オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
『All You Need Is Kill』(漫画版)
牛レバーの代わりに提供…豚レバーの生食禁止へ
豚は寄生虫がいるから、筋肉だって生では食べないというのが常識で、さらにレバー(肝臓)は腸で吸収されたものが最初に行くところで、動物の種類を問わず生食は危険に決まっているのに……
豚レバーの生食用提供が今まで禁止されていなかったのは、食べないのが当たり前だからです。
それをわざわざ禁止しなければいけなくなるとは、ふつうならばそこまで酷いと思われていることで飲食店業界が怒ってもいい場面ですが、本当に豚レバーを生食用に提供している店が「都内に少なくとも100店程度」もあるとしたら、モラルハザードが深刻と言わざるを得ません。
豚を解剖すると腸内にどれくらいたくさんの寄生虫がいるかよく分かる、あれを見るととても……という話を聞いたことがあります。
この際、そういう知識を持っておくのも意義がありそうです。
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さて、今回取り上げるのはこちらの漫画。
刊行から10年を経た名作ライトノベルのコミカライズです。今になってのコミカライズは、ハリウッドでの映画化(7月4日公開)に合わせて、でしょうか。
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(原作についての記事)
作画は小畑健氏。作品の話題性に応じてか、さすがの大物起用です。
ストーリーはほぼ原作通り(小説では全1巻が漫画では全2巻)――せいぜい、ギタイの正体といった主人公たちの知らないことについては割愛されているくらい――なので、それほど語ることはありません。
人類が「ギタイ」と呼ばれる謎の生物と戦争を繰り広げている世界で、少年兵キリヤ・ケイジは戦場で死に、出撃前日に戻されるというタイムループ現象に巻き込まれます。
ループを繰り返す中、経験を積んで圧倒的な強さを身に付けていくキリヤ。
そんな中、対ギタイ戦争で英雄的な活躍を続ける少女、リタ・ヴラタスキもループ経験者であることを知り、両者は接近していくのですが……結末は苦く哀しく、それゆえに名作です。
作画当然ながら素晴らしく、戦闘シーンも迫力があり、アメリカ色の強い軍隊の雰囲気もよく出ています。
登場人物もヒロインのリタに、

(桜坂洋/小畑健『All You Need Is Kill 1』、集英社、2014、p.22)
いささか軽薄な感じの先輩・ヨナバル伍長、

(同書、p.9)
それに戦闘トレーニングではキリヤの師になるフェレウ軍曹と、概ねよくイメージを押さえています。

(同書、p.98)
想像以上に可愛らしい感じのリタも、漫画として読んでいると馴染んできます。
それから何より、ループを繰り返す中でキリヤが淀んだ表情になっていく描写がお見事。

(同書、p.141)
ただギタイだけは、「カエルのよう」と描写されていた原作とは大分イメージが違います。

(同書、p.60)
棘皮動物(ウニ、ヒトデ等)を原形としているという設定の方に合わせたのかも知れません。
この足だとあまり動きは速くなさそうですが、高速で動いている場面もあるにはあります。

(桜坂洋/小畑健『All You Need Is Kill 2』、集英社、2014、p.37)
今読んでももちろん名作なのですが、奇しくもちょうど原作発表から10年、時代の変化を感じる面もあります。
たとえば、本作のループのモチーフは(東浩紀氏の批評なども引用して見てきた通り)ゲームのリプレイです。
ゲームプレイヤーはリプレイを繰り返すことで腕を上げることができる代わり、周りはNPCばかり、そうして繰り返したリプレイの時間の努力を共有するものはなく、絶対的に孤独です。
しかし今や、ゲームと言えばオンラインゲーム全盛の時代になりました。
ライトノベルでもオンラインゲームをモチーフにした作品が数多く存在します。
オンラインゲームにおいては、現実に生きているプレイヤーが他にも存在しますし、それどころかゲームがコミュニケーションツールとして使われることもあるくらいで、もはやプレイヤーは孤独な存在ではありません。そして、仮にゲーム中で臣でも復活できるシステムだとしても、ゲーム中での死は他のプレイヤーも共有している出来事であって、決してなかったことにはなりません。
10年一昔、一つの時代が画された感はあります。
もちろんこのことは、本作が「時代遅れ」になり価値が下がったことを意味するのではありません。
むしろ、こうした視角から見ることにより、「ゲーム的ループ」や「ゲームプレイヤーの孤独」といったテーマがいかに固有の時代の文脈に結び付いていたかを、今まで以上にはっきりと見て取ることができるでしょう。完全に時の文脈を超脱した作品など決して存在しないのですから、それはむしろ、正当な評価に結び付くことなのです。
―――
合わせて原作も、小畑氏のイラストで新装版が出ましたね。
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