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正しさを求めて立ち返るところ――『ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 4』

今回取り上げるライトノベルはこちら、発売から2週間余り経ってしまいましたが、2ヶ月連続刊行となった『ミス・ファーブルの蟲ノ荒園』の4巻です。

ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (4) (電撃文庫)ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (4) (電撃文庫)
(2014/08/09)
物草純平

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 (前巻の記事

とは言え、この3巻と4巻は前後編として高い完成度になっており、3巻での布石をきっちり回収する形になっているので、実はもはやそれほどコメントする必要を感じないというのも実情です。

ストーリーとしてはパリを舞台に、作戦を決行する「ブリュム・ド・シャルール」の幹部たちとの対決であり、内容的にはそれぞれが自らの道を選ぶ決断であり、それぞれの声のぶつかり合いです。
いずれも、3巻で見た通りのことを回収しに来ています。

「ブリュム・ド・シャルール」の幹部として去っていったマルティナ、祖父に関する真相を教えられてショックを受けた上、「ブリュム・ド・シャルール」に勧誘されているクロエ、そして同門(もう一つの「ジゲン流」)対決で敗れ、理想の矛盾点を衝かれで打ちひしがれている慧太郎――

彼らを叱咤し、呼び止め、立ち上がらせ、支えるのは、やはりアンリです。
「蟲」の研究者で魔女で、魔術と銃を操り小型飛行機シエルバレを駆る、と技能は色々あるものの、やたらとハイスペックな仲間たちに比べればそれほどでもない彼女。ついでに言えば、今回、敵の「女王」の予言に登場しない端役であるということも強調されます。
しかしだからこそ、自在に動けるということもあるのです。ポジションとしてはヒロインですが、主人公的と言いますかトリックスター的と言いますか……
彼女自身も、自ら人との関わりを避けてきた中で、マルティナに去って行かれて初めて「友達」の重みを突きつけられるという試練がありましたが、当然ここまでくれば、本気で「友達」としてのマルティナに想いをぶつけるばかりです。

慧太郎もどこまでも青臭い理想を突き進み、そして武人としても本当にストレートに「強い」ところを見せます。
時には力尽くで相手の生き方に介入し、時には敵対する道を歩んでいても相手を理解しようとぶつかる――その過程は圧倒的に熱く、素晴らしいものです。

そして今回は、「ブリュム・ド・シャルール」の「パリが消滅する」というほどの作戦の実態と、それと繋がっていたフランス首相ティエールの目論見も明らかになります。
差別され迫害される「裸蟲」の未来のため戦い続けてきたブリュム・ド・シャルールの大儀。そして激動と混乱の時代にあって、フランス国家100年の計を図るティエールの算段――

両者は一致して、目的のために巨大な被害を出す作戦を決行しました。
目先のことにとらわれて、大きな結果に拘らねば、結果的には被害が増えるのみ、だから途中過程での犠牲はやむを得ない――そのことは確かに、筋は通っています。
しかし慧太郎は――

「僕が『駄目だ』と言っているのは、安易に義務や責任という言葉へ『逃げる』ことです」
 ティエールが瞠目した。よほど意外な返答だったのか、彼が驚く顔を初めて見た気がする。
「これはこれは。きみは責任など放棄してしまっても構わないと言うのかね?」
「言いません。とても重要なことだと想います。でも、そういう『やらなければならない』という脅迫にも似た感情を、行動の原理に置くのはたぶん間違ってる」
「……分からんな。どういう意味だね?」
「立場や役職といった責任で、犠牲を出すことが仕方ないなら、誰もが生まれ持っている『人としての責任』はどうです? そちらには都合良く目を瞑るんですか」
 (物草純平『ミス・ファーブルの蟲の荒園 4』、KADOKAWA、2014、p.69)


たとえ無頼を気取ろうと、善悪の不確かさや悪の必要性を説こうと、人は多くの場合、悪を呑むのも「それが正しい」と思えばこそそうするのです。そう簡単に「正しさ」からは解放され得ません。
けれども現実には「こちらの正しさのためには、あちらは諦めざるを得ない」ということが起こります。
しかしだからと言って、そこで「この犠牲は(本当は“正しくない”けれど)仕方ない」と言ってしまうと、もはや正しさが主張できなくなってしまう、そういう局面があるのです。

正しさのためには仕方ない犠牲だ、でもそれが正しくないことは実は分かっている――かくして人は正しさを見失います。

全てを摑むことはできないかも知れません。しかしだからこそ、立ち返るところははっきりさせておかねばなりません。
まず第一に、いかなる正しさを求め、どうしたいのか?

