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仮想の死によって想いを知る――『さくらコンタクト route A 小河桃子』

私は何を読む際にも、割と具体的なイメージを思い浮かべようとします。
小説ならばなおさら。

ですから小説のビジュアル化、とりわけコミカライズ等を読む際には、どうしても「小説原文を読んで喚起されるイメージに合っているか」が気になります(私の場合、イメージがあまり実写的でないのか、実写はそもそもイメージと比べる気があまり起こらないことが多いですね)。
もちろん、自分のイメージと他人の描くイメージが完全に一致することはあり得ませんが、それでも「合っている」「合っていない」というのははっきりとあるのです。

ところが、ライトノベルではまず表紙があり、カラー口絵があって、主要キャラクターの姿を見せられます。
その結果、むしろ本文を読み始める前にキャラクターのビジュアルイメージを与えられ、それに合わせたイメージを抱きながら読むように誘導されるのです(もっとも、本文の記述とイラストが合っていないことも少なからずあり、その場合つねに妥協してイメージを形成し直しながら読むことを要するのですが…)。

カラーページが巻頭に来るのは、もちろんまずは印刷側の都合でしょうが、読み方に影響する効果もあるのです。

 ~~~

前置きはこのくらいにして、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

さくらコンタクト route A 小河桃子 (このライトノベルがすごい!文庫)さくらコンタクト route A 小河桃子 (このライトノベルがすごい!文庫)
(2014/03/10)
七月 隆文

商品詳細を見る

本作を読み始めると、まず気付くことがあります。

さくらコンタクト route A

ページ下側の余白の多さです。大部分のページがこんな感じで、とにかく短い台詞とセンテンスですぐ改行していることが多いのです。
かつて、あかほりさとる氏の作品は「ページの下半分がメモ帳にできる」等と揶揄されましたが、最近のライトノベルでは久々に見た気がします。
それ自体は悪いことではないのですが、何しろ短い台詞の交換ばかりで具体的なイメージを伝える文章が少なく、しかも前半はイラスト密度も低くて、途中でキャラクターのビジュアルイメージを忘れそうになりました。
これがゲームなら、少なくとも絵はつねに付いているのですが……

そんな話は程々にして、内容に入りましょう。
本作『さくらコンタクト』はシェアドワールド企画ということで、今回の『route A 小河桃子』は七月隆文氏が書いていますが、来月は日日日氏の筆による『route B 真智ありす』が刊行されるとのこと。
日日日氏と言えば、森田季節氏と並んで新たなライトノベルレーベルが発足するといち早くどこにでも呼ばれている印象のある作家の一人ですが、このライトノベルがすごい! 文庫は長らく自前の新人賞作家中心でやって来たレーベルでした。それが先月(2月)は新刊がなく、この度はこうして外部出身作家による企画物とは、状況に何か変化があったのでしょうか。

二人がいかにしてこのような企画を立ち上げたかについては、公式サイトに対談が掲載されています → こちら
この対談も参照しながら内容を紹介していきましょう。

まず、本作の基本設定ですが、主人公の通う学校の近所の神社境内に「佐保姫様」と呼ばれる桜の古木があって、滅多に花を咲かせないのですが、触れて花を咲かせた生徒には「必ず素敵な恋人ができる」という伝説があるのです。
そして、主人公の桜木春彦(さくらぎ はるひこ)は始業式の日、見事「佐保姫様」を咲かせてしまいます。
その結果として春彦の身の周りには超常現象が起こったりして、その騒動の中で誰かしらのヒロインと春彦が結ばれていくのです。
元はギャルゲーとして企画されたというだけあって、春彦が桜に触れるまでが共通ルート、その先は自在にルート分岐できるシステムのようです。桜のせいでどんな現象が起ころうが、どんなヒロインと結ばれようが構わない、と。
ただ、本作はゲームではなく小説なので、異なる作家がこの基本設定に則って異なる「ルート」を描く、という仕様になっています(まあ、今回の route A と来月予定されている route B 以外が書かれる日が来るかどうか分かりませんが)。

そして、今回七月氏が描くのはタイトル通り、春彦の幼馴染である小河桃子(おがわ ももこ)ルートとなります。
春彦が桜に触れた結果として、桃子が断片的に未来を予知するようになり、しかも自分の死を予知してしまいます。
二人は予知を外すよう努力し、春彦は不安に脅える桃子に寄り添い、予知で死ぬことになる場所に行かなければ――ということで当日はどこにも出かけずに家で二人過ごします。
それで予知には逆らえない……だとバッドエンド一直線なのでそうはなりませんが、死を一度回避しても事態はそれで終わらず……
というわけで、死の予知がひたすら二人を親密にするためのギミックとして使用されます。

そんな中、桃子がいかに春彦に寄り添うべく努力していたか、また「毎朝起こしに来る幼馴染」なんて、二次元の世界ではいいものだが現実にはそうでもない――と言っていた春彦がいかに彼女を大切に想っているかも思い知らされることになります。
別れの中の別れである「死」を突き付けることで相手をいかに想っているかを見せつけつつ、実際の死ではなくその「予知」に止めることで適度にライトな仕上がりにする手腕は大したもので、春彦が悲痛な覚悟をする後半などはなかなかに感動的です。

ちなみに、あらすじには春彦が「ご利益でモテモテのフラグ体質になってしまう!」「フラグ乱立ラブコメ」とありますが、実際に読んでみるとそこまで「フラグ乱立」には見えません。
そもそも、適宜ハーレム化して話を広げないといけない通常のライトノベルと異なり、1巻完結で一人のヒロインのルートに絞れる、というのを作者たちも長所と言っているくらいですから、この『route A』では桃子以外のヒロインにほとんど存在感はありません。むしろ、春彦の妹の咲耶(さくや)が――後半はフェードアウトする割に――前半割と出張っていたのが特異なくらい。

が、この点についても最後まで読むと分かってきます。なるほど、実は一見した以上にフラグ体質になっていたのです。
しかし、春彦はほとんど宿命的に桃子ルート以外を封じられた格好になります。
二人が親密になるためのギミックとして未来予知という超常現象を用いた挙げ句、いわば天命によりそれ以外のルートを封じて終わらせようとは。元々の企画はギャルゲーだったはずが、最終的にはゲーム的なルート分岐を徹底的に禁じた形になることと言い、なかなか興味深いものがあります。

ただ――1冊360ページ程をただ一人のヒロインのルートに費やした割には、二人の関係を「丁寧に描いている」というにはあっさりした味わい、という感もなきにしてもあらず。
それはやはり、上で触れた短いフレーズによる会話主体の文章で、あまり心理描写を濃く描くようなスタイルになっているせいかも知れません。
その辺が良くも悪くもライトなギャルゲー的ラブコメ、ということでしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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