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「剣と魔法の戦記」はいかにして成立するか?――『魔弾の王と戦姫』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
現在8巻まで刊行中、アニメ化も決定している『魔弾の王と戦姫』です(リンクを貼るだけで長くなりますがご了承を)。

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まず言っておくと、本作は中世ヨーロッパ風の世界を舞台としたファンタジー戦記です。
魔法的な力を持った武器も登場、竜や魔物と戦うこともありますが、何千何万の軍を展開しての戦争がかなりのウェイトを占めます。

主人公はブリューヌ王国の小貴族(伯爵)、ティグルヴルムド=ヴォルン(通称ティグル)。
弓矢の名人ですが、その他の武芸はからっきし。ブリューヌでは伝統的に弓を「臆病者の武器」として低くみるため、他の貴族からはあまり評価されていません。誠実な好青年で、領主として領民からも慕われています。
16歳の夏、彼は王命により王国軍に加わり戦場に向かいますが、隣国ジスタート7人の「戦姫」(※)の一人、エレオノーラ=ヴィルターリア(通称エレン、こちらもティグルと同じ16歳の美少女)の率いる軍にブリューヌ軍は大敗、ティグルはエレンの捕虜になってしまいます。

※ なお、タイトルでは「ヴァナディース」とルビを振っていますが、作中でこの読みが使われているのは、確認できた限りでは神話の中だけです。

身代金は高額で、ティグルがブリューヌに戻れる見込みはほとんどなし。ただエレンはティグルを気に入って、自分に仕えないかと誘うのですが、ティグルは所領アルサスに戻ることを望み続けます。
他方で、この戦争によりブリューヌ王子レグナスが戦死、そのショックで王は引きこもってしまい、ブリューヌ国内はテナルディエ公爵とガヌロン公爵という二大貴族の意のまま、両者を止めるものはいないという状況に。
そんな中、テナルディエ公爵がアルサスを攻めようとしていると聞いたティグルは、自らの領地と領民を守るため、エレンに助力を求めて戦場に赴きます。
そしてこの戦いをきっかけに、ティグルは国を揺るがす大きな戦いの主役となっていくのでした――と、ここまでが1巻。

本作は5巻までが第1部、言うなれば「ブリューヌ内乱編」で、元々蔑視されていた田舎貴族であった上、大貴族テナルディエを敵に回し、さらに異国(ジスタート)の軍隊を国内に引き込んだとして一時は叛逆者の烙印まで押されたティグルがやがて勇名を馳せ、官軍となり、救国の英雄となるまでを描いています。

6巻からの第2部は、客将としてジスタートに滞在していたティグルがジスタート国王の依頼で使者としてアスヴァール王国に向かうところからスタート。密使として少人数で旅をしたりするので、むしろティグルが軍を率いて戦う場面は少なくなりますが、随所で「王」としての道が問われるようになってきます。
いきなり戦姫に選ばれ、広大な領地を統治することになって怖くなり旅に出たという戦姫オルガとの出会い、はたまた内乱中のアスヴァールの王子や将たちの統治に対する考え方――これらは少なからず問いを喚起します。ティグルは民を傷付けることを許さない善良な領主で、その誠実さゆえに得てきた人脈も多いのですが、領民と領主がお互いの顔の見える小領で通用してきたやり方は、広大な土地を治めるに当たっても同じように通用するのか、どうか。
中でも、アスヴァールのタラードはティグルと個人的には意気投合しながら、両者が異なる王の道を行き、いずれ対立することを予感させるのでした。

そもそも、ティグル自身としては未だにアルサスの小貴族のつもりでいるのですが、(タイトルを見ても)状況は彼がそこに留まっていることを許さないでしょうから……

――ストーリーの大筋を紹介するはずがつい後半のテーマに踏み込んでしまいました。
本作の大筋はそうした、大規模な戦争と政治的動乱の中でティグルが否応無く英雄へ、王へと進んでいく物語ですが、同時に、戦姫たちの持つ「竜具(ヴィラルト)やティグルの持つ家宝の弓といった魔法的な力を持った武器、それに魔物も登場します。そうした武器の由来は神話的なものであり、まだ詳細な不明ですが魔物たちもそれに関わっている模様。神話というのは建国の神話もありますから、最終的にはそれが現在の政治的な次元に合流してくるのではないかと思われます。
ただ、戦姫たちの多くは戦場で普通の人間相手には魔法的な技を無闇に使わないので、集団戦は比較的現実的に展開され、魔物や同等の武器を持つ相手との戦いとは区別されています。
第2部に入って魔物との戦いの比率が増えた感があるのは、ストーリーが神話の解明に少しずつ向かっているから、でしょうか。


