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汝は人殺しなりや――『マジカルデスゲーム 1 少女は魔法で嘘をつく』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

マジカルデスゲーム(1) 少女は魔法で嘘をつく (富士見ファンタジア文庫)マジカルデスゲーム(1) 少女は魔法で嘘をつく (富士見ファンタジア文庫)
(2014/03/20)
うれま 庄司

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作者のうれま庄司氏は、スマッシュ文庫で『彼女を言い負かすのはたぶん無理』『激論教室』といったディベートを題材にした作品を書いてきた人で、富士見ファンタジア文庫には今回初登場となります。

さて、もうタイトルからしてあからさまなので、最初に言ってしまいましょう。本作は魔法少女たちがデスゲームを繰り広げる物語です。
暗色背景の表紙デザインまで『魔法少女育成計画』によく似ています。

登場する魔法少女は13人。ある時、一斉にナイトスフィアという異空間の建物に呼び出されます。
そこでマスコットのフィアが言うには、この13人の中に一人「魔女」がいるので見つけてほしい、とのこと。
1日に一度、魔女だと思う人の名前を書いて投票を行い、最多得票を獲得した人が「処刑」されるというルールです。
魔女以外の魔法少女にとっての勝利条件は「魔女」の処刑であり、魔女にとっての勝利条件は自分以外の魔法少女全員の処刑――つまり、人狼ゲームです。

「魔女」については「神様に逆らった悪い人」というだけでそれ以上の説明はなく、このゲームの意図も一切説明されません。
そもそも、ゲームマスターたるフィアは誰が魔女が知っていてこそ、このゲームの進行が可能になるわけですから、魔女を探し出すことがゲームマスター側の目的というわけでもありません。

何だか分からないものの、そして魔法少女の教育を行う「魔法学園」にはズレたところは多いものの、殺人の禁じられた世界に生きる魔法少女たち、処刑といってもよもや本当に深刻なことにはなるまい――と当初は思っているのですが……惨劇の幕開けです。
恐ろしいのは、要件が人の名前を紙に書いて投票するだけという、それ自体は容易で深刻さをも感じさせない行為であることです。しかも棄権は禁止されています。
そして、結果が出て初めて、自分が人の命を奪うのに加担したことに恐れ戦くのです。

現代の学校教室におけるいじめは、誰もが容易に被害者にも加害者にも転じ得るという構造を持っていることがしばしば指摘されますけれど、それに似ています。
「いじめを見てみぬふりをするのもいじめ」といった理屈は、いかなる場合にも肯定できるものではないかも知れませんが、たとえ遠巻きに見ているといった間接的な形にせよ、本人が「加担した」という自覚がある場合、それは後々重くのしかかってきます。

まして本作の場合、他でもないその人の名前を書くという積極的な形で「処刑」に加担しているのですから。

ルール無用のバトルロワイヤルであれば、逃げ回るとか、自分に向かってきた敵でさえ穏健に取り押さえるといった選択が、あるいは可能かも知れません。
しかし本作の場合、全員が罪を背負わざるを得ない仕組みになっているのです。

しかも、まず「練習」としての予備投票で投票という行為に馴れさせ、さらに軽い気持ちで行われた最初の本投票では被害者本人を除いた全員が一致してしまうことによって、「自分は被害者の名前を書いてはいない」という言い訳を封じるなど、設定と展開はよく練られています。

「次は自分が」と死の恐怖に怯え、それゆえに他者を攻撃し、罪におののき、親しい人を失ったことに恐慌を来す魔法少女たちの運命やいかに――


この1巻では魔女が誰かも、このデスゲームの目的も明かされないまま続きます。次巻の発売はすでに5月に決まっているようなので、楽しみに待ちましょう。


さて繰り返しますけれど、残酷な魔法少女物自体は今や珍しくもありませんが、本作の基本構造はとりわけ『魔法少女育成計画』に類似しています。
キャラクターについても、茜という名前で何でも刀で切れる魔法少女を筆頭に、人物あるいは能力的に『育成計画』を連想させる者がいます。
ただその上で、能力バトルではなく人狼ゲームが軸になっているという特色も、すでに見ました。
その分、一人一能力の魔法はもっぱら騙し合いに使われるわけで、活かされているものもそうでないものもありますが……それも次巻次第という面もあるでしょう。

マスコットに関して言うと、『育成計画』のファヴも大概小物でしたが、あれは俗っぽいや命乞いが小物だったのに対して、本作のフィアは――今のところ目的は不明で、手を出しがたい存在であるものの――豹変してチンピラのようなべらんめぇ口調になるところが安さを感じさせます。これは大物か小物かというよりも、キャラ付けとして安易なものも感じますが、まあいいでしょう。

