オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
教育の様々な顔――『暗殺教室 9』
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(前巻の記事)
生徒達に「先生を暗殺する」というミッションが課せられている本作ですが、決して暗殺と教育は切り離されたものではありません。
暗殺を通して、生徒たちはその他の場面にも通じることを数多く学んでいるのです。
そして7巻から始まり、この9巻まで続いた南の島編では、ついに学校外の敵――それも本物の殺し屋を相手に、生徒たちが学んだ暗殺の技を披露することになります。紛れもなく、暗殺を学ぶ暗殺教室です。
けれども、教育の本質はそもそも何を学ぶかという内容ではないと考えれば、そんな本作が学校教室の真髄の詰まった作品になっているのも、驚くことではないでしょう。
それでいて、生徒たちが勝てたのは(敵ボスの用兵にも問題があって)殺し屋が殺し屋としての真価を発揮できない場面だったからこそ、というフォローも入ります。安易に中学生が大人より強くなるわけではないという説得力もさることながら、そもそも力の大小を競うのでなく相手に力を発揮させないことこそ暗殺の真髄という考えに適ってもいます。
これは、軍隊でも敵わない殺せんせーを中学生が暗殺するという設定を成り立たせる核心でもあります。
そして、前巻のラストでついに敵の黒幕と対峙しますが――黒幕の外道っぷりを前に、渚が本気の殺意を見せます。

(松井優征『暗殺教室 9』、集英社、2014、p.9)
殺意を抱くことの意味、それを引き止めてくれる仲間の意義――それもまた、教育で学ぶことです。
もっとも、殺意を表に出さず、一見怖さを感じさせないで仕留めるのこそ、暗殺者としての渚の才能。
決してこれによって、彼の才能の危険さが封じられたとは言えないかも知れません――
そして、1巻以上をかけた戦いもこの9巻前半で終局。
中盤はまた日常に入ります。ビッチ先生は何かと烏間先生にアプローチをかけていましたが、どうやら男を落とす技術には長けていながら自分の恋愛には不器用なようで……

(同書、p.104)
相変わらず可愛いところを見せてくれます。
それから物語後半では、ついにE組を抜けるという生徒が出現。
確かに、成績上位に入った上で元のクラス担任に認められればクラス復帰できるという設定があった以上、いずれ予想される展開でした。
もちろん、素行などに問題があって元のクラス担任が認めないような生徒は無理でしょう。理事長もそうでない生徒を狙って声をかけます。「頑張ればE組という弱者を脱却して勝者の仲間入りできる」というこの学校の教育方針の意義を全ての生徒にアピールするために……
と言っても、そもそも現時点では先生もクラスメイトもE組の方が良いのは明らか。普通ならば、脱却したいとは思わないかも知れません。
それでも、E組は差別待遇を受けるような落ちこぼれクラス、ということが知られている以上、体面――中学生の場合もっぱら、親の評価――を求めるならば、話は違ってきます(まあ加えて、E組はエスカレーター式に高等部進学できないという問題もあるのですが)。

(同書、p.146)
たかが中学時代、優等生クラスにいたか落ちこぼれクラスにいたかということ等、大人になってみれば小さいことかも知れませんが、中学生にとっては重い――
同時に、さらっと渚の家庭の事情も描かれます。これも絡んでくるのでしょうか。
そんな中でまた指摘される事実――A組は強者、E組は弱者というのが椚ヶ丘の建前ですが、実のところA組の生徒たちと言えど、振るい落とされるのを恐れているだけではないのか。
殺せんせーも7巻ではテストを「勝敗を知る機会」として認めていたように、上から与えられた枠組みの中で勝ち負けを競うことにも一定の意義はあります(殺せんせーと理事長の教育論が対立するようで随所に近さを見せるのも、本作において繰り返し描かれてきたことです)。
けれどもやはり、いくら競争に勝っても、競争の枠組みを与える者の下にいるという立場は覆せないのも事実でしょう。
上からどんな試練を与えられるか怯え、身構えているばかりの人間を作るのが教育なのか――そんな問いにも触れる本作には、まさに教育の問題が詰まっています。
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