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現代野球(物)の潮流――二遊間コンビ

新たに読んだ作品で紹介できるものもあるのですが、今回は過去に取り上げた本から再びネタを拾ってみます。
まずはプロ野球で捕手として、そして監督として活躍された野村克也氏の文言を引用するところから始めてみましょう。

 かつて、野球が引っ張り重視だったころは「三遊間」が重視されていた。右バッターが引っ張りにいけば、三塁手が強烈な打球をさばく出番が多くなる。かくいう私も、実は右方向へ本塁打を狙ったことはない。その意味では、まさにサードは「ホットコーナー」であって、事実、藤村富美男、中西太、長嶋茂雄……と、花形プレーヤーが数多く三塁手を務めた。
 だが時が経つにつれて、「守り」の重要性が増していった。これは情報野球の発達に比例すると思う。「ドジャース戦法」をもとにしてV9を成し遂げた巨人、ドン・ブレイザーが細かい大リーグ流の戦術を数多く持ち込んだわが南海などが、日本に情報野球の端緒を開いた。相手をゼロに抑えれば、少なくとも負けることはないと、「野球は守りから」という思想が定着していった。逆に攻撃では「確率の高い戦法を選択して、得点により近づいていく」と、センター返しやヒットエンドランなど、頭を使ったプレーが増えていった。
 ここで守備側に「二遊間コンビ」の重要性が生まれた。つまり二遊間のプレーヤーは、相手の攻撃を予測し、味方投手が投げる球種やコースから1球ごとに守備位置を変えたり、互いの連携を確認したりする必要に迫られるようになった。1球ごとに二遊間のプレーヤーが頭を使って臨機応変に動く必要が出てきたのである。
 (野村克也『私が見た最高の選手、最低の選手』、東邦出版、2013、pp.104-105)


(引用文を書いていて気付きましたが、私のPCが「三遊間」は一発変換してくれるのに「二遊間」は一般変換しない辺りに事態はよく現れています)

そんなわけで、この著作で野村氏は二塁手と遊撃手をコンビで考え、一つの章で扱っています。もっとも「一塁手」の章では、最近は三塁、左翼、一塁が打撃重視のポジションで守備軽視になりすぎていることを警告してもいますが……

さて、こうした野球の変化は野球漫画や小説にも反映されているように思われます。
――と言っても、私はこの分野、特に最近の作品にそう通じているわけではないのですが。
ただ、たまたま目に入った範囲内であっても、コンビとしての二遊間にスポットが当たっているのを見ると、昭和の野球物にはない現代的な空気を感じるのでした。

しかも、キャラクターは重視される作品にあっては、プレイにおけるコンビはキャラ付けにも影響してきます。

たとえば、ライトノベル『後宮楽園球場』の主人公・香燻(カユク)は二塁手でした。より正確に言うと、後宮入りしてから二塁手をやることになります。
彼と二遊間コンビを組む蜜芍(ミシャ)は守備の名手で、しかも新入りが野球で戦力になるかどうかを最初に気にする野球バカ。味方に対する要求も厳しく、よく暴言も吐きます。
闘志溢れるプレーでデビューした香燻は、そんな蜜芍の相手ができる人材ということで、二塁手を命じられたのでした。

「蜜芍って、ほら、口が悪いでしょ。あれだけ言われて平気なのってあなただけなのよ。だから二塁手をやってもらったの。慣れないポジションでしょうけど、がんばってね」
 (石川博品『後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール』、集英社、2013、p.222)


しかしことがコミュニケーションの問題になると、いっそう厄介な要素が絡んできます。
香燻は女装して後宮に潜り込んでいる少年なので、性別を隠すため、周囲に対しては喋れないという設定にして、筆談でコミュニケーションを取っています。
ところが、蜜芍は無学で字が読めません。

普段は香燻の世話役の蒔羅(ジラ)が間に立ってくれていますが、練習であってもグラウンド上ではそうも行きませんし、そもそもグラウンド上でいちいち紙と筆を使って会話するわけにもいきません。
ベースに寄っても定位置にいてもいずれにせよ罵倒されるといった蜜芍の無茶振りに対しては、それこそグラブを叩き付けて抗議するくらいしかできないという状況です。

海外に挑戦するスポーツ選手に「言葉を学び、チームメイトとコミュニケーションを取らないといけない」とはしばしば言われることですが、ここにはもっと困難な壁があります。
それでも香燻は二塁守備の練習も重ね、最後はお互いに認め合えるようなプレーで決める――そこに『後宮楽園球場』の魅せ場があります。
作戦会議やらサインプレーやら、言葉にできるコミュニケーションも大事ですし、香燻も筆談の使える場面では作戦立案やチームメイトの操縦に関して手腕を見せることもあるのですが、一番近いところでコンビを組む相手との絆は、言葉を超えたところにしか成立しない――そんなコミュニケーションの機微が描かれています。

さらに、香燻と蜜芍のコンビに面倒見のいい世話役の蒔羅を加えた三人組の関係は、プレースタイルにも反映されています。
主役はエースか四番、という定石は今でもある程度まで野球物に通じるのではないかと思いますが、香燻は二塁手という渋いポジションで、打撃が第一の売りというわけでもありません。あえて言うなら最大の売りはアグレッシブな走塁でしょうか。
(しかも、彼のデビュー戦でのディレイドスチールから相手捕手が判定に抗議して退場、という流れは明らかに'69年の日本シリーズにおける土井正三のプレー――相手捕手は岡村浩二――をモデルにしたもので、そう思うとますます渋い)

打撃では安打製造器だが守備には若干の難がある蒔羅と、守備の名手だが打撃は粗い蜜芍の間に香燻が立って、攻守の力強いプレーを見せていくことになります(蒔羅は右翼手で、二塁手は右翼からの返球を中継するポジションでもあります)。
そんなチームプレーもまた野球の魅力であって、だからこそ、ストーブリーグ(!)で多くのチームメイトと別れることになるエピローグにあっても三人は一緒であることを望んだのです。


作品を変えて、先日少しだけ取り上げた漫画『勝利の女神だって野球したい!』の場合、メインヒロインの風間藍香(かざま あいか)が投手という点は王道を行っています。
彼女の球を受ける捕手の薬丸は最初に「女を入れるなんて反対です」という役ですが、実際に球を受けてみるとその実力を認めるようになる……というのもバッテリーをコンビとして考えたオーソドックスなキャラ付けでしょう。

ポイントは、その他の女子部員です。この手の話の定石で、この漫画もまずは三年生の引退後、部員の足りない野球部の部員を集めるところからです。
主人公の手越祐一(てごし ゆういち)(野球部顧問教師)は、身体能力が高く他の部活に入っていない生徒に目を付けてスカウトするのですが……

勝利の女神だって野球したい1

勝利の女神だって野球したい2
 (松本ミトヒ。『勝利の女神だって野球したい! 1』、アース・スターエンターテイメント、2014、pp.110-111)

その内の一人・猫森結愛(ねこもり ゆあ)はプロ野球の試合で見た併殺プレーに魅せられて野球部に入り、野球を始めます。
そして彼女を追い駆ける形で入部したもう一人と二遊間コンビを組む……という辺り、キャラからして完全にコンビで考えられています。
もう一人、バッティングの能力を買われてスカウトされた女子部員・仲崎(なかざき)かなめは(打撃の人らしく)一塁手。身体能力が高くても女子の肩で外野は難しいので女子部員は全員内野手と、筋は通っています。


――とまあ、比較的最近読んだ複数の野球物で二遊間コンビがメインキャラにいて、しかも両者の関係が重視されている辺りに、現代野球の潮流を感じたのでした。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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