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家族の幻像――『ふわふわさんがふる』

今回取り上げるライノベルはこちら。入間人間氏、2ヶ月連続の新作です。

ふわふわさんがふる (電撃文庫)ふわふわさんがふる (電撃文庫)
(2014/04/10)
入間人間

商品詳細を見る

例によってゲーマーズ購入特典はブロマイドですが、表紙絵と同じなので、そこまでの価値はない気もします。

今作に関しては、1月24日付で作者の公式サイトに掲載された短編「新春主人公アンケート」に、今までの作品の主人公に混じって本作の主人公も登場、宣伝を行っていました。
これを見る限り、主人公の回答は極めてドライで淡々としています。実際に作品を読んでみると、決して感情がないというわけではありませんが、実は Web 短編での回答態度がある種の伏線になっていたり……

さて、本作の世界では、特定地域で夕方に空から綿毛のようなものが降ります。
そしてこの綿毛のようなものは、しばしば集まって人型になります。これは「ふわふわさん」と呼ばれています。
ふわふわさんは、必ず死者の姿を模します。ただ髪が白いのが特徴。
そっくりなのは姿だけで、死者の生前の記憶を持ってはいません。ただ言葉は分かりますし、最初から自分の識別番号を名乗ります。その上、他の記憶はなくとも死者の住所の記憶は持っているというのです。
そのせいもあってか、ふわふわさんを信奉する連中の政治力により、現在はふわふわさんが模した死者の親族がふわふわさんを引き取る、という面倒な制度が存在しています。

主人公の「僕」車椅子の少年
10年前に交通事故で姉を亡くし、自身も車椅子の生活になりました。現在は両親もなく、犬のリッキィと暮らしています。
しかし、そんな彼のもとに、姉の姿を模した「ふわふわさん773」が現れるのでした――

死んだ家族そっくりの別のモノと暮らすなどおぞましい、と思うのは無理からぬことで、「僕」もふわふわさんを嫌悪しています。
しかも、いつも自分を導く立場だった姉が、今や遥か年下、11歳の少女の姿で還ってくるのですから、どんな態度を取っていいのか決めかねます。
そんな、何とも言えぬ距離感の中で、、常識に欠けるものの知識欲は旺盛で、堅苦しい喋りをするふわふわさん773との不思議な交流が紡がれます。

「ふわふわさん773に挨拶を教える必要がある、と提案する」
「挨拶?」
 独特の調子でお願い……されたのか定かじゃないが、ふわふわさんが話を続ける。
「出遭えば挨拶をすることは知っている。挨拶はどうすればいい?」
 偏った知識だ。どこでどう、誰に学んできたのやら。
 (入間人間『ふわふわさんがふる』、KADOKAWA、2014、p.48)


「ふわふわさん773は、リッキィの靴が見当たらないと判断する」
 ……そんなもの捜していたのか。当のリッキィは扉の前に大人しく座って、僕を待っていた。
「リッキィは履かなくていいんだよ」
「なぜリッキィに靴が不要なのか知る必要があると判断する」
 なんでだ、とこっちが聞きたい。
「犬はそういうのを履くのが嫌いなんだ」
 (同書、p.49)


「わたし」という一人称を提案されるまで自分のことをこの名前で呼び、「~と提案する」「判断する」という喋りは一事が万事、ひとたび「おはよう」という挨拶を教えたら一日中いつでもその挨拶をする始末。

まあ、世間の常識に疎い少女が色々なものに驚いたり興味を示したりズレた言動・行動を発するのは可愛いもので、そんな少女との交流というのは、すでに定番の一つと言えるモチーフですらあります。
しかし、「僕」にとっては上述のようなわけで、心情はなかなか複雑ですし、おまけに彼の心情描写は――明言されているふわふわさんへの嫌悪を含めて――比較的控え目で、どう感じたものなのか、読み手にも容易に態度を決せさせないものがあります。

文体も、

 帰り道に見上げた空が色濃く、これは今日も降ってくるぞと思った矢先に太陽に小さな影がかかった。輝きの星に無数の穴が空いたように、逆行で真っ黒に見える丸いものが空を漂う。
 車いすの操作を止めて、道の途中でその様子を見上げる。少し遅れたように自動車もすべて停止して、町の音が沈む。街路樹が春の風に揺られると共に、太陽の黒点も動いた。
 降ってくるのは、綿毛だ。
 (同書、p.12)


