オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
自然の猛威との不幸な出会い――『羆嵐』
今回は古典――というほどでもありませんが、ちょっと古い小説を取り上げてみましょう。私が生まれるより前の昭和57年に発表された作品です。
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最初に言っておきますと、本作は実際に起こった日本史上最悪と言われる熊害(ゆうがい)事件、三毛別羆事件を描いたルポルタージュ小説です。
なお「羆」は「ひぐま」ですが、本作のタイトルは「くまあらし」と読みます。
舞台は大正3年、北海道北西部の天塩(てしお)山地、六線沢にある貧しい開拓民の村です。
明治44年に東北地方から北海道に入植してきて4年、村民たちは厳しい環境の中で苦しい暮らしを続けてきました。
そんな中、雪の積もり始めた11月下旬、クマが村に現れます。
最初、トウキビが食い荒らされて足跡が残っているという程度だと、まだそこまで慌てていなかった村人たちですが、クマが家に押し入って一家を殺害、妻の死体を持ち去るという事件が起こって、状況は一変します。
鉄砲を持った男たちがクマを撃ちに山に入るも、普段扱っていない鉄砲は肝心な時に火を噴かず、かろうじて逃げ帰ってくることになります。
勇ましく救援にやって来た警察と他村の者たちも、クマの痕跡を見ただけで動揺、まるで襲われたかのように逃げ帰ってくる有り様で、どこまで期待できるものやら……
そこで、素行が悪く酒を飲んで暴れるので皆から嫌われていた凄腕のクマ撃ち猟師、「銀オヤジ」こと山岡銀四郎を呼ぶことになるのですが……
住民全員が村を捨てて逃げ出すことになり、不慣れな者たちが何十人銃を持って行っても仕留めることができないクマはほとんど人間の力の及ばない怪物のよう。そんなクマの脅威と、最初は恐ろしさをよく認識していなかった村民たちが次第に恐れに呑まれていく過程、そしてそんなクマを狙って山に入るプロフェッショナルとしての銀四郎の凄みは圧巻です。
普段はただの乱暴者としてしか認識されていなかった銀四郎の猟師としての顔が明らかになる流れも、王道ながら見事なものです。
人間がバリバリとクマに食われているような凄惨なシーンでさえ、文章は比較的淡々としていますが、それも冬山の冷たい空気によくマッチして、えもいわれぬ迫力を醸し出しています。
これはおそらく、ヒグマのことをよく知らない本州からの開拓民とクマとの不幸な出会いだったのでしょう。
地震や津波のように大規模ではありませんが、自然との付き合い方を間違えた時の恐ろしさを見せてくれる話でもあります。
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ところで、手の付けられない怪物たるヒグマに挑む凄腕の猟師という展開は下記の漫画にもありましたが、念頭に置いているものがあったのでしょうか。
まあ、この漫画のヒグマドンは本当に巨大怪獣ですが。
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