オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
栄達を目指す少年と、激動の予兆――『銀煌の騎士勲章』
最後の方は、原作だと「ダメか」となっていたところで二郎の物分かりを良くして、綺麗に締めていましたね。
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さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。
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本作は富士見ファンタジア文庫で刊行された『ライタークロイス』の復刊です(加筆修正あり)。『深き迷宮と蒼の勇者 -銀閃の戦乙女と封門の姫外伝』共々、イレギュラーな発売日となったのもそのためでしょう。
ちなみい作中用語では「騎士勲章」と書いて「ライタークロイス」と読むので、それがこの度の復刊版のタイトルにも使われています。
ただ、私は元バージョンを読んでいないので、あくまで2巻まで読んでのレビューとなることを最初に断っておきます。
本作はファンタジー作品です。
主な舞台となる「帝国」は、蒼竜(レヴァ)、黒亀(ドムス)、朱鳳(アーグ)3種の「聖獣」を駆る「騎士」を制度化しています(この3種の聖獣のモチーフはもちろん東洋の四神――青龍、玄武、朱雀、白虎――なのでしょうが、どういうわけか白虎だけが不在。ちなみに皇族が駆るのは「麒麟(ソル)」です)。
騎士は年に一度の登用試験により一般から公募されており、この試験に合格して騎士になれば平民でも貴族同様の特権を得ることができます。
主人公は騎士を目指して田舎から帝都に上京してきた少年、カイン=パルス。
彼が都で出会うのは、ちょっと軽薄な男レイク=ロノベや、奔放だけれど高貴な育ちを感じさせる少女ルーファ=イシュトー、巨漢の戦士バルト=オルガーといった他の騎士志願者たち。それに、身を寄せるはずだった邸宅の侍女イングリド=マルバといった人たち。
身を寄せる予定の家は差し押さえられており、カインは邸宅に一人残っていたイングリドと一緒に宿で働くことになるなど、初っぱなから色々なことがありますが、そんな中でカインが遭遇するのは、騎士登用試験の不正の申し出……
というわけで、本作の基本の筋は「上京してきた少年が色々な人と出会い、成長し、出世していくバトルファンタジー」なのでしょう。
ちなみにヒロインはルーファとイングリドの二人。この二人の、お互いを探り合うような仲の悪さも注目です。
ただ、結構色々なことが起こっている割には展開はゆったりした印象で、その理由はおそらく、ストーリーと世界観の説明方法との関わりにあります。
本作は世界観にも注目すべきところは多々あります。
騎士の務めも色々ありますが、中でも重要なのは魔物と戦うことです。
聖獣を駆る騎士の力は圧倒的で、他国と戦えば勝負になりませんが、魔物相手には少なからぬ戦死者が出ます。
そして、魔物は東の海から現れ、それを迎え撃つ位置に帝国があることによって、帝国誕生以来300年以上に渡って帝国と魔物が戦い続け、お互いを押さえ合う構図が成立しているのです。
西方の諸国はそのお陰で帝国からも魔物からも守られているようなものですが、いつかどちらかが勝利したら……と思うと、西方諸国も現状を放置しておくわけにはいきません。
ただ、こうした世界観は1巻の終盤になってようやく、主人公視点とは別のところで説明されます。
2巻前半ではカイン以外の視点の方が多くなります。
カインの隣村の出身で、何かとカインに突っかかってくるもののあまりいい目を見ていなかったコメディリリーフ、アヴァルが(おそらく普通の)新任騎士の経験する諸々を描くのに活躍したり、敵キャラの視点がメインになったり。
主人公が田舎の少年で、さほど学識ある人物でもないので、彼が学んでいくという視点からでも世界観の説明はできそうなものですが、本作はその道を採りません。それゆえに、主人公がなかなか世界と物語の動きに関わるところまで進まないように感じられるのですね。
つでに、聖獣や魔物の登場する戦いも、2巻まででは僅かしか描かれません。
変身ヒーロー物で言うと1回に一度はヒーローが変身して戦う場面が欲しい、という様式は無視されています。
作者には、多様な登場人物と視点を転がす力はあるでしょう。実際、本作の物語も十分読ませるに足るものです。
ただ、そうした作品の実像は、「上京した少年の成長と立身出世」というモチーフから想像される一直線な物語とはかなり印象が異なるのは確かです。
作者も言っている通り実験的でもあり、展開をゆったりと進められる贅沢な作り、とも言えますが。
2巻末で大きな動きがあって引きとなっているので、3巻ではいよいよ大きな戦いに巻き込まれそうな雰囲気ですが……
さらに、今回の復刊版では雑誌掲載版の短編も収録。これは全3回で、一つの事件(ネズミ講詐欺!)を三人の異なる人物の視点で描くというもの。その3本を1~3巻の巻末に収録する予定というのですから、最終的な評価は3巻を待たねばなりますまい。
ただ、カインの登場しないこの短編が巻末に来ていることで、余計に主人公を乗っ取られたような感も、なきにしもあらず。
さて、復刊したからには続巻も出す予定なのでしょうし、売れ行き次第では旧版5巻の内容を改訂して6巻を出すといった話もあるゆですが、少なくとも来月までには予定なし。
加筆修正も入れるとすぐには行かないかも知れませんが、早めに出してほしいものです。
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