含めた物語です。それが集束していく終盤の展開は確かに手腕が感じられます。

そしてオチ。
爽やかに締めるかと思わせてのどんでん返し。と言っても、一点バッドエンドに突き落とすというほどでもないのですが、それだけにいっそう最後に混迷の渦に突き落として行った感があります。ハッピーエンドでもなく、そこまでひどいバッドエンドでもなく、しかしここまでの物語の意味を大きく考え直させるような……この程々の深刻さの度合いがユーモアすら感じさせる素晴らしいものです。


1冊にこれだけの人物が登場している分、一人一人の描写は薄めで、こんな仕事をしている背景の描かれている人物は数えるほどしかいません。
もっとも人物描写というのは必ずしも費やした頁数の問題ではなく、本作の場合、最低限の人物イメージはそれなりに伝わる辺りはそれなりの筆力を感じますが。
しかしたとえば、復讐屋のジロー殺した相手の子供を引き取って育て、助手にしていますが、この助手の少女・ミサキは後半あまり活躍がなく……。林の、中国の貧しい農村に生まれて家族への仕送りのため殺し屋をやっているといった設定についても、頁数を増やして書き足すのではなしにもう少し濃厚な形で活かすことはできそうに思われます。
もっとも、そうした「犯罪に手を染めて生きる人間の心理」に深く踏み込まず、外的な関わりによって織り成される物語に主眼を置いていることが、本作を洗練されたものにしている要因かも知れませんが……

それよりも気になる点としては、まさしく主役級の人物である斉藤が他人の罪を着せられるという、物語の転機とも言える箇所が実にあっさり、事後的に描写されている点でしょうか。

そして何より、天才ハッカー・榎田(えのきだ)の万能っぷり。
写真一つから人物データを調べるのも、交通信号を操作するのも自由自在です。
「私立探偵」の馬場(ばんば)も、調査に関してはほとんどハッカー頼みで、あまり調べ事はしていないような……。
ハッキングを万能ツール扱いして、そこに面倒なことを押し付けているような安易さを感じないではありません。

色々言いましたが、それなりの手腕は感じました。相変わらずレビューのバランスはよくない気がしますが、まあこんなところで。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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