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青春の真剣なる道――『王手桂香取り! 2』

今回紹介するライトノベルはこちらです。
2月に発売された電撃小説大賞・銀賞作品の2巻目になります。

王手桂香取り! (2) (電撃文庫)王手桂香取り! (2) (電撃文庫)
(2014/06/10)
青葉優一

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 (前巻の記事

ゲーマーズ購入特典は4ページの書き下ろし小冊子。
軽い日常エピソードですが、主人公と駒娘の絡みがメインなのは、2巻を読み終えてみると懐かしい気もしたり(後述)。

さて、前巻で中学校将棋団体戦の東日本代表決定戦を制した(あゆむ)たち、今回はいよいよ決勝大会に挑みます。
しかし、西日本代表には、1巻のライバルであった二階堂が一度も王手すらかけられなかったという怪物級の強さの中学生・西本がいるとのことで……1巻の最後で、ついに駒娘の中でも最強の王将(女王)が登場という、新人作品にしては割と露骨な引きになっていました。

というわけで、今回は当然、あゆむが女王の特訓を受け、最後で西本と対決という流れになります。
最強の女王が出てきた以上、1巻で出ていた3人の駒娘の影が薄くなるのは予想された通りで(元々、香車以外はいまいち存在意義が弱いところがありましたし)、残念と言えば残念。今後続いたとして、まだ出ていないその他の駒娘たちの出番があるかどうかも心配です。

ただ、女王に関しては天上天下唯我独尊な性格で他の駒娘たちの恐れる存在……のはずが、甘い物が好きで、昔大切にしてくれた人を想っていたりと、可愛いところを見せます。
400年を生きている付喪神の人間に対する想いはいかなるものか……と考え始めると重いテーマにもなりそうですが、その辺深入りしないのも、作品全体のバランスからするとちょうど良いのでしょうね。
将棋に関しても、最強とは言え他の全ての上位互換というわけではなく、「攻撃は最大の防御」ということで攻め重視という明確なスタイルもあり、その教えがあゆむvs西本戦にも繋がっていて、良かったかと思います。

本作はあくまで将棋を軸にした青春物で、将棋部の先輩・大橋桂香に対するあゆむの恋という要素もあり、今回は桂香とのデートにもこぎつけますが、穏やかで微笑ましいものです。
デートの行く先々で駒娘たちが好き勝手やっているというコメディも、ライトノベルのギャグとしてはかなり控え目。

他方で、今回ではプロ棋士を目指して奨励会に入るかどうか、という将来の話も出てきますが、この点に関してはいずれの登場人物もその道の厳しさをよく理解した上で真剣に考えており、中学生とは思えません。
とは言え、奨励会の年齢規定を考えると、本来このくらいの年齢で考えておくべきことなのかも知れず、何とも厳しい世界です。フラフラしてばかりの三十路から見ると眩しい限りです。

さらに、桂香の父であり史上最強とも名高いプロ棋士・大橋名人も登場。イベントでハンデ付きとは言え、あゆむ・桂香と対戦までします。
この大橋名人も、そして敵として対決する西本も好人物揃いで、礼儀や取り組む姿勢の真剣さまで含めて将棋、ということなのでしょうか。
結果、作品の印象は実に爽やかです。

対局に関しては相変わらず、棋譜がないこともあり詳細な状況は分かりません。
分かったとしても私には判断できませんが、将棋経験が少しあるくらいの読者であっても、作中で繰り広げられている戦術がどれくらい伝わるものなのなのでしょうか。

しかし、対局の緊迫感は実に見事に伝わってきます。
登場人物の強さ――「ここでこの一手を指せる凄さ」というのも何だか分かった気にさせられますし、前巻では相手のミスにも助けられたあゆむが、今度は油断せず、自力で「神の一手」を見出せるまでになったことで、彼の成長もよく分かります。
それでも万事上手くは行かない締めまで含めて、素晴らしい青春模様でした。

さて、今巻にて中学校将棋団体は終了。桂香が部活を引退するので、今後同じチームで団体戦に出ることはなさそうです。
今後は個人で出場する大会、そしてプロ棋士への道がメインになっていくのでしょうか。

ですが、その前に、桂香とあゆむが組んでペアマッチ出場があるようです。
ペアで一手ずつ交互に打つというペアマッチ……恋愛要素と将棋が密接に結び付いた話になる可能性もあり、これまた楽しみです。


なお、同日発売の『電撃文庫MAAGAZINE Vol.38』収録の短編「昨日の敵は今日の友」は、時系列的には1巻途中の話です。最初に主人公が駒娘の力を借りて倒した相手、小学三年生の相良純一との交流がメイン。
「嫌な奴」として妥当されてそれきりだった純一のその後が描かれ、少し態度を改めたところも描かれたのが良かったですね。

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