オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
戦後への覚悟が足りない子供たちに
「僕にとって仲間とは、思い通りになるやつのことさ」とかもう、本音を言いまくってくれます。いや、紘汰たちとの関係が良好だった時には、自分でも「本音」がそこまでのものだとは、思っていなかったのかも知れませんが。
ユグドラシルがヘルヘイムの植物に呑まれて壊滅し、インベスが街に溢れ出た中、プロフェッサー凌馬も今や組織の体面も社会秩序も省みることはなくなり、全人類の6/7を抹殺する予定だった「プロジェクト・アーク」について世間に公開してしまいます。
そんな中、ビートライダーズたちが街をパトロールして、インベスを退治しています。その中心にいるのは戒斗です。
舞も、敵対関係にあったビートライダーズに元ユグドラシルの湊耀子までもが協力している現状を「戒斗がいたお陰だと」と言います。
人を惹き付ける求心力を持っていて、皆が協力しているのはあなたのお陰とヒロインに言われるのは、普通なら主人公の役割なのですが……
「力のある人が好き」で、戒斗を新たなリーダーとして認めた湊耀子は、紘汰にも「あなたは力をどう使うつもり?」と問います。ヘルヘイムから人々を救うというのであれば、「じゃあ戦いが終わった後は?」
そう問われて口ごもる紘汰に、耀子は言い放ちます。「あなたには覚悟が足りない。」「あなたでは戒斗には勝てない。」
「戦う必要なんてない」という紘汰は実際、甘いのです。知恵の実は勝ち残った一人にしか与えられないのですから。
ようやく、皆を救う力を手に入れるため戦い抜く覚悟を決めた主人公ですが、まだ甘い、ライバルに及んでいない、と。
戦いを終えて平和になったらヒーローはどうなるのか――これは少なからず問われる余地のあったことです。
ヒーロー物の終盤や後日譚でこの点に真剣に切り込んだ例もありますし、ライトノベル『最終戦争は二学期をもって終了しました』のようにそれを主題にしてしまうという手もありです。
しかし、『鎧武』はさらに問います。そもそも「戦いが終わった後のことまで含めて力の使い方を考えていないのは、ヒーローとして“覚悟が足りない”のではないか」――と。
「大人と子供」という『鎧武』の主題の一つから考えても、「いつでも下りられる」のは子供の遊びです。
仕事も辞めることはできますし必ず辞める日は来ますが、「終わった後のことは知らない」というのは無責任な人間の態度でしょう(そういう人間がどれほどいるかは別にして)。
戦いが終われば全ては解決し、その時点で下りるおとができる、というのはやはり、ゲームの感覚です。
自然災害としてのヘルヘイムという観点から考えても、自然の猛威が消えてなくなるとか完全に馴致されるというこは、考えにくいものです。
ヘルヘイムを支配できる力が手に入ったなら手に入ったで、その力の扱いを巡ってその後も多くの問題が生じてくるでしょう。
「戦いが終わった後のこと」は、考えておかねばならない課題なのです。
他方で、紘汰は食欲が無くなり、しかも食べ物の味をあまり感じなくなっている描写が。
知恵の実から採られた極ロックシードの影響か、人間をやめつつある気配が濃厚です。
味を感じなくなるというと思い出すのは『仮面ライダーOOO/オーズ』でグリード化しつつある主人公・映司の描写でしたが、映司は最後でグリード化を免れました。しかしむしろ、紘汰を待ち受けている運命は最終話で人間をやめた『仮面ライダー剣』の主人公・一真の運命のような気もします。
いずれにせよ、未来永劫に渡るヘルヘイムの力の管理という問題に絡んで、紘汰がもはや「戦いが終わった後で平穏な日々に戻る」ことはできなくなることを、はっきりと予感させたのでした。
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