オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
トリヴィアルな知識もネタに活用して――『人生 第8章』
来月にはアニメ放送開始予定の『人生』8巻です。
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(前巻の記事)
アニメ公式サイトはこちらですね。
巻数としても同作者の前作『邪神大沼』シリーズに並びました。
さて内容としては、主人公の赤松たちが2年生に進級します。入学直後から始まっていたので、作中で1年経ったことになります。
実はこれまで、第二新聞部の部員は赤松と部長の彩香だけで、相談員の4人は部員ではありませんでした。
他は幽霊部員で部に必要な部員数をまかなっていましたが、年度変わりに伴い幽霊部員たちが一度も登場しないまま卒業、部員数を満たすため、4人の相談員が(ようやく)入部します。
しかし、生徒会長・白河香織の嫌がらせによって、各学年から最低一人は部員を確保せねばならないという新ルールが制定、新入生の部員を確保する必要に迫られます。
苦労の末に見付かった新入部員候補は、モルドバから来た留学生、アリーナ・チェリビダッケ。
例によって、お悩み相談コーナーが彼女を助けることになります。
そんなわけで、彼女が今回表紙を飾っている新キャラです。
ストーリー的にも、前巻は梨乃とのラブコメが中心に来ていましたが、香織との対決が戻ってきて、今まで通りという感じです。
ただ、4人目の相談員である絵美(芸術系)でさえ、馴染みきっていない感がある中、さらに新キャラを出して大丈夫なのかという思いもありましたが……今回のところ、彼女はクライアントの一人という扱い(しかも、中盤になってようやく登場します)。
次巻以降もレギュラー化したとして、彼女の立場は相談員とは違うものになりそうですし、未知の部分が多いですね。
彼女の持ちネタはモルドバネタ。
もちろん、モルドバ人はこう……というのは、理系・文系・体育会系・芸術系のタイプ以上に無理のある偏見であって、彼女自身がかなり変な子であることは間違いないのですが、モルドバがどんな国かアピールして、誰も全く知らなかったり。
扉絵ページからして、「モルドバあるある」(もちろん聞いたこともない)で始まっています。
しかも、ネタとして使われるモルドバ豆知識は一応本当なんですね。
あらすじにも登場する「チンポイ」という楽器も実在します。
「チンポイ。モルドバでは超メジャーです。袋と棒でできていて、棒をくわえて吹くのです」
(川岸殴魚『人生 第8章』、小学館、2014、p.138)
こうすると下ネタに聞こえる不思議。
今まで下ネタこそ稀でしたが、こういう自然な聞き違いや誤解を利用するギャグこそ本作の真骨頂でしょう。
今まで、作者の知識がさり気なく駆使されたネタは梨乃の理系ネタに多かった印象ですが、今回は新たな分野で実にマイナーなトリビアを振るってきます。
ただ、今後ネタが続くかどうか分かりませんが。
レギュラーキャラに関しては相変わらず。梨乃は純情で可愛く、科学話を始めると止まらないのも今まで通り。いくみは今まで通りアホな奇行の数々でネタを牽引します。ふみの妄想と歴史好きも揺るがず、中でも孫子の兵法で亀をいじめる子供たちを蹴散らし、竜宮城行きを断った挙げ句に亀を売りさばく「情報強者浦島太郎」の話は情報の重要さを分かりやすく伝えているのか何なのか……
上で馴染みきっていないといった絵美ですが、マイペースな語りは独特の味があるものの、奇人はすでに揃っていることもあって、すぐに脱ぐネタに走っている印象が強いです。これも微妙な立場の芸人らしいかも知れませんが……。ただ今回、ストーリー上で彼女は画力を活かして結構活躍します。能力的には高い各分野のエキスパートが揃っていることを実感させてはくれますね。
それにしても、「恋のマイアヒ」は通じませんかねえ……(これがモルドバネタの一つとして登場します)
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―――
なお、今巻と同時に、松山せいじ氏によるコミカライズ版の単行本1巻も発売されます。
ライトノベルのコミカライズというのは、新人漫画家に割り当てられることの多い仕事ですが、実績のある漫画家の起用はどういう事情によるのでしょうか。
連載開始時に読んだ印象では、ボケたのと同じコマではなくて次のコマでツッコんでいることが多く、若干テンポの悪さを感じました。
原作イラストのオマージュになっているカットがあちこちに見られたりで、原作へとリスペクトと力の入れ具合は分かるのですが、原作のコントに絵を付けただけで漫画としては中途半端という印象もなきにしもあらず。
ただ、原作の性格が、コント的な掛け合いがほとんどというものだけに、絵にすることの難しさは理解できるわけで、これも一つの形なのかも知れません。
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イメージし難きを支配する――『人生 第九章』
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