オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
ようやく無印のテーマに還る時、か?――『修羅の門 第弐門 13』
『修羅の門 第弐門』の13巻です。
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(前巻の記事)
前巻で主人公の九十九がトーナメントの決勝進出決定、そして今巻では決勝で当たるライバルと目される姜子牙が、かつて九十九と戦った相手の一人、プロレスラー飛田高明と準決勝で対決します。
姜子牙は「アンタッチャブル」の異名を取るほどのスピードの持ち主で、一回戦でも攻撃を受けることなく圧勝しています。このトーナメントの前の場外乱闘では、山田さん(自称)という強者と戦い、触れられてはいますが、決着がついていないこともあり、本領を見せるには程遠い内容でした。
他方で飛田は投げ、関節技の達人。と来れば、飛田が姜子牙を摑まえて組み技に持ち込むも、飛田得意の組み技を破る力を姜子牙が見せる……というのが王道ではあります。
しかし……飛田は一度膝を壊して引退した身で、現役復帰したこのトーナメントでも一回戦で膝をひどくやられています。
普通に考えれば姜子牙を摑まえられるはずはありませんし、摑まえたらその時点で「アンタッチャブル」姜子牙の株は下がるだけ、飛田は健闘を評価されます。いくら本人が「怪我を言い訳にはしない」と言っていても、読者はそう見ます。

(川原正敏『修羅の門 第弐門 13』、講談社、2014、pp.44-45)
この漫画で猪木アリ状態を見ることになろうとは……
飛田にとって、因縁の相手であるサンボ王ペトロフとの対決は一回戦で終了しており、観客もこの一戦だけを見に来ているわけではないから、というのもあるのでしょう(解説をしている舞子の母も「これがメインでこれだけを楽しみに客が来てる試合ならやっちゃダメだけど」と言っています)。
無様でも足掻いて勝機を求める……これは圧倒的不利な立場にある者なりの戦い方、ということでしょうか。
姜子牙の使う「発勁」の性格や彼の体重の軽さもあって、寝た相手に対する顔面蹴りありのルールでも飛田なら粘れるのは事実。
しかし、たとえこの体制で、なおかつ姜子牙が積極的に攻めてきても、やはり「アンタッチャブル」がそう捕まるはずもありません。
そもそも、エクストララウンドのルールまで考えれば、これで最後まで粘り続けることはできませんし……しかしさすがは飛田、これを布石にして、食い下がるところを見せてくれます。
それに、戦いぶりに劣らず印象深かったのは、試合後に感動して泣いているセコンドに対して飛田の言った台詞「戦う気のあるやつは 身内が負けたら 悔しがれ」(同書、p.129)でしょう。
引退するなら「やるだけのことはやった。満足している」でもいい。ファンは「負けてもナイスファイトだった」と応援してもいい。けれど、これからも戦う者が負けて悔しがらないようでは、どうして強くなれましょうか(これは勝ち負けを競う競技である限り、何でも言えることです)。
無様でも何とか勝ちに行こうとする飛田の闘志をよく現した台詞でした。
そして、いよいよ決勝戦に。
ここでようやく、姜子牙が殺し屋の一族である呂家(ルゥジア)の出身であることが強調されます。

(同書、p.146)
九十九も、南米での死闘で重傷を負って、そこから目覚めてからずっと、そんな相手との闘いを求めていた模様。
この漫画のテーマは殺人拳であり、陸奥の好敵手は人殺しであることが求められました(それは1000年に渡る歴代陸奥の戦いを描いた外伝『修羅の刻』でも同様、それどころかいっそう顕著です)。
けれども、現代において人殺しが堂々と出歩いていることは多くありません。
無印『修羅の門』の場合、第二部・神武館トーナメントの決勝の相手は、陸奥の分家に当たり、しかも暗殺などの闇の仕事を請け負ってきた不破の当主・北斗でしたが、彼はまだ殺人の経験はありませんでした。
第三部・ボクシング編のアリオス・キルレインは試合で相手を死に至らしめたことがあったものの、あくまでボクサーであって決して狙って人を殺す技を使えるような人物ではなし。第四部ブラジル・バーリトゥード編のレオン・グラシエーロは殺す気で戦って人を殺せる(そして殺した経験もある)人物でしたが、グラシエーロ柔術そのものはそこまで人殺しの技という感じではありませんでした(モデルがグレイシーですし)。
そして無印の最後で九十九は歴戦の傭兵たるケンシン・マエダに挑みに行った……はずですが、その詳細と結末は不明なまま、今のところ、九十九が深手を負ったということだけが判明しています。
また、殺人拳の専門家たる姜子牙との対決は、繰り返し言われてきた九十九が「壊れている」という評に対する答えをも見せてくれるのではないか、と思われます。
2年前にケンシン・マエダとの戦いで深手を負った九十九は、最近までリハビリを進めていたわけで、大技の虎砲にしても実戦の場面になってはじめて「出せた」のだろうと言われています。
殺し合いになり、内に眠る修羅を目覚めさせる場面になってようやく、「かつての力を完全に取り戻せたのか」の最終的な答えが与えられるはずです。
「壊れている」ということの具体的な内容は、――今までも相手に全力を出させたがる九十九でしたが、今まで以上に――リスキーな戦いを繰り返す、ということだと言われていました。
これと上の話はもちろん別物ではなく、あまりにも相手に合わせてリスキーな戦いを行うのは、殺し合いという極限の場面に相応しいのか、ということです。
さて決勝戦に期待。
それはそうと、このトーナメントが終わったらその後はどうなるのでしょうか。
総合格闘技との戦いも一通り描いた感があるので、続けるとしたら総合のファイターとは別の相手と戦うのが王道パターンですが……
でもその前にそろそろ、2年前のケンシン・マエダ戦の詳細を明かして欲しくもあり。
それから九十九との再戦を狙うライバル、海堂と片山の対決がどうなったのかも。
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