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あまりに多くを背負わされた子供たちに――『深き迷宮と蒼の勇者 -銀閃の戦乙女と封門の姫外伝』

今回取り上げるライトノベルはこちら……と言っても、これは復刊作品なので、今までも内容に触れてきたことのある作品です。
復刊なので発売日も一迅社文庫の通常の発売日(毎月20日頃)とは異なります。

深き迷宮と蒼の勇者 -銀閃の戦乙女と封門の姫外伝 (一迅社文庫)深き迷宮と蒼の勇者 -銀閃の戦乙女と封門の姫外伝 (一迅社文庫)
(2014/08/02)
瀬尾 つかさ

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本作は一迅社文庫から刊行された『放課後ランダムダンジョン』の改題および加筆訂正版です。

元々同作者のこの世界観のシリーズはこれが発端で、『魔導書が暴れて困ってます。』シリーズを経て、作者としては眺めのシリーズになった『銀閃の戦乙女と封門の姫』は世界観を受け継ぎ過去作品の登場人物が出演したばかりかラスボスまで『ランダムダンジョン』と同じで、最後は続編という色彩の強いものになりました。
とは言え、『銀閃』は1巻でそれなりに纏まった話でしたし、『ランダムダンジョン』のラスボスの存在を匂わせたのは3巻なので、本作が『銀閃の戦乙女と封門の姫外伝』となるのはあくまで後からのことなのですが。
同じレーベルで4年経たずして(インターネット書店にはまだ在庫があったりします)の復刊という比較的珍しい事態も、同一世界観の集大成的な『銀閃』がそれなりの成功を収めて完結したのでこの機に、ということなのでしょう(後は、『魔導書』『銀閃』とイラストレーターを揃える形にもなりましたが)。

さて、本作の舞台は23年前に様々な異世界に繋がる「妖精門」が地球各地に開き、そして5年前にそのすべてが閉じるという「ゲートブレイク現象」があった世界です。
かつて異世界に通じていた妖精門のところには、「迷宮(ダンジョン)が出現していました。
しかも、異世界はいずれも魔法の存在する世界ですが、異世界人と地球人の混血は、純血の地球人よりも強い魔法力を持ちます。異世界との交流が始まったのが23年前ですから、ハーフの多くはまだ10代。しかし少年少女たちは、迷宮の向こうに親しい人たちの住む世界があると信じて、日々迷宮に潜っているのでした。

主人公の法鷹和馬(のりたか かずま)は高校2年生。エアリア界人と地球人のハーフで天才魔法使いと言われ、幼くして数々の戦いに身を投じた彼ですが、ゲートブレイク現象以降、異世界人の住む「特区」を離れ、普通の日本人として生活していました。
しかし、友人の呼び出しで5年ぶりに特区を訪れた彼は、一人の少女と出会います。彼女――あかり・クラインはドルーダ界人と地球人のハーフで、そして和馬のかつての仲間、アーサー・クラインの娘でした。

和馬が特区に呼ばれたわけは、迷宮の奥で「法鷹エーリエ」を名乗る少女が発見されたからでした。
確かに和馬にはエーリエという名前の腹違いの妹がいました。しかし、彼女は7年前に母方の故郷であるノラス界に行ったままのはずでした。しかも、今回迷宮で発見された15歳のエーリエは、自分はずっと練馬の家で暮らしてきたと言うのです――その住所は和馬の家であるにもかかわらず。

本作には色々な要素が詰まっています。
まず、「迷宮」はそれぞれの階層(フロア)が大地があり空のある独立した亜世界で、階層から階層へと移動する「階段」は要するに空間転移のゲートです。そして「階段」は潜るだけの一方通行で、テレポートの魔法で脱出はできるものの入るたびに違うところに出る――要するに、これはいわゆるローグ系のゲーム、日本では「不思議のダンジョン」として知られているものです。
降りてきた階段が消えるといったシステムに空間転移系の魔法で説明を付けた格好ですね。

そして、異なる異世界はそれぞれ異なる魔法体系を持っています。これは異なるゲームのシステムを念頭に置いたもので、要するに本作は異なるゲームの登場人物たちが揃ってダンジョンに挑むスーパーヒーロー大戦です。

それから、偽記憶を持ったエーリエに関する終盤の謎解きはかなり唐突で、ダンジョン攻略から世界の危機へと怒濤の勢いで話が動く辺り、詰め込みすぎを感じました。
しかし考えてみれば、様々な世界から精鋭が集って世界の危機と対決、というのはそれこそスーパーヒーロー大戦的設定に相応しい展開です。その流れが「スーパー瀬尾つかさ大戦」たる『銀閃』に続いていると思うと、納得できる思いです。

