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お互いの姿で見えること、見えないこと――『安達としまむら 3』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。
『安達としまむら』、11ヶ月ぶりの新巻です。

安達としまむら (3) (電撃文庫)安達としまむら (3) (電撃文庫)
(2014/08/09)
入間人間

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 (前巻の記事

本作はタイトル通り、女子高生二人を主役とした百合作品です。
当初は残暑の厳しい10月だった作中の季節も、この3巻では2月。
というわけで今回はバレンタインデーです。

今回はまず、4月25日というかなり早い時点で第1章が Web 公開されていました。
しかし、章ごとに安達としまむら二人の視点を切り替えることで、お互いのズレや温度差を巧みに描く本作の本領は第2章以降。
第2章と第3章はそれぞれ、バレンタインデーまでの10日間を安達としまむらの視点から描いています。

視点の切り替えといっても、本作はこれといったトリックのある作品でもありませんし、時系列的には一直線で、安達視点で描かれる出来事としまむら視点で描かれる出来事は時期的には重ならないのが普通でした(これまでだと2巻のクリスマス準備編だけは、同じ出来事を両方の視点から描いていますが)。
それが今回は、それぞれ70~80ページがある章を2つ使って、同じ時期の出来事をそれぞれの視点から描いています。
その中にはお互いの姿もあれば、独立して同じTV番組を観ていたりする場面もあり、そのことがお互いの見ている世界の違いを際立たせます。
さらには、お互いの全くあずかり知らぬ事柄も……あの件の真相が他方の視点で分かる、という展開は、いつもながら流石の手腕です。

しかも、ここでも一方通行は顕著です。
しまむら以外にこれといった友達もいない安達には、知られざる交友関係といったものはあまりありませんし、しまむらは安達の母親とも会っていて、安達の家庭環境や、――もちろん家庭や育ちが性格の全てを説明するとは言わないものの――それゆえに安達が求めているものもある程度察しています。
それに比べると、安達はしまむらの妹とも会っていません。その他、しまむらの交友関係については多くを知りません。
今回、妹およびヤシロの相手をするエピソード等を見るとよく分かりますが、しまむらは――面倒に思いながら仕方なく遊んでやっているにせよ――実に面倒見のいい「お姉ちゃん」です。小学生の妹がいて、ヤシロという幼女のようなよく分からない存在にも懐かれ、そして同年代の安達にも「お姉ちゃんになってほしい」と思われたほどです。
けれども、安達はしまむらが自分以外の「妹」に対していかなる「お姉ちゃん」なのかも見ていないのです。

安達自身それを自覚しているがゆえに、焦りにも似た渇望を掻き立てられるという面もあるのでしょう。何度も強調される、しまむらの「特別になりたい」という思いは、現時点では「特別ではない」だろうという思い、いやそもそも相手の内で自分の占める位置が「分からない」という思いと背中合わせです。

 他にも、私の知らない誰かとそういう約束をしていることだってあり得た。私が知っているしまむらは本当に一面でしかない。いやその一面すら満足に摑みきれていない。なにしろ摑み所のない性格だから。事なかれ主義ともまた異なり、引っかかりが非常に少ない。
 そのそばに留まろうとしてもするする、すり抜けていってしまう。
 (入間人間『安達としまむら 3』、KADOKAWA、2014、p.42)


そんな事態をさらに強調する存在として、今回はしまむらの旧友・樽見(たるみ)が登場します。
ただ、ここでも注目すべきは、この「旧友」に安達が嫉妬する……という方向には向かわないことですね。そういう要員なら、他にもいて事欠きません。
むしろここで印象付けられるのは、しまむら視点で描かれる、しばらく疎遠になっていた旧友との間の何ともぎこちない距離感であり、容易に遠ざかってしまう人間関係の寂しさです。
この辺の機微の描写は作者らしく絶妙です。

それにしても、しまむらのことを過剰に意識する安達の挙動不審ぶりは巻を追うごとに拍車がかかっていて、いつ二人の関係に限界を来さないかという不安は感じられます。
まあ、しまむらは包容力ある「お姉ちゃん」ぶりを発揮して、変だとは思いつつ受け流し、女同士でバレンタインをやることについても「友チョコかぁ」と当然のように自らを納得させていますが……

しかし、そんな危うさを感じさせる関係と、上述したしまむらの旧友やら諸々が絡んで、最後は綺麗に締めてくれます。
しまむらの方から少しばかり積極的な動きもあって、珍しく楽しそうなしまむらが描かれて、この巧みな落としどころ、やはり感心しました。


2巻に引き続き、章間にはヤシロとしまむらの妹、日野と永藤のカップル(?)を描くエピソードも挿入。
こちらは本当に安定した関係で安らがせてくれます。
まあしまむらも、日野と永藤がある種理想の関係であることも、その域に達するのが難しいことも、承知しているのですが。

 友チョコかぁ。妹には買ってあげたことがあるけど、あれは少し違うか。
 日野と永藤あたりなら毎年やっていそうだけど、私と安達も? 日野たちの立場に置き換えて、自分たちの様子を想像してみる。わたしが日野で、安達が永藤に収まるとして……ダメか、あの二人みたいにすんなりとできそうにはない。年季の差が歴然だった。
 (同書、p.30)


それから作品間のクロスオーバーとしては、名古屋に出たのを機に『クロクロクロック』の事件に言及(ちなみに本作の舞台はおそらく、作者の作品としてはいつも通りに岐阜です)。
あの事件が数年前ということは、――『クロクロクロック』の時期は『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』と『電波女と青春男』の間ですので――本作の年代は『電波女』と近いのが裏付けられましたでしょうか。まあヤシロの存在がありますしね。
その他、夢という形ではありますが、短編「茸姫」(単行本未収録)のネタも。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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