スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

それは茶番か、革命への道か――『魔法少女育成計画 JOKERS』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。
『魔法少女育成計画』シリーズの新巻ですが、今回は前後編ではなく1巻区切りとなっています。
その代わり450ページを超えるボリュームですが。

魔法少女育成計画 JOKERS (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画 JOKERS (このライトノベルがすごい! 文庫)
(2014/08/09)
遠藤 浅蜊

商品詳細を見る

 (同シリーズ前巻の記事

例によって群像劇なので話の始まりといっても複数あり、プロローグは『restart』以来の登場人物であるプフレのところから始まるのですが……ひとまず、公式のあらすじにもある物語から。
加賀美桜(かがみ さくら)は中学二年生、平凡な少女でした。彼女は魔法少女「プリズムチェリー」になりましたが、人間と比べれば並外れた美しさと身体能力を持つ魔法少女になっても、それは魔法少女の中ではやはり平凡
敵との戦いのようにスリリングな出来事もなく、魔法少女の仕事といえば地味な人助けばかり。彼女は熱意をなくしていました。

しかしそんなある日、桜はクラスメイトの青木奈美(あおき なみ)に声をかけられます。
「加賀美さんさ、魔法少女だよね」「私も魔法少女なんだ」と。

しかも青木奈美――「プリンセス・デリュージ」は、普通の魔法少女ではありませんでした。

そもそも本シリーズに登場する魔法少女は、(『limited』では作中でも言われていたように)外見もネーミングも「別の番組から出てきたように」バラバラなのが大きな特徴でした。
実際、毎回発売前に「このライトノベルがすごい!文庫スペシャルブログ」に載るキャラ紹介は、それぞれの魔法少女を異なる新番組の主人公として紹介するというネタになっていました。
ところが今回は、キャラ紹介からして趣が違います。
名前もデザイン(宝石のあるティアラ)も規格化され、4人で4属性を分担する魔法少女チーム「ピュアエレメンツ」が登場します。

ピュアレメンツ
 (遠藤浅蜊『魔法少女育成計画JOKERS』、宝島社、2014、カラー口絵より)

スペシャルブログの紹介記事でも、この4人にプリズムチェリーを加えた5人が同じ番組の登場人物として紹介されています。
そしてピュアエレメンツは、日々街の周辺に現れるディスラプターという敵と戦っています。
つまり彼女たちの設定は、『セーラームーン』や『プリキュア』タイプです。

ですが、そんな分かりやすい「敵」などこの世界にはいないのは、本シリーズの読者ならば周知のこと。
しかもプリズムチェリーが問い合わせてみても、ピュアエレメンツに該当する魔法少女など登録されていないのです。

冒頭から示唆されていたことですが、ピュアエレメンツは魔法の才能が無くてもなることのできる「人造魔法少女」でした。もちろん、魔法の国はそんな技術流用を認めてはいません。

統一された規格の仲間、特定の「悪い敵」との戦い――そんな、アニメで描かれる通りの、期待に添った魔法少女は人為的な虚構であり、自作自演の茶番でした。

滑稽さは反復されます。
ピュアエレメンツは当然、自分たちこそ標準的な魔法少女だと思っていますから、自分たちではなくプリズムチェリーこそが特別な魔法少女で、敵に狙われているのではないかと考えたりします。
はたまた、小学二年生ながら中学二年生の男子に恋して、そのために魔法少女になったプリンセス・テンペストの場合――

「魔法少女に変身し、服を着替えて意中の人とお知り合いになる」という誰も考えたことのない斬新極まるやり方を考えついた時、世界をとったと確信した。小学二年生が中学生と恋人になることはできなくとも、中学生相応の魔法少女なら中学生と恋人関係になってもなにもおかしいことはない。(……)
 (同書、pp.148-149)


