スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

歴史の転機を生きる少女の純真――『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ 2』

今回はこの漫画を取り上げさせていただきます。

乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(2) (アクションコミックス(月刊アクション))乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(2) (アクションコミックス(月刊アクション))
(2014/05/10)
大西 巷一

商品詳細を見る

 (前巻の記事

ゲーマーズでの購入特典は限定ブロマイド。作品本体中にはない図柄です。

乙女戦争2巻 特典ブロマイド

さて、本作の舞台は1420年頃、フス戦争の時代のボヘミア。
神聖ローマ皇帝ジギスムント相手に反乱を起こした農民兵たちを率いるのは、鉄砲の原形たる「笛(ピーシュチャラ)を持ち込み、戦争のあり方を変えんとする傭兵隊長ヤン・ジシュカ(実在の人物です)。
主人公は農民の娘シャールカ。家族を含む村人を皆殺しにされ、自らも犯されながらただ一人生き残った彼女は、ジシュカ率いるターボル軍に拾われ仲間入りします。

本作の良さはやはり、しっかりとした歴史知識と歴史観が少女の魅力を引き立てていることでしょう。

「笛」を女たちに持たせることで、それまで戦争において略奪される存在だった女たちが恐るべき戦力として立ち上がるところを描く。それは戦争のやり方のみならず、時代の転換を象徴しています。
同時に、当時の戦争は略奪が当然であったとということはもちろん、平民は寝間着を持たず寝る時には裸であったとかいう知識まで、エロスに活かされます。
今回も野外放尿とか公開レイプ寸前とか色々ありました。

タイトルに反して主人公は処女という意味での「乙女」じゃありませんけどね。

ストーリーはというと、この2巻でいよいよジシュカ率いるターボル軍は皇帝ジギスムントに宣戦布告します。
ジギスムント率いる十字軍10万に対し、迎え撃つターボル軍はわずかに2000。
しかし、ジシュカの考案した戦法と「笛」は見事な戦果を挙げます。

ジシュカが求めたのは恐れず命をも惜しまず、決死の特攻をも敢行して戦える兵であり、信心深く純朴な農民たちはそれにうってつけだったのです。

乙女戦争2巻3
 (大西巷一『乙女戦争 2』、双葉社、2014、p.64)

フスを慕う純朴な農民たちが戦争に取り憑かれた男・ジシュカに利用され、少女たちの聖歌隊などを用いた演出も全てそのために活用される様は空恐ろしいものです。
連想されるのはカルト宗教か、あるいは日本史ならば一向一揆辺りでしょうか。

相変わらず戦争描写は血腥くシャールカを待ち受ける運命は過酷で、仲良くなった子たちが無惨に死んだり、本人は敵と手によって公開レイプされかかったりと散々です。
そして彼女は今回、敵の「黒騎士」ヴィルヘルム・フォン・シュバルツに助けられます。
立派な騎士道精神をもった彼には、幼い少女を「敵」と見なすことはできなかったのでしょう。

乙女戦争2巻5 シュバルツ1
 (同書、p.16)

他方で彼も、敏腕ながら淫蕩な皇后バルバラ(ジギスムントの妻)との道ならぬ関係に苦しみます。

乙女戦争2巻6
 (同書、p.122)

ジシュカの異名は「騎士殺し」。彼は個々の戦力としては圧倒的な存在である騎士を倒すために戦法と武器の開発を進めてきました。
ジシュカの計画が形をなし、時代が変わろうというこの時、あまりにもまともな騎士であるシュバルツは、過去の時代の象徴となりつつあるのかも知れません。

乙女戦争2巻1

乙女戦争2巻2
 (同書。pp.50-51)

しかし、そんな中でもシャールカは、「天使」と称される(まあこの称号自体、ターボル軍の農民兵を鼓舞するための宣伝文句ですが)純真さを保ち続けます。
自分が助けられたからといって、敵を助けてしまう少女――普通ならばそれはあまりにも優しく純粋で、戦いに向かない、ということかも知れません。

乙女戦争2巻4
 (同書、p.182)

しかし他方で、彼女は――他の「騙されている」と言っていい農民兵たちと違い――ジシュカの悪辣さを知りながら、それでも強くなるため、ジシュカについて行くことを選びました。
慕っていた人をジシュカが殺すのを見ていながら。

今回も、敵を撃ち殺すことに脅えながら、それでも戦いを望みますし、敵側の人間の優しさとジシュカが悪人であることを認めながら、すぐさま「みんなのところ」に帰りたいと言ってみせます。

乙女戦争2巻5
 (同書、p.133)

彼女の純真さはもしかしたら悪すら受け入れてしまう純真さであり、それこそ恐ろしさに転じ得るものなのかも知れません。

ひとまずはターボル軍の大勝も、今後ますます戦争が激化することを最後で予告、またこの戦争と皇帝を利用して権力拡大を狙うローマ教皇庁の不穏な動きも描かれ、さてその中でシャールカはどこに向かうのか――今後も楽しみです。


プラハの異端者たち―中世チェコのフス派にみる宗教改革 (叢書 歴史学への招待)プラハの異端者たち―中世チェコのフス派にみる宗教改革 (叢書 歴史学への招待)
(1998/08)
薩摩 秀登

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

『乙女戦争』2巻発売されました!

もたもたしてる間に10日以上経ってしまいましたが(汗)、5/10に『乙女戦争(ディーヴチー・ヴァールカ)』2巻が発売されました〜乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(2) (アクションコ ...

少女の決断が時代を動かす――『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ 3』

今回はこの漫画を取り上げさせていただきます。 フス戦争の時代を描く歴史漫画『乙女戦争』第3巻です。 乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ(3) (アクションコミックス(月刊アクション))(2014/11/22)大西 巷一商品詳細を見る  (前巻の記事) 前巻では、大砲と「笛(ピーシュチャラ)」(鉄砲の原型)を活用したジシュカの新戦術により、わずか農民兵2000人で神聖ローマ皇帝...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。