もちろん慧太郎も、全てを摑むことはできていません。屍を重ねた上に幸せな未来など来ないと言いつつ、敵を手にかけねばならない場面もあります。
でもそれを簡単に割り切ってしまうのではなく、過ちであり偽善であると自覚した上で、自らの目指す理想に立ち返り続けることに、意味があるのでしょう。
こうした正しさにまつわる矛盾と葛藤をきちんと描いてくれた点も概ね満足です。


「ブリュム・ド・シャルール」の目的や蟲と裸蟲に関する真相については未だ謎も数多く残っていますが、人間を裸蟲化させる「シメーラ」が「あらゆる生物の内に眠る」と明言されたのは大きなポイントです。
やはりこれは生命進化の起源、つまり「我々は何者か」に関わる話なのでしょう。
ただこれはネタバレも多くなるので詳しくは追記にて。


虫の特性を持った「裸蟲」たちの能力設定も、ジェット噴射で飛行するゴミムシの裸蟲とか(※)、『鼻行類』的な架空の生物学を思わせる楽しさがあります。

※ 作中でも言われている通り、ゴミムシは本来、後翅が退化していて飛べない昆虫ですが、ミイデラゴミムシの仲間は化学反応により高温かつ悪臭のする物質(ベンゾキノン等)を噴射して身を守ります。それを飛行に応用する、という設定です。
甲虫の仲間は基本的に、前翅を固定翼として後翅の羽ばたきで推進力を生み出す、プロペラ機の原理で飛行する昆虫なのですが、「プロペラ」に当たる後翅が退化した代わりにジェット機の原理で飛行するモデルチェンジ、というわけです。

生物に関する説明もしばしば、かなり細々としていますし、歴史や文学も色々と――もちろんフィクションとして脚色しつつ――用いていますし(この点に関しては、実在の人物の肖像をきっちり押さえたイラストもいい仕事をしています)、作者は衒学小説に向いていそうです。
ただ、オリジナルの設定を解説するのに紙面を費やすライトノベルは多々あれど、衒学的なライトノベルでの成功例というのはそれほど心当たりがなく、その辺がネックにもなっているのかも知れませんが。


物語としては第1部完で、少なからず謎や名前だけで未登場のキャラも残しつつ、第2部アメリカ編に続くという形になっていますが、さて続巻は出るのでしょうか……?





本作の世界において、「魔女」は血筋で決まります。魔女の血筋に生まれた者以外は、魔術は使えません。
ただし、「裸蟲」となった人間は魔女でなくても魔術を使い、蟲を操ったりすることができます。

そして今巻では、ケルトのとりわけ古い魔女の家系に生まれたマルティナの能力が、人間を「裸蟲」に変える「魔本」作成の元になっていたことも明らかになりました。
さらに、「ブリュム・ド・シャルール」の一員でもあったマルティナが裸蟲なのか、人間の協力者なのかはとりわけ注目されたポイントでしたが、「生まれながらの裸蟲」というかなり特殊な存在であることが判明。

魔女の中でもとりわけ始原に近く、シメーラの親玉のような「冥王蟲」を呼び覚ますこともできるマルティナが「生まれながらの裸蟲」でもあるということは、魔術と裸蟲との根本的な近さを示唆します。
裸蟲が魔術をも使えるというよりも、むしろ魔女というのが裸蟲に近い存在なのではありますまいか。

しかもシメーラは全ての生物の内に眠っていることが判明。
またアンリは、生物の進化には魔術的要因が関わっているという「魔術的進化論」を主張していますが、これも本作の世界においてはある程度の正当性を持つようです。

もちろん、魔術を「人間の行使する技術」という範囲で考えて、それが人類以前の生物の進化に関わっていると考えるのでは、話の筋が通りません。
話は逆で、むしろ魔術というのは生命進化の根源にある力に通じるもの、と考えた方が良さそうです。
裸蟲もまた、生物の内に眠るその力が目覚めたものなのでしょう。

こう考えると、裸蟲は人間の可能性である、と思えてきます。
作中でも、難病に苦しみながら裸蟲化することで命を取り留めたミハイールは、裸蟲にきわめて積極的な「可能性」を見ていたようです(無論、進化するのがいいとは限りませんが)。

――と、ここまで考えたのですが、冥王蟲には「女王」(ブリュム・ド・シャルールのボス)の姉妹とか、やはり人為的なものが関わっているようで、設定上の自然と人為の境目の見極めが、私にはいささか難しいところなのですが。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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