さて、本作の大きな魅力は、きちんと「中世ヨーロッパ風ファンタジー」の世界を作り込んでいることです。
イラストによる戦姫たちの独特の衣装を度外視すれば、時代考証もおおむね現実的です。

ある程度ゲーム、アニメ、漫画等に慣れ親しんでいる人ならば、「剣と魔法の世界」「中世ヨーロッパ風ファンタジー」はすっかり周知のものでしょう(おそらくはゲーム『ドラゴンクエスト』以来の伝統?)。しかし、その中には考証のいい加減なものも多い――と言う以前に、何をもって「中世風」と言っているのか、それほど定かでないのです。
確かに、識字率は100%近く上下水道が完備されているといった点は実に近代的な「剣と魔法のファンタジー」はよく見かけます。ですが、そもそもその世界の人間が「今は中世」と言うはずがありません(異世界召喚物の場合、異世界に召喚された現代人が「この世界は中世的」と言うことはありますが、それもあやふやな知識に基づいている可能性は否定できません)。
つまり「中世風ファンタジー」というのはかなり大雑把な基準による読者側のカテゴライズであって、ましてや、自分で「中世風」にカテゴライズしておいて考証がおかしい云々というのは見当違いでしかありません。

そしてまた、歴史小説のように綿密な考証をすればいいというものでもありません。
「教育や水道インフラが現代並に発達した中世」だろうが、「火薬や化石燃料の使用は発達せず剣で戦争をしている近代」だろうが、どちらともつかなかろうが、そのような世界がそれとして成立しているのならそれでいい、という場合もあります。

――が、「剣と魔法のファンタジー的世界観の細部はいかなるものであるのか」問うことが無意味というわけでもありません。
本作はそこを丁寧に行います。

まず、ジスタート王国の7人の戦姫はそれぞれ「竜具(ヴィラルト)と呼ばれる魔法的な武器を持ち、その力は普通の武器では傷一つ付けられない竜をあっさり葬るなど圧倒的、ゆえに戦姫はまさに一騎当千です。
しかし、ブリューヌ人であるティグルはそのことを知りません。戦場で最初に相見えた時にその力の一端は目にしていますが、その詳細を説明されるのは1巻の半ばになってからです。
この世界に竜が存在することは1巻の22ページですでにさらっと触れられていますが、まずは概ねにおいて現実的な「中世ヨーロッパ風世界」のあり方を伝え、それから徐々にファンタジー要素を導入していくのです。
たとえば、ティグルが出陣に際し、領民から召集した兵たちと言葉を交わす場面です。

「よく集まってくれた」
 ティグルがねぎらいの言葉をかけると、古参の兵たちは陽気に軽口をたたいた。
「領主さま、気にすることはありませんや。戦は三年ぶりですが、畑仕事は毎日ですんで身体はばっちりでさ」
「国王陛下の命令に逆らうのは、うちのかかあに逆らうのとおなじぐらいおっかねえんでしょう? なら仕方ありますめえ」
「そう言ってもらえるとありがたい。ついでに、おまえの奥さんに来てもらえないか? 敵兵の千や二千ぐらい、怒鳴りつけて追いはらってくれそうだ」
 兵たちの間から、どっと笑いがわきおこる。
 (川口士『魔弾の王と戦姫』、メディアファクトリー、2011、p.17)


領民と気さくな関係を築き慕われているティグルの人柄と同時に、遠く離れた王都にいる「国王」なるものが極めて遠い存在である田舎の農民兵の姿をもよく伝えています。

そもそも、本作の物語自体、中世社会のあり方に立脚しています。
元々、中世の貴族たちは自分の領地について自治権を持ち、王というのは貴族の代表として他の貴族たちを調停する存在でした。臣下の土地は王の土地ではなく、その内政には干渉できません。行政の単位として国というのはそれほど明瞭なものではなく、まず各貴族の領地があったのです。
本作の世界には臣下の領主の土地から国に納める国税というものがありますし、王権が強くなってきた中世後半の雰囲気ではありますが、各貴族が独立した勢力で、侵略もありという世界観ははっきりと存在しています。
したがって、王が国政を放棄すれば、国内は貴族たちが群雄割拠する戦乱の地になってしまうのです。
これは現代的に見れば国の内輪揉めですが、彼らにしてみれば他の貴族は「内輪」ではありません。

