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野菜を得るための戦い――『菜娘ハンター・リュウ』

読もうと思っている作品に限って読み進まなかったりする中、今回取り下げるライトノベルはこちらです。

菜娘ハンター・リュウ 第1巻 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)菜娘ハンター・リュウ 第1巻 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
(2014/07/03)
リタ・ジェイ

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作者のリタ・ジェイ氏は確か、本職はお笑い芸人という触れ込みで、『青春サイバーアクション漫才ハードボイルドコメディな転校生』(スマッシュ文庫)で作家デビューした人物と記憶しています。その後MF文庫Jで『絶対調和☆御裏崎ちゃんっ!』(2巻まで)といった作品も書いていましたが、今度は新興レーベルぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズでの登場です。

そして今作のテーマは「野菜」です。
何しろ裏表紙にはピーマン、目次にはチンジャオロースーの写真が載っています。

菜娘ハンター・リュウ 裏表紙

菜娘ハンター・リュウ 目次

目次に食べ物の写真が載っていたライトノベルは、管見に入った限りでは過去に『ごはん食べたい!』くらいでした。

主人公は野菜好きの男子高校生・板橋流(いたばし りゅう)
ある日、街から野菜が消えて、ラーメン屋に行ってもタンメンにモヤシが3本しか入っていないという惨状が発生します。流が思いを寄せる女の子、料理同好会の素原結衣(もとはら ゆい)も食材がなくて困っているのを見て、小さな祠にお参りをしたところ、異世界に飛ばされます。

この異世界は「菜の国」
「菜の国」の住人が呪われた鎧に取り憑かれ、「菜娘(なこ)となったのが、人間の世界で野菜が消えた原因であり、流は野菜を強く求めていたがゆえに、「菜者(サイファー)として菜娘を倒すべく呼ばれたのでした。
彼のいわば相棒にして武器となるのはキリハ人間世界では包丁ですが、「菜の国」では幼女の姿(中盤から人間世界でも人型になれるようになります)、そして戦う時には刀に変身します。

人間でないものに美少女の姿と人格を与えることは「萌え擬人化」と呼ばれたりしますが(正確に言えば、「擬人化」というのは「人に見立てること」であって、完全に人間と変わりないようにしてしまうことではないのでは、という疑問もありますが、まあすでに人口に膾炙している用語ですので)、本作の場合、野菜と包丁の二つが「萌え擬人化」を被っているわけです。
常識に疎い無邪気な少女が日常生活に波乱を引き起こしたり、敵の少女が倒されて改心すると一気に主人公に靡いたりという定番も押さえています。

また、敵である菜娘のモチーフが野菜なので、野菜の下拵えの仕方が敵の倒し方のヒントになるというアイディアもユニークです。

その他にも、剣術道場の後継ぎたることを期待されるものの、自分がそれに相応しいとは思わず、剣の道に距離感を感じている主人公の葛藤やら、結衣のことを巡る悩みあり、さらにはキリハの方にも過去の因縁等があって(刃物でありキリハは「菜の国」の住人とはまた別の存在です)、見所たるはずの要素は多いのですが、問題は、情報の出し方にちぐはぐさがあって、どこに注目していいのか分かりにくく、問題解決のカタルシスも微妙なものになっていることです。

たとえば、刀となったキリハを手にした流は、最初から見事な戦いぶりを見せます。自分の力に驚いていたりする描写もなく冷静なので、彼が元々腕の立つ人物であったことは分かります。
しかし、そこまでに描かれていた彼の人物像はまずは「野菜好き」に関するもので、剣に関しては剣道部員の幼馴染から「お前がいなければ我が部は」と熱心にスカウトされる場面が少しあるくらい。もっと後になってようやく流が剣術道場の息子であることが説明されます。
では本作は、「主人公がどんな人物か」徐々に明かされていくところに見せ場がある作品なのか。そうでもありません。謎を抱えた人物は他にも多く、この上主人公まで「謎」を持つことがそんなに重要とは思えないのです。

つまるところ、流はこと剣に関しては、不当に自己評価の低い人物です。失踪した兄の方が道場の後継ぎに相応しいと想っているから自分を認めることができないのか、それ以外にも剣を振るうことに関して後ろめたさがあるのか、あまり剣士としての自分をよく思っていません。
そんな彼が剣を受け入れ、剣士としての自分を受け入れるようになる成長が終盤のドラマであり、それはキリハの方が「刃物としての自分を受け入れること」とも重なり合うはずなのですが、これまた彼らの葛藤の何が解決されたか今ひとつよく分からない展開でして……

結局、「主人公の葛藤とその克服」といった題材は考えていても、それをいかなる手順で見せていくのが効果的か、という点が甘いとしか思われません。

主人公が口数が少なくクールな印象なのはまあ(流行りではないものの)いいとして、そのお陰でボケキャラのボケは放置気味になっており、日常シーンもコメディという雰囲気はそれほどありませんし――いずれの角度から見ても魅せ方の弱さを感じます。

それから問題は、肝心の野菜の描写美味そうな描写に乏しいのです。
主人公が求めるものが簡単に手に入ってはドラマとして盛り上がらないので、美味い野菜になかなかありつけないのは仕方ないことですが、食べることのできた場面にも少々疑問を感じます。

 ――適度に湿って湿気が抜けたふりかけご飯も俺の好みだ。ゴボウを噛むごとに染み出す甘辛さと、米を噛むたびににじみ出る甘味が合わさる。このふりかけは雪原に撒かれた落ち葉。そして下に埋まっているのはゴボウか。今俺は雪の下にあるゴボウを掘り当て、大地そのものを味わっている――
 (リタ・ジェイ『菜娘ハンター・リュウ』、ポニーキャニオン、2014、pp.13-14)


食べ物以外に喩えている描写が大半で、味わいの描写は実はそれほどありません。
そもそも人間の味覚は5種類の味しか区別できず、微妙な味わいの違いは匂いや食感に依存している部分が大きいので(匂いに関しては、実は100種類以上を区別できるとか)、“味”の描写というのは不適切かも知れません。実際、上の引用文にも甘いとか甘辛いとかの表現はありますが、それだけではやはり物足りないのです。
では(たとえばこの巻で主題となる)ピーマンの美味さとはどんなものかと言われても、表現するのが難しいのは分かります。しかし、難しくともそれがないと、野菜が手に入るありがたみも伝わりません。

その点、『ベン・トー』の描く半額弁当は実に美味そうで、それがテーマを活かしていました。


イラストはやけに数が多く、質も高く効果的に使われています。それは申し分ないのですが……


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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