悲しいかな、「誰も考えたことのない斬新極まるやり方」はすでに『restart』でペチカが通った道……往々にして独創がオリジナリティに欠ける好例です。
こういう皮肉の効いた書き方は作者の得意とするところで、この先の危うさを感じさせるに十分です。

さて、他方で様々な魔法少女のもとに「人造魔法少女」の調査を請うメールが届きます。それで集まってくる魔法少女たち。
その中には、今や「魔法少女狩り」の二つ名で知られる強者となったスノーホワイトもいます。

スノーホワイト
 (同書、カラー口絵)

Web 短編で降られた魔王塾袋井魔梨華といった名前もここで登場したり。

今回そうして集まってくる魔法少女は、魔法少女として魔法の国傘下の職に就いて給料を貰っているプロ魔法少女が主体です(通常の魔法少女活動は無給です)。
傭兵として各方面から仕事を受けている者、最近次々と発覚した不祥事による業界再編で失職して、再就職のための手柄を求める者、自らの部門の勢力維持のため奔走する者――専業魔法少女の悲哀を見せた『limited』の7753(ななこさん)でもそうでしたが、ここでも世知辛さが見え隠れします。

かくして展開される物語、人造魔法少女の研究所という閉ざされた場所を舞台にした戦い。
ただ今回は、乱戦のバトルロワイヤルとも、『limited』のような三つ巴とも異なり、中盤で二陣営の対立がはっきりしてきます。
これはやはりスノーホワイトの存在が大きいでしょう。「心の声を聞く」魔法で相手の底意を見抜き、無用の争いを憎んで可能ならば争いの回避に手を尽くす彼女は、様々な思惑を抱える一癖も二癖もある連中を束ねるのに力を発揮します。

戦闘に関しても、元々荒事向きの魔法少女が多く集まっているがゆえに、魔法の意外な使い方は少なめ。

ただ、能力を正面から使っての戦いでも面白いものは面白いのですが、それとは別に、ちょっとあっけない魔法少女が多かったのは残念なところでもあります。
特に魔法少女として活躍することなく、どんな魔法を使うのかすらキャラ紹介を見ないと分からない、というのは無印の時から先例がありましたが、それでも彼女たちが何を思って活躍せず退場していったかは少ない頁数できっちり描かれていましたし、また『restart』では死んだ魔法少女の遺したものを生存者が受け取って実を結ぶ場面もありました。
それに比べると、まあ今回もキャラ像は少ない出番でそれなりに伝わるものの、活躍も死に甲斐も少ないメンバーが少し多かったような……

今回、複雑なのは背後の動きです。
何しろ、『restart』のクランテイルを除いて、これまでのシリーズの生き残りが総登場します。
策略家のプフレを筆頭にした彼女たちの暗躍は、魔法少女の現状を変えるべくそれぞれの方向で動いている彼女たちの激突がそう遠くないことを感じさせました。
しかし、目的のためなら犠牲を厭わない悪人のプフレと、「正しい魔法少女」スノーホワイトが激突するかというと、また最後で風向きが変わっているようでもあり……

プフレがどこまで黒幕であり続けられるかという問題もありますし、またあまりに冷静な判断を下すようになったスノーホワイトにも、自分には悪人を裁く資格があるのかという迷いがあります。

「正しい魔法少女」たらんとすることは、いかにして、どこまで可能なのか――魔法少女のあり方への問いは続きます。


生き残り方に強烈な後味の悪さがあった『limited』に比べると、今回の締めはまだ綺麗なものでしたが、ただ個人的には、今回はことさら、テーマ的に未完結で引きとなっている印象を強く受けました。
ただそれについては細部までのネタバレを含むので追記にて。


問題は、人造魔法少女とは何だったのかです。
今回、16人の魔法少女が繰り広げる魔法少女という表のストーリーだけを見るならば、誰が何の目的で人造魔法少女を研究していたのかはさほど問題になりません。
マクガフィン――と言っては少々言い過ぎですが、魔法少女たちを呼び集め、戦わせるための餌という感は強いでしょう。