叙景文が多めで、ふわふわさんの降る時である夕焼けの赤、あるいはふわふわさんの白と普通の人々の黒といった色のイメージは明瞭ですが、比喩的表現が多くストレートにビジュアルイメージを描かせる記述でもありませんし、作者がよくやる婉曲表現を重ねて心情描写を行うスタイルと比しても本当は抑えられている感があるので、多少の取っ付き難さがあります(それでも、「僕」のふわふわさんに対する拒否感や戸惑い等はきちんと描かれていますが)。

それでも、「僕」が戸惑いながらもふわふわさん773を受け入れていく暖かい交流が描かれているかと思いきや、終盤にはどんでん返しと言うか、衝撃の真相が明らかに――

そもそも、本作の舞台は未来世界です。
建設途中で放棄されて立ち続けているロケットというモチーフは『電波女と青春男』の2559年編(真の妄想)で登場、『アラタなるセカイ』にもリンクしていたものですが、本作でもふたたび登場(この2559年編はどうもただの妄想でなく、現実に繋がっているような……)。
そのロケットの建設が80年前というのですから、近未来というほど近くもありません。
それほどの未来に自動車がまだ走っているのはまだともかく、新聞の配達制度が続いているのかどうかといった疑問もありますが……まあパラレルワールドなのでしょう。

パラレルワールドで済むことはともかくとして、その他にも、この世界では「一等市民」から「三等市民」までが区分され、三等市民は居住区画も分けられており、主人公は名誉二等市民として少し特殊な扱いを受けているなど、独自の制度が意味ありげに存在しています。
地球を脱出しようとしてロケットが建設されたというのも、穏やかではありません。
一体、未来世界に何が起こっているのか――

さらに、ふわふわさんが言葉を解するのはともかくとして、生まれた時から身体に識別番号が刻まれているのは、奇妙に人為的です。
それら全てに、そして主人公と姉の名前にも意味があったことは、最後に分かります(登場人物に名前がないのは入間氏の作品ではよくあることで、本作の主人公もしばらく名前が出ないまま展開しますが、中盤でちゃんと名前は出てきます)。

ネタバレは控え目にしておきますけれど、描かれているのはやはり家族の問題です。
ふわふわさんが死者の代わりではなく、別人と思うなら、他人同士が集まって新たに家族のような共同体を作ることは可能でしょう。
しかし、微妙なところで――それも時に意外なところで――死者を受け継いでいるがゆえに、主人公は戸惑います。
その上で、彼はふわふわさんを新たな家族として受け入れようとしました。

けれどもそこで、主人公の方もまた、普通でなかったことを知らされるのです。
そんな、奇異な者同士が集まって、それでも家族たり得るのか――問いは答えられたと思っても、また戻ってきます。
最終的な答えはどうなのか、彼らの前途はどうなるのか、定かではないまま物語は幕を閉じます。
ただそれでも、彼らはきっと家族だったのでしょう――


イラストレーターは loundraw 氏。『僕の小規模な自殺』『エウロパの底から』に続いての入間氏とのコンビで、初の電撃文庫進出となります。
メディアワークス文庫と異なり電撃文庫ではカラー口絵も本文中のモノクロイラストもあるので、今までに比べると段違いの仕事量になります。
作品によって絵柄を結構変えているのも大したもので、本作の場合、密度は低いものの儚げな調子が作品の内容によく似合っています。

ふわふわさんがふる カラー口絵
 (同書、カラー口絵)

ただ、モノクロになると若干線の粗さが気になるところでしょうか。

ふわふわさんがふる
 (同書、p.112)


【追記】
『電撃文庫MAGAZINE』連載中の「神のゴミ箱」、そして『エウロパの底から』と相次いで中学生ヒロインが登場(一応、前者には別のヒロインもいますが)、主人公は前者が大学生で後者が三十路の作家と大分違いますが、総じて異性に対してというよりも保護者目線が目立っていました。
もっとも、電撃文庫作品ではまた毛色が違ったのですが……しかし今回は電撃文庫で、主人公も19歳と若いものの、ヒロインも今まで以上に幼い外見11歳、中身はそれ以上に無垢。
かくして、情操教育なんて言葉も出てくるくらい、保護者として彼女を庇護し教育するという面が強く出た作品となっていました。
だからやはり、ラブコメと言うより、「家族」なのですよね。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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