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未来と歴史の狭間で――『南蛮服と火縄銃』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

南蛮服と火縄銃 (スマッシュ文庫)南蛮服と火縄銃 (スマッシュ文庫)
(2014/07/12)
静川 龍宗

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作者の静川龍宗氏は森瀬繚氏とのコンビで『うちのメイドは不定形』を執筆しているライターですね。
『不定形』の3巻とあさひを主人公にしたスピンオフまで一度は発売が予告されていたのに(また)延期されて代わりに新作とは、やはり森瀬氏の都合としか考えられませんが……

さて、本作は戦国時代――永禄6(1563)年を舞台とした異能架空戦記小説とでも言うべきものです。
この世界には、「因子(ティラン)と呼ばれる異能を持った人間「因子もち(ティラノス)が存在します。
彼らは様々な神話の神々の血を引き、その神々の力を使える存在であって、キリスト教から見れば異教的存在です。しかし、その力の強大さゆえに、作中世界ではカトリック教会も「因子」を「神が人に与えたもの」としてキリスト教に取り込むよう解釈し、積極的に活用しようとしている、という設定です。
イエズス会の少年宣教師ミゲルは、キリスト教の宣教よりもまず日本の「因子もち」の存在を確認するため日本に派遣されてきたのでした。
ミゲルが従者として連れている二人の少女は、北欧神話の雷神トールの力(ミョルニルの破片)を操る巨体の女戦士ソールディースと、ケルトのダーナ神族(妖精)の娘マグ=メイ

ただし、本作の主人公はむしろ、堺の商人の娘かがせです。
南蛮服を身に纏い、荒くれの水夫たちに混じり、火縄銃を撃って戦う彼女は、同時に「破戸宇子(はとうす)という予言を映す鏡を持っており、13代将軍足利義輝の暗殺という予言された未来を変えて、兄を救うことを目的にしています。
他方でミゲルも未来を幻視する能力を持っており、やはりかがせとの接触によって未来を変えることを目指しているようですが……

南蛮服と火縄銃 口絵
 (カラー口絵。左から順にソールディース、マグ=メイ、かがせ、ミゲル)

冒頭の出会いの場面は、ミゲルたちとかがせが初対面であるにも関わらず、予言のお陰でお互いを知っているように振る舞うので、ちょっと付いていくのに苦労するところはありました。
ただまあ、その辺の設定は追い追い分かってきます。
それから、冒頭で翼を生やすなどして天狗のように変化して修験者が戦っていたりで、異能の存在する世界観を端的に印象づけてくれます(これだけの異能でも「因子」ではないそうですが)。

前半はほとんどが上記4人の少年少女キャラクターの視点で描かれる、比較的「異能バトル物のライトノベル」らしい内容ですが、地味な印象は否めません。唯一の男であるミゲルではなく、女の子のかがせの方が主人公であるというのは特徴ですが、それを差し引いても、です。
(余談ながら、ミゲルのことを「才媛」と評した台詞があった(p.35)ので「実は女」とかいう設定が来るのかと思ったら、そんなことはありませんでした。単なるミスでしょうか)
主要キャラクターも、大まかな人物像は容易に伝わりますし別に悪くはない(少なくとも不快感を与えるようなことはない)のですが、取り立てて魅力的とも思えません。「○○が大した人物であることが△△には分かった」とか書いてあることがあっても、どうも言っているだけの感があるのが、薄味さを物語ります。

ただ、本作の後半は将軍義輝、松永久秀といった歴史上の人物が続々登場(序盤からルイス・フロイス等が少しは登場していましたが、ストーリーへの絡み具合が違います)、さらに「歴史を変える」ことと「(作中で予言された)未来を変える」こととの違いが明瞭になると共に、俄然架空戦記としての面白さが出てきます。
読者にとって過去の時代をモチーフとしていいて、しかもある程度有名な歴史的事件を扱っているとなれば、「予言された未来=(読者の知る)現実の歴史」であり、その歴史を変えられるかどうか、という前フリのための予知なのだ、と考えたくなります。
しかし実は、「予言された未来=現実の歴史」とは限りません(実を言うと、正確な歴史知識があるか、歴史資料を傍らに読むんであれば、この違いにはかなり早くに気付けるようになっていますが)。

少々深入りすることになりますが、本作の最後の方には「歴史は変わった。/まだ未来は変わっていない」(p.304)というフレーズがあります。
ここで問題になっている「未来」とはもう少し先のことであり、まだその時点になっていないので、「まだ変わっていない」と言えるのです。
しかし読者の視点からすると、「(作中で予言されていた直近の)未来は変わったが、(読者の知る現実の)歴史はまだ変わっていない」のではないか、という疑問も呈することができます。
予言者が二人存在するという、一見無駄の多い設定も、この「未来」の二重性を形成するに当たって活きてきます。

何が変えられることであり、何が変えられないことなのか。
この先にあるのは「悪い未来は変えられる」という希望なのか、それとも持ち上げて落とす形で絶望が待っているのか――

はっきりと次巻への前フリが存在する形で終わっていますが、続きがあるならばそうした点は中々に楽しみです。

またそうした中で同時に、歴史上の人物に対する固定イメージにも上手く転回を加えてくれます。
思えば、やはり主殺しの悪人というイメージの定着していた斎藤道三を主役として肯定的に描いた司馬遼太郎の『国盗り物語』でさえ、松永久秀(弾正)は割と分かりやすい悪役でしたし……

ただ、少年少女キャラクターを中心にした「異能バトル物ライトノベル」的な前半部と、架空戦記色の強く出てきた後半部の間に、いくばくかの乖離を感じるのも事実です。
そして、前者の方はどうも地味である――つまり、作者の本分はキャラクター造形等のライトノベル的な部分にはないのではないか、と思ってしまうのです。


まったくのついでながら、本作の設定で漢字にカタカナのルビを振った語を使う場合、そのカタカナ語が英語であるというのは、どうも違和感を感じます。
もちろん、本作は人物の台詞まで含めて現代語で書かれた小説なので、カタカナ語も「現代語表現」の一つと言えばそれまでなのですが、しかし「ティラノス」がラテン語であり、作中で公式に使用されているとちゃんと説明している中で、それと同じような「漢字+カタカナのルビ」で「侵略者(アウター・ビーイング)」という英語を使うのは、どうなのでしょうか(「ヴィジョン」は――発音は違えど――ラテン語系の言語には皆同じような単語があるので、まだ良しとしましょう)。
章間に架空の歴史資料を引用したりと雰囲気を出しているのですから、ここはラテン語あるいはポルトガル語に統一してほしかった、という思いはあります。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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