しかし、これまでの魔法少女とは異質な人造魔法少女の設定に、それ以上の意味はないのでしょうか。

本作には明言せず推察を要する記述も多いので、慎重な読みが必要です。

4人の少女(正確には大学生もいますから、全員が「少女」とは言えませんが)をピュアエレエンツに変身させた「田中先生」なる人物は回想にした登場せず、こんな研究を進めていたのかは明言されないままです。
とは言え、姿を見せないこと自体が、今回の事態を見越して姿を消していたことを予想させるわけで、とすれば元々調査依頼を行った(行わせた)プフレと繋がっていることは容易に予想できます。

3代目ラピス・ラズリーヌはすでにプフレの仲間になっていました。
とすると、初老の女性という田中先生の姿からすぐに連想されるのは、初代ラピス・ラズリーヌです。

田中先生の正体になると推測の域を出ませんが、少なくともプフレの関与について言えば、作中でピティ・フレデリカが察していました。

 人造魔法少女計画を潰そうとしている勢力がある。プフレは黙って潰させてやるほど暢気ではないし優しくもない。素直に潰されもせず、泥臭く抵抗するわけでもない。相手が思っていない方向から騙し討ちをしてみせるのがプフレという魔法少女だ。
 公開された技術、既成事実として広めてしまうのが目的だろう。こうなれば「魔法の国」の保守強行派も闇から闇へと葬るわけにはいかない。技術を禁ずるにしても認可するにしても話し合いになる。そうなれば最高権力者である三賢人の合議制だ。どんなロビー活動をしているのか知らないが、勝算は十分にあるのだろう。
 元よりそのつもりだったのか、それとも追い詰められて仕方なくしているのか。プフレは技術を自分で独占しようとしていない。拡散し、広め、共有しようとしている。なんのために? 「魔法の国」に対抗する力を手に入れるためだ。
 ――お嬢様も案外泥臭い真似をする。
 (同書、p.166)


この読みが正しければ、人造魔法少女の研究を行ったのも、その調査依頼を出したのも共にプフレであり、自作自演です。

であるならば、“規格化された仲間と共に悪い敵と戦う魔法少女”というピュアエレメンツの茶番は、「『魔法の国』に対抗する力を手に入れるため」の踏み台に過ぎなかったのでしょうか。
プフレの側からすればおそらくそうであって、これこそ残酷な真相です。

ただ、ここで思い返しておきたいのですが、騙されて「自分たちは悪い敵と戦っている」と信じていたピュアエレメンツの姿は、『limited』でトコに魔法少女にされた中学生たちの姿に重なります。
ただ、その後で真相を知り、「魔法少女」の実態は期待とは違っていることを知った時に登場人物が見せるものは、本作では多くの場合死に様であって、実際『limited』の中学生たちは一人も生き残りませんでした(生き残ったのは魔法少女についての予備知識や先入観など保っているべくもない亀だけ)。

対して、今回のピュアエレメンツは、自分たちの置かれた状況や魔法少女の実態を十分に理解しないまま退場していった感がありますが、その代わり、一人が生き残っています。
最後ではすでに公式に人造魔法少女の実用化が始まっていることも示唆されているので、人造魔法少女の持つ意義は、もはや最初の「実験体」である彼女の人生からは離れたのかも知れません。
けれども、彼女もいずれまた立ち上がる日が来るでしょう。本文もそのことを示唆しています。
その時、生き残った人造魔法少女としての彼女はこれから、魔法少女にどんな未来を切り開くでしょうか。

よくできた善悪の戦いという茶番は、これからの魔法少女のあり方を築いていくための一里塚でした。
けれどもその“一里塚”が、単に人を騙して踏み台にするような褒められぬ道の印であるのか、それ以外の道に通じる可能性を持つのかは、これから見守らねばなりますまい。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。