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謳われざる勇者の凄絶な生き様――『勇者、或いは化け物と呼ばれた少女』

今回取り上げる小説はこちらです。

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なんと上下巻合わせて約1000ページのボリュームですが、圧巻の読み応えで、すらすら読めてしまいました。
作者は『死神を食べた少女』七沢またり氏で、世界観や登場人物には『死神を食べた少女』とのリンクもあり。というか、元々執筆はこちらの原型が元は『ドラゴンクエスト3』の二次創作として Web で発表されたのが先だったようです。『死神を食べた少女』の完結後、オリジナル作品として改稿された本作を Web で発表する、という経緯です。
そもそも、この手のRPG的世界観のファンタジーは今や珍しくもないのでオリジナル作品としてすんなり読めますが、『ドラゴンクエスト』の二次創作というのは言われてみればなるほど、と思えます。
また、『死神を食べた少女』同様、書籍化された現在でもWeb 小説の方は削除されることなく公開され続けています(こちら)。書籍版とは違いもありあすが、ひとまず Web で内容を見てみるのも良いでしょう。

主人公はかつて魔王を倒した、という勇者の少女(記憶喪失で本名不明)
しかし今や、そんな履歴を職業登録の書類に書いても相手にされず、生活のために一介の戦士として迷宮に潜り、魔物を狩ることになります。
ただ、彼女の力は圧倒的で、凄腕の賞金首を討ち取ったりという活躍ですぐに人目を引くことに……

「戦士」や「魔法使い」「僧侶」といった職業や、複数の職業の冒険者がパーティを組むというシステムは元ネタが『ドラゴンクエスト3』であることをよく物語るもので、それぞれの職業ギルドが存在するというもっともらしい設定が付けられています(ついでに言うと、教会によって認定される「僧侶」は街の職業ギルドとは少し違う扱いであるというのも、世界観の現実的になっている点です)。
さて、そんな「職業」の中で「勇者」は明らかに他と同列の「職業」ではない、ということは、少なからず指摘されてきたことです。
そもそも『ドラゴンクエスト3』の場合、勇者というのは最初から選ばれし者であり、他の職業のように転職することもできません(『ドラゴンクエスト6』以降だと、勇者も「転職」でなることのできる職業の一つになりますが)。

勇者は職業とは別種の称号ではないか、いや仮にそんな「職業」があったらどうなってしまうのか……そうした疑問は、多くの(たいていはパロディ系の)作品で問われてきたことです。
本作でももちろん、「勇者のギルド」など存在すべくもありません。

加えて本作では、他にも職業システムに対して面白い視点が見られます。
何しろ、「特に特殊技能のない者は戦士ギルドに入れられる」という設定です。
考えてみると、「魔法使い」のような特殊能力の求められる専門職に比べると、「戦士」というのもずいぶん曖昧な括りです。あえて言うなら求められるのは「腕っ節が強いこと」くらいでしょうが、これも非常時にはそれほどでもない人間が戦力として駆り立てられることもあり得るので、ことはそれほど明瞭ではありません。そういうところを鋭く衝いています。

さて、職業云々はともかくとして、魔王を妥当した勇者のことが、なぜ誰にも知られていないのか。
それは話を進めると追い追い分かってきます。
そこには、あまりの圧倒的な力のゆえに仲間からも化け物と恐れられ、裏切られた勇者の過去がありました。

これまた重要な指摘で、ゲームにおいては(ゲームバランスの都合上)仲間たちは対等に近い力を持っているわけですけれど、もし「世界を救えるのは勇者だけ」であるのならば、勇者は他の誰も及ばぬような、比類ない力を持っているはずです。
しかも、「どんな大怪我も回復させる治癒呪文」や「死者蘇生の呪文」といった「ドラゴンクエスト」ではお馴染みの呪文が、血が飛沫き肉の裂ける怪我がみるみる治っていく、といった生々しく迫真性ある描写でもって描かれるので、その力の異常さはますます際立ちます。

狡兎死して走狗煮らると言うか、巨大な敵を退け、平和を取り戻した後にその力ゆえに排斥される英雄、というテーマは、ちょうど現在放送中の『仮面ライダー鎧武』にも重なるものですが……

とかく本作の一つの大きな特徴は、職業で分類される冒険者や世界を救う勇者といった『ドラゴンクエスト』的世界観の可能性をリアルに問い質しつつ、決してパロディ化するのではなく、凄絶な戦いとストーリーで、大真面目に描いていることです(会話にはコミカルな要素も多々ありますが)。

何しろ、この世界ではもう、魔物は迷宮の中にしかいません。その迷宮は結界で封じられ、魔物は外に出てくることはできないので、好きこのんで迷宮に潜らない限り、安全なのです。
しかし勇者は「魔物を殺すこと」という使命を自らに課して、迷宮に潜り続けます――それは「人々を守る」という意味は、もう持たないにも関わらず。
何のために? 「自分は勇者である」というアイデンティティのためです。

しかも、圧倒的な力を誇った彼女も、代償の大きな魔法の使用もあって身をすり減らし、限界が近付いていることも示唆されています。それでも、限界が訪れるその時まで、彼女は戦い続けます。

無双の強さで、血と破滅の匂いが濃厚な荒んだ少女(ついでに色気は無し)という主人公像は、『死神を食べた少女』のシェラと同様で、これは作者の持ち味と言っていいでしょう。
ただ、戦記であった『死神を食べた少女』と異なり、本作は壮大な戦いの物語が終わった後の世界です。
迷宮に潜るだけという行為に、ストーリーはありません。その意味で、迷宮は「物語が終わった後」によく似合います。
思えば、日本におけるローグ系ダンジョンゲームの嚆矢たる『トルネコの大冒険』も『ドラゴンクエスト4』の登場人物トルネコを利用していましたが、要するに「世界を救う旅を終えた後」、また新たな宝を求めてダンジョンに潜るトルネコを描いていました。

閑話休題。
さらにえげつないことに、本作には外道な人間も数多く登場します。
中には腹の据わった悪人というよりも、ただ愚かで、何度も勇者に命を救われながら、誘惑に乗って外道に堕ちていった者もいるのが、人間の浅ましさをいっそう感じさせて物悲しいところ。
そして勇者は「外道に堕ちた、腐臭のする人間」も「魔物」と見なし、容赦なく殺します。
時には人格を持ち、言葉を喋って命乞いする魔物も、さらには人間を殺さない魔物までも登場し、勇者も時に悩むことがありますが、魔物とは「腐臭のする外道」であり、自分はそれを殺すのだという一線に関しては決して揺らぎません。

思えば、かつての仲間に化け物扱いされ、裏切られながら、彼女はそれでも人間を憎む方に転向することはなく、魔物と戦い続けてきました。
乱暴で、ギルド加入の初日から二日酔いで現れるくらいの飲んだくれで、破滅的ではありますが、彼女は確かに勇者でした。

最後に巨大な危機を前にして、限界が近い勇者は、そして現在の仲間たちはどうするのか――

『死神を食べた少女』と同様、破滅が待ち受けていようとひた走る主人公の生き様は凄絶で、ほろ苦さと暖かさの同居するエピローグは美しい。
『死神を食べた少女』への繋がりを強く示して、魔物の脅威が去れば今度は人間同士の争いが始まることを印象付けるのも、何とも言えぬ味わいがあります。
読み応えあり、読後感も素晴らしい上下巻でした。

本当の英雄の活躍は、いつだって知られぬもの――


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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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