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理想郷の意味は――『アルカ 創生のエコーズ II』

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

アルカ 創生のエコーズ II (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)アルカ 創生のエコーズ II (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
(2014/05/03)
project-ALCA-

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 (前巻の記事

人類が激減した世界にて。人間の国家レイメイ(近未来風の都市)と、人工的に作られたクローンビト「アウラド」の国家エルゼム(自然の豊かな国、全国民が巫女の祈りの歌に額づく宗教国家)、そして両国の間にある中立国家ファルネ(スラム街の存在する途上国寄りの都市という感じ)――というのが本作の舞台設定です。
レイメイとファルネの間は比較的容易に行き来できますが、エルゼムは一切の出入国を禁じています。
前巻の物語は、ファルネの少年アサトが妹を助ける薬草を採りにエルゼムに密入国して、エルゼムの巫女メイと出会ったところまででした。
今回はアサトを追って、レイメイの少女・涼風若葉とファルネの少年セトもエルゼムへの入国を図ります。
エルゼムの創主ラズは、この機会を利用して積極的に争いを起こそうとしているようで、その目論見通り反エルゼム組織「ガディア」のエルゼム侵攻が始まり――

この世界では17年前に、クローンビトが暴走して多くの人間を殺し、結果としてクローンビトも多くが処刑された事件があり、「ゼロの落日」と呼ばれています。
このため、レイメイ人の多くはクローンビトを恐れています。ガディアがファルネでテロ活動を行っているのも、それが原因です。他方で、エルゼム人たちも国外のことはほとんど知らず、良い印象を与えられていません。

しかし、エルゼムに入国した若葉は、エルゼムのアウラドたちがごく普通の、しかもいい人揃いであることを知り、自らがいかに不適切な偏見を抱いていたかを思い知らされます。
それは良いのですが……一見すると、両国の対照があまりにも分かりやすすぎることに疑問も感じます。

そもそも、この世界は環境汚染によりほとんどの地域で人間が生きられなくなっているという設定です。
レイメイは都市を汚染から防護するシールドを張っているのに対し、エルゼムでは自然の再生が進んでいます。
資源を食いつぶして都市文明を維持しているものの、実は先の長くないレイメイと、自然を再生し人々もいい人揃いで平和に生きているエルゼム――「理想郷」としてのエルゼムのイメージがあまりに分かりやすく、ステロタイプな感は否めません。

しかし読んでいくと、アウラドたちは作られた存在であるがゆえに、記憶や人格のレベルで強いコントロールを受けているようなのです。
犯罪や争いすらないという出来すぎた理想郷は、それゆえでしょう。
この点へのアプローチ次第では面白くなりそうです。
ユートピアを称揚するのか、その不気味さを告発するのか、それともいずれでもなく両義性を受け止めるのか――ポイントはそこです。

そもそも、西洋における「ユートピア」(この言葉そのものはトマス・モアによりますが)とは管理社会でした。したがって西洋思想史上では、その良きに関しても悪しきに関しても一定のアプローチが重ねられてきたのですが。

――と思って読んでいると、最後でメタ構造を持ち込むような一章があって驚かされます。
ここまでの話は一種の作中作だったとでも言いましょうか、あるいは何かのメタファーなのか……
そもそも現実とは何なのか。


まあしかし、2巻になってなお「面白くなりそう」という表現が出てくる辺りに問題もあって、300ページを優に超える単行本を2冊出してもいまだに物語の先が見えず、しかも一つ一つの場面もそれほど強い印象がないまま、間延びしている感は否めません。
1巻がプロローグという作品はままありますが、2巻もこの調子だとそろそろくたびれてくる面はあります。

ラストのメタ化する展開にしても、話の先が見えないままさらに壮大な設定を持ち込まれると戸惑うのも事実。
収拾が付けられるのか、というと、大きな構想はありそうなのでそれほど心配はしていません。ただ、全体構想が優先しすぎている気もします。

どうも設定や物語の枠組みが優先で(実際、それらは魅力的ではあります)、何だかあまり「キャラクター小説」らしくない印象があります。
「キャラクター小説」(=ライトノベル)を劣った文芸だと考える場合、こう言われると褒めているように聞こえるかも知れませんが、別にそういうわけではありません。


ところで作者名が「project-ALCA-」となっている本作ですが、目次ページにはプロジェクトチームの役割分担が載っています。
が、ここをよく見ると、1巻では「企画・原作」だった流歌氏が2巻では「企画・原作・執筆」となり、1巻では「執筆」の速水漣氏が2巻では「監修」になっています。
1巻と2巻で文体が違う、という違和感はそれほど感じませんでしたが、合作に近い形態なのかも知れません。

それから、QRコードにより You Tube にアップされている音楽が聴けるという仕組みは相変わらずで、さらに今回はラストの章(上述のメタ構造を持ち込む一章です)に関しては小説中にも書かれている内容が丸ごと音声劇として聴けるという仕様まで取り込んでいます。
まあ音楽は良いのですが、なぜか真ん中の4コマ漫画に入っていたQRコードだけは読み取れず……
原因が本自体にあるのか私の携帯電話にあるのかは分かりません。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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