しかし、その上で問わねばならない最大のポイントは「なぜ魔法少女なのか」です。
それぞれに固有の能力を持つ少女たちが閉鎖空間で命を賭けてリアル人狼ゲームをさせられる、という筋書きそのものは、魔法少女でなく何か別種の能力者の設定でも可能です。
ついでながら、本作では「魔女」側の事情も断片的に描かれていますが、そこには何か「願い」が関係しているようで――「12人の命を捧げることで願いを叶える」というモチーフは例によって例のごとく『仮面ライダー龍騎』ですね。人数も同じですし。

今や「魔法少女」は掘り尽くされた鉱脈。「他のモチーフでもできることを魔法少女に置き換えた」だけでは、到底満足の行くものにはなりません。

では、本作における魔法少女はどういう存在か、を見てみるとどうでしょうか。
彼女たちは変身したりはしません。魔法を使うのにファンシーな小物を用いたりもしません。
「少女」と言うには少し歳のいった人もいますが、皆現代社会に生きている女性で、ただそれぞれに固有の魔法が一つ使えます。魔法以外の能力は人並みです。
今の世界では魔法少女はありふれていて、特に秘密ということもないようです。

どうも、「魔法少女」の伝来のイメージを踏襲する意志は希薄なように思われます。

もっとも、結局このデスゲームの目的も不明である以上、次巻を待たざるを得ない、その時に何か判明するかも知れない――と言ってしまえばその通りなのですが、それだけでは芸がないので、もう少し考えてみましょう。

本作の世界の魔法少女にはSSS級からE級までのランク付けがあり、頂点であるSSS級はただ一人、全魔法少女を統括する存在です。SSS級の魔法少女は「神様」とも呼ばれます。
そして、マスコットでありゲームマスターのフィアは「神様の御使い」であって、このデスゲームは神様の意志により行われているものです。ここまでははっきりしています(この前提や「フィアは神様の御使いだから嘘を吐かない」といった話そのものを疑い始めるとキリがなくなるので、とりあえず信じておきましょう)。

しかし、現在の神様は「魔法少女の誓い(アリス・オブリージュ)――「いついかなる場合でも相手を死に至らしめてはならない」という魔法少女のルールを定めた存在でもあります。
全ての魔法少女に課せられるルールということは、この「魔法少女の誓い」こそ本作において魔法少女を魔法少女たらしめている生命線である、と考えることは許されるでしょう。
たとえ犯罪者を取り押さえる活躍をしようと死人は出ないという、平和的でのどかな「愛と正義の魔法少女」を保証する生命線です。つまり、本作において一番、伝来の魔法少女イメージに通じている部分でもあります。
このルールがあればこそ、悲惨なことになどなるはずがない、と思って魔法少女たちは投票に参加してしまうのですが……

ところが、このゲームは場外乱闘がありです。
投票以外で他の参加者を処刑しても良いのです。
ですが、これは「魔法少女の誓い」に反しないのか――この点についても、この1巻中では明瞭な答えが出ていません。

そもそも、投票で票を集めた人物を「処刑」すること自体、「魔法少女の誓い」に反してはいないのか――これも不明です。
むしろこのゲーム自体が「事故」として人を処刑するための仕掛けだという説も出ていますが……

いずれにせよ、ここに何らかの言い逃れ――あるいは詭弁――が存在する余地があるようです。

 そういえば魔法学園の授業でそんな話を聞いた記憶がある。哲学じみていたためほとんど眠っていたのだが、その一文だけは印象深くてなんとなく覚えていた。
 殺人が罪になるのは、殺意を以て人を害したときである。死刑が殺人にならないのは、そう法律で決められているからだ。罪と罰は神が定めるのではない。人が定めるのだ、と。
 (うれま庄司『マジカルデスゲーム 1 少女は魔法で嘘をつく』、KADOKAWA、2014、p.228)


「殺してはならない」というルールを定めたのも「神様」、このようなデスゲームを命じているのも「神様」、その一見矛盾するように思われる二面を繋ぐ蝶番は、「殺す」という概念の解釈の内にある、ということでしょうか。
言い換えると、牧歌的で明るく楽しい魔法少女から血腥い事態への転換点は、まさに解釈の問題だということです。

実際、「敵をも救う優しきヒーロー」というモチーフはままありますが、「救う」とはどういうことでしょうか。それは敵を「殺す」ことと対立するのでしょうか。
理屈を立てればあるいは――

残酷なゲームを強いられた登場人物は、「なぜこんなことをしなければならないのか」と叫びます。
ある意味ではそれがアルファにしてオメガです――「魔法少女は、なぜ戦うのか?」

あるいは、現実の魔法少女アニメの歴史を反映して「魔法少女は、なぜ戦うのか?」を問うた『育成計画』と同じ水準で本作を読むのは少し違うかも知れませんし、同じ水準に引き付けて読んでしまえば『育成計画』に見劣りする可能性が高くなります。
しかし、この問いはおそらく、何度でも繰り返し立てられる価値のある問いなのです。


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Author:T.Y.
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