オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
魔法使いは忌むべきものか…――『不本意ながらも魔法使い』
『ウは宇宙ヤバイのウ!』で鮮烈なインパクトを与えた宮澤伊織氏、一迅社文庫ではそれに続く2冊目の作品です。
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今作はいわゆる「剣と魔法」のファンタジー作品で、普通の高校生である主人公・天道戒(てんどう かい)が異世界に召喚されるところから始まります。
この異世界では「人間の魔法使い」は希少なのですが、異世界から召喚された人間は優れた魔法使いとなる素質を持つということで、戒も魔法使いとして召喚されたのでした。さらに戒は彼を召喚した大魔法使いマガダリアスの膨大な魔法を託され、その結果として7人の魔王に狙われることになります。
誓約によってマガダリアスに従わされていた二人の少女戦士、アーシュラとシルカに助けられて、報酬を貰いに王宮に押しかけたり、魔王の追手と戦ったりしつつ、二人を誓約から解放することを目指す戒ですが……
スラップスティックなハチャメチャSFであった『宇宙ヤバイ』の印象から一転、筋も語り口もまともなバトルファンタジーで、その分、随分と大人しくなった印象もありました。
しかしそんな中でも強烈なのは、マガダリアスの設定です。
人間の国が七つの魔族の国に包囲されているという厳しい状況の中、魔法使いこそ魔族と戦う人間の守護者……とされているのですが、実はマガダリアスこそ最大の外道で諸悪の根源です。
これは序盤の台詞から容易に読めることなので明かしてしまいますけれど、戒がこの世界に召喚されたのも、実は老いたマガダリアスがその肉体を乗っ取って新たな身体とするためでした。普通ならこれこそ魔物の所業です。
人間の守護者どころか、この世界の厳しい状況からして、マガダリアスが元凶だったりしますし……。
そんなマガダリアスですが、さすがにその魔法は強力無比で、魔王にも対抗できますし、作中に登場した数個の魔法からしてチートと言える代物でした。
しかし、戒はその魔法を譲り受けたものの、使い方が分からないという状況。
もちろん、戒が魔法を使えるようになれば大概の局面は何とでもなる設定なのですが、そこに上述のマガダリアスの設定も絡んで、クライマックスのバトルも「主人公覚醒」とは一味違う形になっています。
王宮の権力を握る貴族が「これからは鉄と火薬の時代だ」と声高に宣言し、魔法使い依存からの脱却を目指すのも、マガダリアスに手を焼いていたことが理由の一つであることは否めないでしょう(そうでなくとも、王宮で権力争いをする連中が元々厄介なもの、というところもきっちり描かれていますが)。
その上、たとえマガダリアスに乗っ取られなくとも、このままだと戒は魔法に呑まれて消滅する惧れがあることも示唆されています。
魔法は必要悪なのか、それとも脱却すべきものなのか、あるいは善くすることもできるのか、いやそもそも脱却は可能なのか――
この巻で魔王の一人を倒すところまで進んだものの、まだ魔王は6人残っていますし、どうなったのか不明な点も多々残されていますので、今後この設定をどう活かすかによって、評価が決まってくるでしょう。
主人公の戒は、(マガダリアスから誓約を含む全ての魔法を譲渡されたので)命令すれば従えることのできる二人のヒロインを解放しようとするなど好人物。
ヒロイン二人はというと、「です」口調のアーシュラは蛮族出身でやたらと魔法使いを恐れており、何かと戒を殺そうとします(定番と言うか、後半には徐々に態度を和らげて好意を抱きそうなところを見せますが)。元盗賊のシルカはノリが良くて口が上手く、魔法使いに憧れて魔法を学んだこともありますが、モノにならなかったとのこと。結構ハードな設定の中で楽しいノリを見せてくれる二人も見所です。
ところで、アーシュラとシルカの設定のモデルは『ファファード&グレイ・マウザー』の主人公というのは有力のようですが……まあ元ネタの詮索は詳しい方に任せましょう。
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