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悪夢の国のラピュタン――『デスニードラウンド ラウンド3』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

デスニードラウンド ラウンド3 (オーバーラップ文庫)デスニードラウンド ラウンド3 (オーバーラップ文庫)
(2014/05/22)
アサウラ

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 (前巻の記事

ゲーマーズ購入特典は特製ブロマイド。絵柄はファンタジー風のイメージ映像ですね。

デスニードラウンド3 特典ブロマイド

前巻が出てから9ヶ月、1巻からは1年以上経っていますが、元々速筆ではない作者ですし、その間に『ベン・トー』を完結させたりしていたので、当然と言えば当然なのでしょう。――内容がヤバいので修正に手間をかけていた気配もありますが……
前々から予告されていた通り、この3巻にて完結です(オーバーラップ文庫はあらすじだけ見ても最終巻かどうか分からないので、最終部ではあっても上下巻構成なんてことも少しだけ期待したのですが、それはありませんでした)。

いよいよ今回の舞台は「夢の国」こと千葉県のテーマパーク「デスニードラウンド」(略記:DNR)、敵は表紙を見ての通りあのネズミ――作中での名称は「ニッティー・ザ・モルモット」です。
冒頭から「――みっきぃ! ――まうちぃ!」(p.5)というコールがあったりで、(法律的な)恐怖を存分に喚起してくれます。いやこのコールは、前巻でも少し登場していたアイドル「真内みき」であって、別にデスニードラウンドとは直接関係ないのですが……

話の筋は比較的ストレート。松倉チームにDNRの潜入調査という仕事の依頼が入ります。
しかし、表向きは楽しい「夢と希望の国」を謳うこのテーマパークの実態は、非合法な生体実験の類が行われ、夜な夜な多くの命を散らす残虐なショーが行われて、VIPたちがそれを見下ろして哂う「悪夢と絶望の国」でした。
マスコットキャラクターたちは全て生物兵器として開発された、本物の怪物です。これに関しては、前巻までの敵であったロナイダやP君がDNRの技術提供で生まれたことが示唆されていたので、まあ予想されていたことでしたが。

もっともこの「夢の国」、皆に大人気であるはずの表向きの設定からしてかなりブラックで怖いのですが。
そもそも、この夢の国の全ては(1巻のレビュー記事でも引用しましたが)飼育ケージの中で車輪を回し続けるネズミが死から逃れようとして生み出した妄想という設定ですし、その他のキャラクターも――

 DNRを象徴するキャラ、妄想の世界に逃げ込んだ実験材料、ニッティー・ザ・モルモットを筆頭に、入場客を出迎える愉快な、それでいてどこかしら不気味な人気者達。金のためならどんな相手でもその口技を使う、マネィー・ザ・モルモット。ニッティーのストレスと歪んだ情欲のはけ口の愛犬、プルトン。短気で自己中心的な園内一番のテロリスト、ロナウディングダック。ロナウディングダックの奴隷、ピーチダック。台車の上の水槽に入っている愚かな人魚のアルエヌ。ピーナッツと偽って何かの錠剤を大量に食べて笑い続けるクレイジーな犬、グッピー。生ゴミを漁ったりするのが日課、ニート熊のプー太郎さん。ロシアの銃と同じ名を持つ科学者が作り出した醜悪な化け物、スチェッキン……。
 (アサウラ『デスニードラウンド ラウンド3』、オーバーラップ、2014、pp.39-40)


これが人気なのは理解できないと思うべきか、童話や子供向け作品にブラックな物は多いからその延長と考えるべきか……

ちなみにマスコットキャラネタとしては、DNRキャラの他に、千葉県船橋市の非公認マスコット、ふなっしーならぬ「ふなむっしー」も登場。ナシではなくフナムシなので気持ち悪さが段違いです。
非公認の不愉快なキャラが人気なのに一部市民と市長が激怒して始末しようとするとか、まったくこの作品の世界観とノリにふさわしいノリで笑わせてくれます。
折角だからご当地ゆるキャラも扱ってほしいという期待に応えてくれたという点でも満足です。


さて、主人公のユリたちは悪夢と絶望の国DNRでマスコットキャラクターや脳を弄られた人間たちに追い回されます。
敵はそこまで強くなくて、修羅場を潜ってきたユリは結構冷静に戦えるのですが、彼女を待ち受けるのは両親に関する残酷な真相――

