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クリアカットな虚実――『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (2) ―Time to Play― (下)』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (2) ―Time to Play― (下) (電撃文庫)男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (2) ―Time to Play― (下) (電撃文庫)
(2014/03/08)
時雨沢恵一

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 (前巻の記事

今回で「Time to Play」は下巻ということで話は一段落、タイトルにある「首絞め」の真相その他が明らかになります。
ただし最後に to be continued... とあり、どうやら3巻以降も続くようですが(これもナンバリングと「上下」を別に表記していることから予想された通り)。

真相はおおむね予想通りです。
……と言っても、人の感想を読んでいるとどこまで自分で予想したのか分からなくなっていることがりますが……まあ少なくとも、ファンレターの伏線については1巻を読んでいてただちに予想がついた覚えがあります。
自作のアニメに出演する声優であると同時にその作品の熱心なファンでもあるヒロインと巡り合った主人公、そして彼らの間の悶着――という、ともすれば「作家とファンを巡る怖い話」にもなりかねないお話でした。
もっとも最後はいい話として綺麗にまとめて締めていますが。
他人の意見に対する態度という点で、主人公の態度に若干の変化が生じたという面もあります。それが今後、吉と出るか凶と出るかは定かでありませんが……

――さて。
ライトノベルにおいては「主人公がライトノベル作家」の作品が「最近増えている」云々と言いましたが、ライトノベルに限らなければ作家が登場する作品は数多あります。
その中でも本作は、虚実の境がかなり分かりやすい作品です。その印象は2巻でも変わりませんでした。
作者やその他実在の作家をモデルにした作家などは登場しません。主人公はむしろ「ライトノベルだから主人公は高校生で」というフォーマットから作られたような人物で、経歴も仕事ぶりもきわめてしっかりした理想的な人物ですし、「他の作家さんから聞いた話」「忘年会で会った作家さんの逸話」を話す箇所でもその作家の人物像を思わせるような具体的な描写は周到に避けています。

とりわけ、上巻のレビューとは別記事で少し論じましたけれど、主人公の人生で初めて書いた小説が受賞、刊行、そしてアニメ化という経歴、さらにはその初めての小説を書くに当たって突き当たった最大の壁「いかにして文章を書くか」に関しては自力であがいている内になんとかなった、という辺りは、話をシンプルにするため主人公の才能でクリアさせた、としか思えません。

 Q:あなたはいかにして作家になりましたか?――A:自己流で才能に頼って。

余人に真似のできることではありませんが、あり得ない話ではないので、文句を言う筋合いはありません。

しかし、それではハウツー本にはならないかも知れないが、それが作者自身の体験であった可能性は残るのではないか――と思われるかも知れません。
ですが、繰り返しますが本作の主人公は中学3年生で投稿して高校1年生でデビューしており、それは作者の経歴ではありません(奇しくもちょうど今月の「電撃の缶詰」――電撃文庫に挟まれているチラシ――に時雨沢氏のアンケート回答が載っており、20歳の頃には「米国留学を目指して、英語漬けの毎日でした」、小説を書こうと思ったきっかけは「就職活動に失敗したからです」とあるので、これだけ読めばこれ以上作者の経歴を調べる必要なく、作者のデビュー年齢を大雑把に推測できるでしょう)。
この時期の数年の差は大きいものです。作者が成人してからやったことを15歳の主人公にやらせても、そこに自伝の匂いを感じるのは困難なことです。

作者もご丁寧に1巻のあとがきでこの点を説明しているくらいで、虚実の境をクリアにする方向を目指しているように思われます。

 一応、念のために記しておきますが、主人公のモデルは私ではありません。私は、高校生の頃に小説なんて書けませんでした。この主人公は、私の憧れる“夢の”設定です。ぶっちゃけますと、話そのものが思いっきりファンタジーです。『学園キノ』以上のファンタジーです。
 ただ、作中で描かれている作家業に関する事柄や電撃文庫に関する事柄は、これまでの自分の経験があちこちに活きています。(……)
 (時雨沢恵一『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (1) ―Time to Play― (上)』、KADOKAWA、2014、p.316)


作家業に関する話が事実に基づいていることも、本編を読んでいればよく分かることです。
今回2巻では作家になった後の話――収入と印税、確定申告、締め切り等――が中心で、これは色々と分かってなかなか面白いものでした。

