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得たもの、遠ざかるもの――『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている 3』

今回取り上げるライトノベルはこちら。『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている』の3巻、そして遺憾ながら最終巻です。

引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている3 (一迅社文庫)引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている3 (一迅社文庫)
(2014/08/20)
棺 悠介

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 (前巻の記事

今回、作中では夏休み、ということで海に行くことは前巻から予定されていましたが、その前に「学園ふわ不思議」(数が決まっておらず、内容もしばしば変化するとふわふわしているので「ふわ不思議」)の探索、つまりは肝試しというもう一つの夏らしいイベントもあります。

今回、「引きこもり対策部」の依頼人はバスケ部員の荻嶋真希名(おぎしま まきな)。彼女の友人のオカルト研究会部長・双見妖子(ふたみ ようこ)がふわ不思議に嵌っているのですが、何でもふわ不思議を一通り体験して最後に「開かずの教室」に至った者は消えてしまうとかいうことで、助けてほしいと……
双見はふわ不思議の探索にどっぷり嵌って不登校ぎみになっているということで、一応(広義の)「引きこもり対策」という目的にも合致します。

その後は、前巻で登場していた謎の人物「真紅の魔女」こと塔崎深玖(とうさき しんく)のエピソード。
彼女に関してはすでに示唆はされていましたが、どうも本当に特殊な能力があるようで……そういうのもありの世界観だったのか、と思わないでもありません。
(ついでに、彼女の能力まで込みにしても、全く正体不明のままの怪現象が一つ残ったような……)

この後、作中で(なぜか)大人気のアニメ「牛タンくん」のショーというギャグ色の強いエピソードが入った後、海のエピソードは春哉と紫羽の関係に改めてスポットを当てて締めとなります。

総じて、今回は引きこもり対策部が対処を求められる「引きこもり」が二人(双見妖子と塔崎深玖)、両方一挙に(一応の)解決編まで持っていかねばならず、加えてラストエピソードがあるので、詰め込みすぎの感は否めません。とりわけ双見妖子たちに関しては、その後の話でも登場しませんし。
最終巻ということで、続くならば今後に引っ張るつもりのエピソードまで詰め込んでしまった、というのが実情なのでしょう。

ただ、怪談の真相を解明したかと思うとそこで本物の怪異……という流れはホラー好きの作者らしくよく出来たものでしたし、今までと違って紫羽が解決を主導する役になる(これまでは主として、春哉が作戦を主導し、紫羽は暴力担当でした)のも、変化を感じさせて感慨深いものがありました。
こうした紫羽のアクティブな変化は、彼女が引きこもりを脱して、春哉以外の人たちと積極的に関わるようになったことと相関しています。
けれどもそれは、春哉との間の距離感にも影響を及ぼします。

 引きこもりを脱し、葦原との一件を経て変わると決意した紫羽。その成果は間違いなく現れている。
 そのことは純粋に嬉しいのだが、同時に微かな引っ掛かりを覚えた。それがなんなのか説明できないし、気にするほどのことでもない。だが確かにそれは存在している。
(もしかしたらそれは紫羽も同じなのでは……)
「変わっていく」とい言葉を発した紫羽から、俺はそんなことを感じた。
 しかしそんな不確かなもののために紫羽が歩みを止めることは、決していいことではない。長く停滞していたのだから、もっと変わっていくべきだ。
 (棺悠介『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている 3』、一迅社、2014、pp.39-40)


「変わる」と言えば、ことに引きこもりを脱するという方向に「変わる」のであれば、それが「良いこと」であるのはなかなか否定しがたいものです。
しかしそうした「変わるべき」が強迫観念にも似たものに変じる時、人はその副作用を見落としがちになるのではないでしょうか。

確かに、すれ違いや仲違いはラブコメの定番です。
しかし、喧嘩というほど関係が悪化したわけではない、だからこそ対処が難しい……そんな機微を描く手腕は、過去2巻から想像していた以上でした。
春哉と紫羽はお互いがお互いにとって本命で、関係は鉄板だろうと思われましたが、春哉の方も小学生の頃から紫羽を追いかけ続けてきたという、信仰にも近い一途さがあるからこその盲点もあります。その辺の描き方も含めて、いや巧みです。
エピソードを詰めすぎとは言いましたし、実際塔崎深玖の件などはかなりあっさりした解決になった感があるものの、最後の紫羽と春哉の件に関しては不足なく描けていると感じられました。

本作、個々のテーマは何かと既視感もあるものでしたが、広義の「引きこもり」という言葉で表される、いささかまともな道を踏み外したアウトサイダーたちについて、その微妙な心理の襞を描く描写力は大したもので、優れた新人を引き当てたな、と思いました。
大枠は定番のようでも、そこには繊細な感性がありました。
だからこそ、最後に可能なネタを全て詰め込んだという感じの駆け足で最終巻を迎えたことが残念でなりません。


前巻に比べると内容が詰め込まれている分コメディはやや控え目ですが、ギャグも安定。
たとえば「引きこもり対策部」の依頼人募集のポスターを作成した先生ですが……

「これまで我々はスタンド使い方式で引きこもりたちと相対してきた。だが、やはりなかなか出会えないことに気付いた私は、こうして自らフラグを立てたというわけだ」
「気付くの遅過ぎです。つうか、このキングギドラとか、上杉謙信の肖像が、ワラビーやヌーの群れは一体何ですか?」
 ポスターで一番目を引くのは文言ではなく、紙面いっぱいの最強宇宙怪獣と戦国武将、そして動物が織り成すカオスな画面構成である。どこの学苑だ。
「文字だけでは訴求力がないからな。インパクトを出そうと色々入れといたんだ」
「インパクトしか伝わりませんよ! 素材をもう少し吟味してください」
 (同書、pp.48-49)


具体名を出しまくるネタの使い方も相変わらず。このポスター、意味不明だけれど容易にイメージできます。
あるいは相変わらずの塔崎深玖のズれっぷり。

「まずは幽霊の弱点を教えておくわ。幽霊は犬に弱いのよ。あとアメリカの幽霊はお腹の星を取ると弱体化するわ」
 残念、それが通用するのは幽霊じゃなくて、白い布を被ったみたいな「おばけ」の方だ。エンゲル係数を跳ね上げる以外に実害のない奴だから、今はほっとけ。
 (同書、p.100)


まさかの『オバQ』とは……後、作者はかなり『キン肉マン』ネタも好きなようですね。

牛タンくんショー編だけは急に漫画的にカリカチュアライズされたキャラが続出、地の文でツッコまれる始末なので驚きますが、これも十分楽しめる出来になっています。

一迅社文庫にしては珍しく、単行本と同時に電子書籍を発売するなど、それなりに売り出しにも力を入れていたように思われますが、上手く読者層と噛み合わなかったか、打ち切りっぽく終幕となってしまいました。
残念ですが、優秀な新人だけに次回作に期待しましょう。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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