ユリの両親は莫大な借金を残して失踪し、その借金を返すためにユリは傭兵課業をすることになったのでした。いつか借金を返して、帰ってきた両親と再会するのがユリの希望であり目標でした。
希望を断たれ、同時に図らずも借金返済という目標も失ったユリ。借金という負の要素であれ、それは一つの目標たり得るものだったのですが……

それでも、彼女は生きようと足掻きます。
1巻から、どんな酷い目に遭おうが、戦うことに疑問を抱くほどに味方の悪辣な手口を目にしようが、それでも命が懸かった場面となれば、彼女は生きようとして武器を手に取り立ち上がってきました。
今度も生きるため――そして、友のため。

実際、足掻く彼女と高みから見下ろすVIPたちの対比は鮮烈です。
DNRは入場者を「ゲスツ」と呼んでいますが、秘密クラブの会員であるVIPたちによれば真の「ゲスツ」は彼らVIPだけ、他の入場者はモブです。
VIPたちはデスニードラウンドに集う群衆を見下ろし、哂っています。

「それだけの魅力がこのパレードにはあるわえだが……その全てが自分達だけに向けて、特別サービスをし、心の底から楽しませてくれる。これがいい。それに寒い中で震えてバカのように必死に手を振り、質の悪いカメラでシャッターを切る連中をこうして上から、暖かい場所で、酒を手に見下してやるのも楽しいだろう?」
 (……)
「……そうだ。このクラブ666が本当の持てなしとして提供するのは、上等で高級なフレンチ料理でも、禁じられている酒でもない。あんなものは単なるおまけに過ぎん。……真に我々が楽しむメインディッシュは――史上最高の優越感だよ」
 (同書、pp.68-69)


彼らにとっては、殺戮ショーもこの延長に過ぎません。

けれどもユリは、そんな優越感を伴った高級フレンチよりも、皆と一緒に庶民的な食卓を囲むことを望みます。

 必死の人達や、子供達の笑顔を見下して味わう優越感などいらない。
 自分こそこうしてみんなと同じ目線で、庶民的な、ごく普通の当たり前のご飯を食べることこそが至福なのだ。……そう、思う。
 (同書、p.80)


ここでは、著者の得意の一つである食べ物の描写も効果的に働いています。
今までの本作で描かれるのは、主人公の境遇という理由もありますが、サンマとか丸ごとのトマトとか、庶民的な食事が中心でした。今回登場する高級フレンチの描写も丁寧で、美味そうなのは間違いありません。
けれども、お握りと味噌汁の食卓も、それに劣らず美味そうで、しかも食卓の暖かさを確かに感じさせるのです。

こうして、皆と一緒に食事を味わって生きる、これが彼女の原点です。

本作の基本テーマは「マスコットキャラクターに象徴される楽しいファンタジーの下には、過酷な現実がある」ということでした。
今回の場合、夜のDNRで行われる過酷で残虐なショーもまた、まさに(一部のVIPに)見せるために作られたファンタジーなのですが、それでもファンタジーと現実という基本的な対立図式は変わりません。夢を見続けるニッティーに対し、「夢の終わり」を突きつけるべくユリたちは戦うのです。

しかし実のところ、こうした対立図式そのものに疑問を投げかけることは可能です。
ファンタジーの下には身も蓋もない、厳しい現実がある、と言いますけれど、「身も蓋もない、厳しい現実」と言っているものでさえ、もう一皮剥けば構成されたものであるという可能性は、ないでしょうか。
こうした事柄は、本作『デスニードラウンド』が触れることのない盲点なのかも知れませんが、しかしテーマの盲点は必ずしも欠点ではないかと思います。

そんな二分法の問い直しにまで触れることはなくとも、本作が十分に魅力的で読み応えがあるのは、主人公の立脚点がはっきりしているからです。
今ここで、味わって生きる、そのために足掻く――まことに明瞭です。

対して、優越感を味わっているVIPたちは、まるで『ガリヴァー旅行記』に登場するラピュタの人間のようです。
空に浮かぶ島ラピュタの住人たちは、気まぐれで地上の国を破壊する力を持っていますが、現実離れした夢想家たちです。
文字通り「地に足が付いていない」
DNRのVIPたちも、まさに(現実ではなく)「夢の国」に生きています――だから、今ここに自分が生きていることでさえ忘れてしまい、命を弄ぶのを楽しんだ挙げ句に自分が殺されそうになって、今更慌てたりするのではないでしょうか。