デビュー作の初版が2万7000部という数字や、一度だけプロットを作らずに書いたことがあるという話、あるいは忘年会で会った作家の行動などは、作者自身の体験を思わせますが、本当のところは分かりません。
この辺り、確かに虚実の境が確かには分からないと言えばそうなのですが、ただ上述のような理由で、だからといって主人公に作者がオーバーラップすること(という錯覚 ※)はありません。
話が客観的なデータや作業工程に属することか、あるいは他人の話であるというのも大きいですね。客観的なデータというのは、それがまさに誰に属していようが本質は変わらないがゆえに客観的なのですし、他人の奇行を見聞するのは作家の特権でも何でもありません。

※ フィクションのイメージを通して現実(たとえば作者)が「透けて見える」ように感じるのは錯覚です。
それは自然主義文学であっても例外ではなく、「自然主義文学はその向こうに現実を透かし見させるが、荒唐無稽な文学は見せない」というわけではありません。ただ、その錯覚の使い方が違うのです。
作品が現実に関わるテーマを扱っているとしても、それは作品固有の次元において現実の問題を扱っているのであって、「現実を透かし見させる」のとは違う、と私は考えます。

何より、どこに実話が入っていようが、本作のストーリーが与える印象にはあまり影響がないのです。
ちょうどこの2巻で、アニメの取材の話が出てきました。今のアニメは、取材で実際の風景を撮影して使っていることが多いという話です。
なるほど、実際に存在する風景を背景としてアニメが展開されることで、アニメの物語が「(視聴者の住む)この現実と地続きの世界で展開されている」かのような感覚は得られるかも知れません。しかし、たとえば魔法の飛び交う超常の戦いが実在する街並みを背景に展開されたからといって、戦いそのものの内容の説得力が増すわけではないでしょう。
それと同じです。
主人公が語る「作家業にまつわる諸々」の具体的内容と、主人公とヒロイン・似鶏絵里(にたどり えり)の間に展開されるドラマには、強い結び付きはありません。主人公の稼いだ印税の金額がいくらだろうが、電撃文庫の締め切りがいつだろうが、ストーリーには何の影響もないでしょう。

このブログで紹介してきた作品でもたとえば、1巻の時に引き合いに出した『バカが全裸でやってくる』や、その後取り上げた漫画『ナナのリテラシー』では、「実話っぽい話に本当かどうか甚だ疑わしい話が不可欠な要素としてくっ付いている」ということがありました。本作にはそれはありません。

この、虚実の境で読者を煙に巻くことのないクリアカットさと、それに伴うライトさが、良くも悪くも本作の特徴でしょう。

何しろ、ストーリーにはさほど影響しない作家業打ち明け話が、単行本2冊600ページの大半を占めているのです。
これはいかに何でもやりすぎで、その分ストーリーが薄いと感じるか、それとも作家業打ち明け話の方を楽しむものだと思うか、いや両方を楽しむかで、本作の評価は変わってくるでしょう。
いずれの要素も――言ってしまえばただこれだけの話を――ちゃんと読ませるものになっており、そこは確かな手腕を感じます。しかし、二つの要素が密接に結び付いていないことからいずれかを無駄と感じる向きもあるかも知れません。

なお、打ち明け話に一番興味深かったのは締め切りの話です。
電撃文庫(毎月10日発売)の表向きの締め切りは、発刊の4ヶ月前の月末、つまり発売日から3ヶ月と10日前。ただしこれは通称「よい子スケジュール」であって、実際にはそれを1ヶ月以上もオーバーする作家もいる、とのこと。
さて、電撃文庫の発売予定が最初に公式発表されるのは発売の約2ヶ月前なので、「よい子スケジュール」で脱稿すれば予定公表時点でほぼ校正まで完了しており、たとえ1ヶ月遅れても予定公表時点で初稿は脱稿している計算になります。
これならば、一度発表された発売予定がほとんど延期されないのも理解できます。

フライングで発売予定を出しているのではないかと思われるくらい発売延期の多い某レーベルのスケジュールも、ぜひどなたか公表していただきたい。
こういうことこそオープンにして、比較・検討・見直しを行ってもいいことです。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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