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異能者の戦後――『最終戦争は二学期をもって終了しました -壱ノ刀・カグヤ-』

一昨日の25日(金曜日)は研究室の新入生歓迎会に出席して、その後も二次会・三次会に遅くまで参加してしまいました。
もっとも学部生がそんな院生たちの飲み会に関わるはずもなく、後の方はいつも通りの院生たちの集い、もしくはまもなく日本を去るカナダ人研究生のお別れ会みたいになっていましたが……
そんなわけでその日の投稿は予約投稿でした。

そんな中でも私はアルコールを飲まなかったので、二日酔いで起きられない……ということもなかったはずですが、忙しいこともあり昨日は休ませていただきました。

 ~~~

それはそうと、本日取り上げるライトノベルはこちらです。

最終戦争は二学期をもって終了しました -壱ノ刀・カグヤ- (一迅社文庫)最終戦争は二学期をもって終了しました -壱ノ刀・カグヤ- (一迅社文庫)
(2014/04/19)
扇 智史

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冗談のようなタイトルですが、内容はギャグとは言えません。
本作の舞台となる連城(れんぎ)市には、長年影から街を支配してきた組織「根元学会(アソシエイション)がありました。
根元学会は数々の異能者を生み出す実験をしてきた組織ですが、この度街を破壊しない危険な実験を行おうとしており、それを阻止すべくクリスマスの夜、異能者の高校生4人が決戦に臨む――というのがプロローグです。

ところが本編に入ると、もうその決戦は終わった後です。
そこに転校してきた美少女・大沢七瀬(おおさわ ななせ)は根元学会と戦うべく異世界からやって来たヒロインですが、来た時にはすでに敵は倒された後という状況です。

かくして全編、戦いを終えて平和になった世界での(元)戦士たちの日常が描かれます。

この日常、軽いノリのところもありますが、全体としてはコメディというより、彼らが平和な日常にいかに適応するか/できないかを割と真面目に書いています。
世界を危機に陥れる悪の組織には勝てても学校のテストには勝てなかったり、また戦いの気分を引き摺ってしまうことで日常への不適応を引き起こしたり、気軽に異能を使いすぎて窘められたり……
中でも、幼い頃から戦士として生きてきて、今回も戦うためにやって来た七瀬は「敵はすでに倒された」と言われてもすぐには受け入れられませんし、主人公たちにとっては日常的なことを「敵か」等と大仰に受け止めてしまい、空回りを見せます。
こういう「戦いに生きてきたせいで日常生活からズレたヒロイン」というのはしばしば見られるキャラ造形ですが、それが可愛いで済んでいる内は良いものの、軋轢を生んでしまうとなると困りものです。
本作が描くのはそんな場面であって、日常でありながら比較的シリアスな所以ですね。

この世界の人間である主人公たちの方も、すでに日常生活に馴染んでいる者、表向き普通に生活しているものの戦いの気分が抜けきらない者、戦いを求めているけれど弱いために活躍のないまま終戦を迎えてしまった者、根元学会復興を目指して奮闘するも実力がないので何もできない組織の残党と、様々です。

まさに、戦争が終わったことを知らない兵士や、社会復帰に困難を感じる帰還兵の姿を思い起こさせます。


――と、題材は面白く、またこれを問うた先例は他にもあるものの、それだけで1冊を費やすというのは中々に珍しい話です。
それでも物語には何らかの山場が必要なので、結局は新たな事件や戦いが起こるという話になりがちですが、本作は決してそちらに向かいません。残党が新たな事件を起こすわけではなく、乗り越えるべき課題はあくまでも日常への適応という問題系の中で登場します。この辺、テーマは徹底しています。

が、その題材の扱いとなると、いささか不足感もあります。

まず、登場人物が多いのです。主人公と行動を共にする仲間が3人(いずれも女の子)、その他に根元学会との戦いで協力したこともある異能者が3人、敵残党が1人。その他、根元学会の最終兵器だった恒華院幽日(こうかいん ゆうひ)という少女も、今は主人公の家に引き取られて普通の小学生として暮らしています。
彼ら彼女らはそれぞれに異なる戦後の日常への(不)適応の仕方を見せる……はずなのですが、それぞれの生き方が十分に描かれてはいるかというと疑問です。差別化が不十分なように思える面々もいます。
平和な日々に馴染めずにいた人物がそこにどう折り合いを付けるのかも、解決したとは言えない状態で投げ出されている例がありますね。
これはその後の全人生の問題である以上、どこかで解決してお仕舞いというわけにはいかない、悩みを抱え続ける姿も描かれていいのかも知れませんが、それでもテーマとして物語として掲げた以上、消化不良の感は残ります。

とりわけ、「最終兵器」だった幽日については色々不明です。彼女は今では圧倒的な異能も失っているらしき記述がありますが、詳しい説明はありませんでした。異能がどのようなものか、という設定は本作のコンセプト上どうでもいいのかも知れませんが、強大な異能を失うことができるのかどうか、というのはそれなりに重大な問題のようにも思われます(そもそもこの世界での異能の扱い自体はっきりしません。主人公たちは日常生活で平然と異能を使いつつ「人は案外見てない」「映像を撮影してもトリックと思われる」から問題ないと言っているので、世間一般に異能の存在が認知されている世界観ではないようですが…)。
そもそも、悪の組織によって最終兵器として育てられた少女がいかにして普通の暮らしに馴染むことができるのか、そこには色々な課題が生じそうですが、まるで描かれないのがいささか勿体なく(まあ、ヒロインの七瀬と被るかも知れませんが……)。

そんな物足りなさはあるものの、作者自身デビュー当時から「終わりの後の話」が書きたかったと言うくらい問題意識は非常にはっきりしており、もう一押しあれば……と思うのでした。


ところで、謎なのがサブタイトルです。
「壱ノ刀・カグヤ」という数字の入ったサブタイトルは巻数に見えなくもありませんが……
ただこれ、作中ではヒロインである七瀬の真名であって、別に何かの数字ではありません。
内容的にも続けられないことはないものの、この1冊で十分なようでもあり。そもそも続きの出る確率が低いことで知られる一迅社で1巻と表記されているなど前代未聞です。
これはもしや、後から「巻数だった」と言って続けることもそうしないこともできるという作戦でしょうか。


2割弱がエピローグだったという作者のデビュー作というのは、時期的に言ってこれ↓でしょうか?

閉鎖師ユウと黄昏恋歌 (ファミ通文庫)閉鎖師ユウと黄昏恋歌 (ファミ通文庫)
(2004/05)
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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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