戦闘に関しては、敵はニッティーを除いて今までのように銃が通じない化け物でもなく、そこまで強くないのですが、前半は敵地への潜入なので武器弾薬に限りがある中での戦い、後半は大規模な火力と兵力を総動員しての殲滅戦と、趣向を変えたミリタリーアクションで楽しませてくれます。
ただ、ラスボスのニッティーは、能力的には今までの敵の上位互換のはず(技術提供の元締めという設定から考えても納得)ながら、描写的には地味な印象でした。もっとも、「今までの中ボスの上位互換のラスボス」なんてのは、意外にそうなりがちなものかも知れません。

キャラ的にも、ロナイダやP君のような哀しさを含む背景があまりない、というのもありますね。
ロナウダは記憶を消されてロナウダという人物に生まれ変わり、P君は長くスーツを装着していると一体化してしまう……と、この世界でのマスコットキャラクターは「中の人」を乗っ取ってしまう存在でした。
子を想う親の悲劇という要素も共通していました。子供を救うためにマスコットになるのか、子供のためにマスコットとしての職務を外れて暴走するのかという違いはあれど、アイデンティティそのものをキャラに乗っ取られる中で、人間性を繋ぎとめる要となるのが親子の情だったのでしょう。
しかし今回は、親子の悲劇も主人公ユリの側で描かれています。
ニッティーはそもそも「中の人」の人格を持たず、それゆえに人間性が弱点となることもないのですが、キャラ的な印象も弱くなっている面はあります。

止めの刺し方はなかなかえげつないものがありましたが。


まあともあれ、ブラックユーモアで笑わせつつハードなアクションと生き様を見せた作品、十分に楽しませていただきました。

 ―――

ところで、この3巻の発売前に私が呟いた勝手な予想は下記でした。

3巻の内容予想:タブーとされる夢の国の秘密隠蔽を巡る戦い。/日本という国の根幹を揺るがすタブー。/千葉の埋立地はアメリカ植民地、もしくはすでに第二の日本占領は完了している。(※ 予想が正解したかどうかも解釈に左右されます)


最初は不正解。秘密隠蔽を巡る戦いという大規模に政治的な話ではなく、殺戮ショーを展開する相手と、それに痛い目に遭わされた主人公チームの落とし前をつけさせるための戦いでした。
その後の部分も、そういう政治的な設定が大々的に言及されることはありませんでした。

私がこう考えたのは、1巻のワックマインド・ハンバーガーもアメリカの企業でありながら、日本においてロナウダを生み出した、それは「埋立地」のDNRに技術があったから、という設定だったからです。
アメリカ本国でも堂々と行うことのできない生体兵器開発を行えるところ、それが日本の「埋立地」だったのではないでしょうか。
さらに2巻で警察もDNRの要請と技術提供によりP君を生み出したことが判明するに至って、政府もDNRの実態をある程度知りながら黙認している可能性が濃厚になってきました。
これこそ租借地、あるいは日本占領でなくて、何なのでしょうか。

しかし、だからといって「けしからん、日本を取り戻せ」とナショナリズムを掲げるのは、むしろ1巻に登場した日本のハンバーガー屋や、ありは今回「船橋市民の代表」を自称してふなむっしーを排除しようとした連中の発想です。
本作においては、内乱によって日本という国の枠組みそのものが怪しくなっているというのに、「“ものつくり”に優れたわれわれ日本企業」という類の括りに頼っていられるのでしょうか(内乱には至っていない現実においても、この手の「ものつくりナショナリズム」は甚だ怪しいものです)。

そういうわけでユリたちは、必ずしも「日本」には頓着しません。
もちろん、この地で生きられるのならそれが一番なのでしょうが(食べてきたのも概ね和食ですし、今回は松倉たちの――そして作者の――地元北海道ネタが多用され、ある種の郷土愛は十分に感じられます)、何より優先するのはまず生きることです。
自分を生きさせてくれない国のために死のうと思える者はそうそういません。

もっとも過激なナショナリストならば、現実の国がどうなっていようと、「それは敵国や非国民の仕業だ、だからこそあるべき国を取り戻さねばならない」と言うでしょう。「あるべき国」というのは間違っていることのあり得ない理念のようなものですから、反駁するのは難しいでしょう。

ただ、「その国は地上にあるのか?」と、たまには問うてみても良いでしょう。何しろ、現実に合わせて地上に実現するためでなければ、一体何のための理想なのでしょうか。


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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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