それから、ドラマとしては、それぞれに仲間を失うという経験として戦いから遠ざかっていた和馬とあかり、そして自分の記憶が偽りだと知らされアイデンティティを揺るがされたエーリエの3人が、仲間を見いだすことで立ち上がるのが見所です。
これは上述の、混血児は強い魔法力を持つという設定とも関わっていて、この世界の子供たちは大人より強大な力を持ち、大人の力が及ばないことに挑むことを求められています。
しかも、迷宮攻略に必要な装備品にはお金もかかりますが、迷宮で物資を採掘してくればそれだけのお金は稼げてしまいます。子供たちが危険な仕事に従事して何百万何千万の大金を稼ぎ、使うことが求められる世界――通貨は日本円のままだけに、その歪みは一目瞭然でしょう。

中でも、和馬はサラブレッドとして生まれ、幼少時から数々の危険な任務に従事してきましたし、あかりはドルーダ界で「勇者」と呼ばれる固有のアンチマジックスキルを持った一族の出身です(元ネタは『ドラゴンクエスト』の「凍てつく波動」)。

血筋ゆえに余人にはない力を与えられ、「お前しかいない」という立場で幼くして余りにも重いものを背負わされ、それゆえに「力ある者の責務を十分に果たせなかった」という苦しみをも抱え込んで、一度は潰れかけた少年少女が、仲間に頼ってふたたび立ち上がり、自分を肯定できるようになるまで。

「勇者」が血筋で決まるのも、少年少女が前線に立って戦うのも定番の設定ですが、それを可能にする世界観を築き、そこから帰結する問題を突き詰めた一作です。


キャラ的には、和馬と同じ17歳のあかりは外見も挙動も幼く舌足らずな口調なのに対し、2歳年下の妹エーリエの方がエロ担当(脱いだり胸を揉んだりというラッキースケベも彼女の方が多いです)、口調も女言葉でツンデレヒロインっぽいというのがポイントでしょうか。
それから、筋肉が武器の魔法使いでモヒカンの大男、ケン・アンダールも気さくな年長者としていい味を出しています。


今回『銀閃』外伝としての改題に当たっては随所に加筆修正が施され、『銀閃』本編の登場人物やクァント=タンのことがあちこちで触れられていますし、ついでに『銀閃』本編からゲスト出演しているキャラもいます。
その他細かいところでは、スマートフォンで住所を検索して現地画像を表示する辺りは、いかにも今風(ちょっと確認できちませんが、たぶんこれは加筆だと思います)。

さらに3年後――つまり『銀閃』本編での最終決戦の後――の後日譚として、和馬たち3人が『銀閃』のフレイや梨花とともに『魔導書』の舞台である六道島を訪れる書き下ろし短編も収録。
『銀閃』のアルルメルルと『魔導書』のクルルハルルという二人の妖精族の出会い、そして例によって爆発する発明品でも暴走も見せてくれます。ギャグ要員としてはアルルメルルはすばらしい安定度。

『銀閃』とこの後日譚まで併せて読むと、単独では駆け足すぎると思えた話も、まずまず綺麗に締められてるように思えるものになっていました。

 ―――

ちなみに、旧バージョンの『放課後ランダムダンジョン』のイラストは、とにかくパンツが多いという代物でした。

放課後ランダムダンジョン口絵
 (瀬尾つかさ『放課後ランダムダンジョン』、一迅社、2010、カラー口絵)

シリアスな場面でもこれだとさすがにちょっと浮いていたような……
そして、今回の改題に先立って『銀閃』4巻であかりがゲスト出演し、イラストにも描かれていました。

銀閃4巻 あかり
 (瀬尾つかさ『銀閃の戦乙女と封門の姫 4』、一迅社、2013、p.237)

イラストレーターは別人ですが、ちゃんと『ランダムダンジョン』のイラストの印象に似せたものになっていましたね。
そして今回の改題版のイラストレーターは『銀閃』と同じ実弥月いつか氏……ということで、あかりのデザインはかつてのデザインに比較的近いものになっていますが(カチューシャのデザイン等に違いはあるものの)、初の実弥月絵となるエーリエ(改題版表紙左)に関してはかなり堂々とデザイン変更していますね……(髪の色は原文にあるので変わらず)

放課後ランダムダンジョン (一迅社文庫 せ 1-5)放課後ランダムダンジョン (一迅社文庫 せ 1-5)
(2010/11/20)
瀬尾 つかさ

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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