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彼の愛した娘――『B.A.D. 13 そして、繭墨は明日もチョコレートを食べる』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

B.A.D. 13 そして、繭墨は明日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)B.A.D. 13 そして、繭墨は明日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)
(2014/05/30)
綾里けいし

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 (前巻の記事

『B.A.D.』はこれにて完結となります(あとがきによれば、後1冊短編集『チョコレートデイズ』があるようですが)。
タイトルも表紙も1巻に近いものになり、原点回帰となっています。

前巻の最後で、自らの運命を微笑んで受け入れつつ、「紅い女」の手により異界に消えた繭墨あざか。
しかし小田桐勤は繭墨がいなくても生きられる道が見付かっており、彼女がいなくなった暮らしを受け入れて生きていくこともできる……とは言え、無論納得できるはずもなく……。
というわけで展開としてはオーソドックスに、今回、小田桐がふたたび繭墨を助けに異界へと降りることになります。
方法そのものは割と簡単に見付かる、というか、冒頭から小田桐には見当が付いているのですが、例によってそこまでの過程では色々とあります。

しかし醜悪で、グロテスクで、しばしば救いのないこともあった本作ですが、最後は爽やかで綺麗な締めになっています。
3~4巻で繭墨あさとが連れていた白い子供の正体などの疑問も今になって解決され、ここまでの全ての物語が今回の締めにまできちんと繋がりを持っていたことがよく分かりますし、随分昔(6巻)に死んだ敵キャラの神宮ゆうり

前巻は小田桐視点で「繭隅あざかの話をしよう」から始まったのに対し、今回は繭墨視点で「小田桐勤の話をしたいと思う」で始まっており、本編中で実際に小田桐が今までのいくつかのスポットを巡って、小田桐勤という男の数奇な人生を総括しての締めとなっています。
小田桐は不幸な男です。男の身で腹に鬼を孕まされ、世間的には高校中退で失踪。以来、しばしば鬼が腹を裂いて出てくるという状態で、繭墨霊能探偵事務所で働いてきました。鬼という要素を抜きにしても、一人身の妊娠中ながら安月給で働いているとは、並外れたハードさです。

それでいて、彼が孕んだ鬼――雨香(うか)は、紛れもなく彼にとって大切な娘でした。
終わりのない夢の世界に閉じ込められた時も、小田桐を引き戻したのは「娘を返せ」という想いでした。
しかし、最初は赤ん坊だった雨香も、出てくるたびに育ってきました。随分と可愛く育ちましたし、素直で父親想いのいい子ですが、育ちきった時に人の姿のままでいることはないし、それに育ちきった時には、「母体」たる小田桐をも喰らってしまうだろうと予言されていました。
そのリミットは刻々と近付いていました。

B.A.D. 13巻 雨香
 (綾里けいし『B.A.D. 13 そして、繭墨は明日もチョコレートを食べる』、エンターブレイン、2014、カラー口絵)

今回のあとがきで作者が語っているように、本作は小田桐勤と繭墨あざかという二人のボーイ・ミーツ・ガールであり、――退屈しのぎに惨劇を求め、惨劇を嘲笑って見ている繭墨のことを小田桐は嫌いで、首を突っ込んでは失敗する愚かな小田桐を繭墨は馬鹿にしているという歪な関係ながら――二人の間には二人だけの、特別な関係がありました。
ただ、『B.A.D.』の特殊さは、小田桐が父親であって、二人の関係が実際には雨香を挟んだ“三者関係”だということです。
小田桐が繭墨から離れられないのは、雨香を小田桐の腹に戻して腹を塞げるのが繭墨だけだったからです。

だからこそ、雨香が育ちきる時こそ全ての終わりでした。

けれども、おぞましい怪物に育った雨香を小田桐は娘と想い続け、雨香は最後までいい子でした。

「――――――――――――嫌わないよ。お前を嫌ったりはしない」

 それは嘘だった。こんな醜いものを、人間である限りは嫌悪せずにはいられない。だが、それは心の底からの言葉でもあった。僕は偽善に塗れた嘘と心からの本音を吐き出す。僕は彼女が怖かった。彼女を嫌悪していた。だが、同時に、

「――――――――――お前は、僕の子だ」
 我が子を、嫌うことなどできはしなかった。
 (同書、p.184)


その詳細な顛末のネタバレはしないとして、エピローグも象徴的です。

小田桐は確かに、――腹を塞げるのは彼女だけだという実利上の意味だけでなく、精神的な意味でも――繭墨に依存している面がありました。
けれども、今回繭墨が消えて納得できないでいる彼の心情は、要するに、「運命を受け入れるなんて繭さんらしくない、そんなのは認めない」という、甚だ勝手とも言える言い分でした。
裏を返せば、腹を塞ぐという懸案が解決され、繭墨が繭墨のままでいてくれるならば、彼女と離れること自体に耐えられないというわけでないのは、本当でもありました。

他方で、雨香はまさに「いなくなって初めて小田桐は平穏な暮らしに戻れる」という存在でした。
平穏な暮らしができるなら歓迎するというのも小田桐の紛れもない本音です。
けれども、手のかかる子供がいなくなってほっとするのは事実でも、親はやはり離れて暮らす子がどうしているか心配するものです。

繭墨の場合のように取り返そうとするわけではない(雨香のいない夢の世界の時と違い、雨香がどこに行ったかは分かっているわけですし)。
けれども心配せずにはいられない――そんな父親の想いが主人公の想いとして描かれた、なかなか希少なライトノベルでした。

さらに、何百年も昔に異界の王となった「紅い女」以来、紅い女に匹敵する鬼が出現することはなかった(そうでなければ、紅い女が孤独な支配者であり続けることもなかったはずです)けれど、雨香だけは紅い女に匹敵する存在に育った、という設定もあります。
それだけの力を持ち、なおかついい子に雨香が育ったのは、小田桐の愛情の賜物でしょう。
小田桐は愚かで、偽善的な正義感をふりかざして事件に首を突っ込んだ挙げ句に事態を悪化させることも多かったのですが、それでも確かに救われた者たちがいたことは、前巻で見せられました。そして何より、そんな彼だからこそ、おぞましい娘を愚直に愛し続け、ここまで育てることができたのでしょう。


そうそう、本作の場合、小田桐の恋愛相手となるヒロインはまた別にいたりします。
かつて小田桐に救われた、異能の一族・水無瀬の当主、白雪なのですが――彼女との関係もきっちり決着を見せます。
連れ子のいる厄介な境遇ながら、それでも尽くしてくれる女性との出会い――恋愛面も重さが普通ではありませんが、それも小田桐という男の成し遂げたことなのです。


B.A.D.  1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる (ファミ通文庫)
(2012/09/07)
綾里 けいし、kona 他

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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