だからティグルも第一に「自領アルサスを守る」という目的の下に行動します。まあ実際、問題はテナルディエ公爵の侵略と、それを止めない国にありますし、ティグルも国王に対して大儀を主張します。
とは言え、国という建前は存在するので「異国の軍隊を引き込んだ叛逆者」というレッテルは成立するのですが……
他方で、ティグルが徐々に自領の外にも目を向けるようになり、将来の王として成長するところも描かれています。

そうした中世的政治体制に基づいて、ファンタジーが入ってきます。
繰り返しますが、ジスタート王国には7人の戦姫がいます。戦姫は国王に継ぐ地位であり、それぞれにジスタート国内にある公国を治めています。
しかし何分、一騎当千の力を持つ戦姫です。国王はむしろ自分が脅かされることを恐れ、何にもまして戦姫が現状以上の力を持つことを避けようとしますし、戦姫同士の争いもあまり止めようとしません。
その結果、他の戦姫たちはティグルやエレンに対し友好的とは限らず、しばしば戦姫同士の戦いにもなるのです。

これは「中世ヨーロッパ的社会に一騎当千の魔法的な力の持ち主が存在したら、どうなってしまうのか」という問いをきちんと問うた結果です。
「現代社会に突如魔法が出現したらどうなるのか」というシミュレーションはやりがいがありますし、それを行った作品も少なからず存在します。それに比べると、「剣と魔法の中世世界」は今更シミュレートするまでもないと思うくらい、慣れ親しんだイメージかも知れません。
しかし、そのシミュレーションを行う意義は確かにあるのです。

また、竜具は意思を持った武器であり、戦姫も竜具が選びます。
「使い手を選ぶ武器」はこれまたファンタジーでは定番ですが、しかしその使い手に公国の統治者という政治的な地位まで与えられるとなると、色々な問題が生じてきます。

まず、代替わりがあった際、新たな戦姫がどんな人物かは誰も予想できません。しかし新たな戦姫の人物次第で政治情勢が大きく代わることもありますから、周りはそれに一喜一憂せざるを得ません。
公国内部でも問題があります。新たな戦姫が宮廷作法や政治に明るいとは限りません。次の統治者にあらかじめ統治者としての教育を施しておくことができない上、次の戦姫が現れるのに時間がかかることもあります。
そこで戦姫の公国では官僚制が発達しており、戦姫が不在でも内政が麻痺しないようになっているのです。現実的な設定です。

さらに、急に一つの公国の支配者として抜擢され、必ずしも自分の部下とは言えない臣下たちの上に立たねばならない戦姫自身の苦悩、そしてそもそも、前任者や後継者と会うことすらないのが普通な戦姫という立場のアイデンティティ――これら全てが、それぞれの戦姫たちの人生に関わるテーマとして描かれます。

 戦姫は、竜具が選ぶ。王侯貴族のように血脈によって継がれるのではなく。
 このレグニーツァと領民たちは、戦姫となったときに国王から任されるものだ。
 では、先代の戦姫から受け継ぐものは何もないのか。
 次代の戦姫に渡せるものは何もないのか。
 (川口士『魔弾の王と戦姫 7』、メディアファクトリー、2013、p.262)


そんな問いに答えるべく一人の戦姫が生き様を見せた直後にジスタート王国の王位継承問題が浮上するというのも、偶然ではないでしょう。
良かれ悪しかれ、戦姫に後継者問題はありません。ここにおいて、王と戦姫の生きる次元の違いも明瞭になるのです。
そして、王位継承者間の争いが戦姫間の争いに重なってきそうな様子、というところで最新8巻は引きになっていますが――

随分と世界観の話に力を入れてきましたが、キャラクターも魅力的で、非常に素晴らしい作品です。

 ―――

本作はコミカライズも4巻まで刊行中。これまた原作に忠実でありつつ非常に良質です。
原作イラストは美少女キャラに偏している中で、漫画版オリジナルデザインの男性キャラたちが実に渋くていい味を出していること。背景やドラゴン等も緻密に描き込まれ、迫力があります。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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