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人の手の入った森の生態系――『イマドキの動物ジャコウネコ 真夜中の調査記』

今月、一時期は結構なペースで色々なものを読んでいた気がするのですが、最近は停滞気味。
そろそろ紀要論文の仕上げに入らねばならないこともあって、ブログ更新が滞っていました。

さて、先日の登山では、大量の虫にたかられました。
その中にはかなりの頻度で蚊もいます。人の血を吸いに来る蚊、ということは普段は野生動物の血を吸っているはずですが、野生の獣を見かけることはなかなかありません。
向こうも警戒しているはずですから、当然と言えば当然ですが……

しかしそんな中で、動物の糞は二度ほど見かけました。
一度は報告記事で述べたように、クマのものと推定される大量の糞。
そしてもう一つは、下記のような感じでした。

糞

形状から考えて、果実を多く食べる食肉類のものと推定されます。
タヌキは溜め糞場にまとめて糞をしますから、こうやって路上に落ちている可能性は低いでしょう。大きななどから考えてテン辺りが濃厚かな、と考えました。

――食肉類というからには肉食動物という印象がありますが、中には植物を多く食べるものもいます。
『クマが樹に登ると』でも触れられていましたが、クマはもちろんキツネもタヌキもテンも、結構な割合で果実を食べるのです。
それに、本来草食でない動物の方が、種まで噛み砕くこともありませんし、また消化管もあまり植物の消化に向いていないので、果実を食べて未消化の種を排泄する種子散布者として(植物にとっては)都合が良い、という面もあります。

 ~~~

そんなわけで、今回はこちらの自然科学書を取り上げさせていただきます。

イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記 (フィールドの生物学)イマドキの動物ジャコウネコ: 真夜中の調査記 (フィールドの生物学)
(2014/08/06)
中島 啓裕

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本書の著者が研究しているのは、東南アジアに棲息するジャコウネコの仲間、パームシベット(「シベット」というのはジャコウネコのことですが、和名表記が混乱を招くこともあり、本書中では「パームシベット」という表記で統一されています)。
ちなみに、香料の麝香(じゃこう)が取れる動物だからジャコウネコです。
「ネコ」とついていてもネコの仲間ではありません。ハクビシンもジャコウネコの仲間、と言えばそのサイズや形状などはある程度イメージが摑めるでしょうか。

※ ちなみに余談ながら、昔は食肉目はまず「裂脚類」(イヌやネコのように、指の分かれた足を持つ仲間)と「鰭脚類」(アシカ、アザラシ、セイウチといった、四肢が鰭になっている仲間)に分かれ、裂脚類の中にイヌ上科とネコ上科がある、という分類だったものですが、最近の系統重視の分類だと、かつての「鰭脚類」はイヌ亜目に入る模様。

食肉目系統樹
 (中島啓裕『イマドキの動物 ジャコウネコ』、東海大学出版部、2014、p.75)


著者は元々、ドリアンの種子散布から研究を始めたということで、本書の序盤3分の1はその話に費やされています。
ドリアンの種は数cmある大きなもので、確かにこれを飲み込んで運んでいく動物は限られそうです。
それはオランウータンだとも言われていましたが、その実態はさにあらず……
ドリアンとオランウータンの話は、同シリーズの『野生のオランウータンを追いかけて』(このブログでは紹介記事を書かないままでしたが、2013年10月の読書メーターには一応レビューがあります)にも少し繋がる話です。

ただ、そこから著者の研究はシフトしていきます。

 これまで多くの研究は、(私がまさにそうだったように)原生状態が保たれた森林で、大型果実と果実食者の関係を「本来の」あるべき姿としてとらえ、失われつつある関係性を記載することに多くの努力を注いできた。(……)
 (同書、p.58)


しかし実のところ、果実を付ける植物と種子を散布する果実食動物は、それほど1対1の関係を築いているわけではなく、そして森の生態系は何千何万年という時間の内に変化しているものなのです。

私たちは熱帯雨林の動物というと、人の手の届かない森の奥でひっそりと生活している、といったイメージを持ちがちですが、実は人の手が入り、人工の道路が走る森ので生きている動物もたくさんいる――著者は「まえがき」でそんな話から始めており、まさにそんな、人の手の入った森林の生態系というモチーフが、著者の研究の軸になっています。
パームシベットはまさに、熱帯雨林の中でも人の手の入った伐採林で栄え、そうした森林の生態系において大きな役割を果たしている動物なのです。
タイトルにある「イマドキの動物」というのも、「人間の手による開発がこれだけ進んだ今」の動物という意味でしょう。

パームシベットが原生林と伐採林のそれぞれでどのくらい活動しているのか、特定の果実を選択的に食べ、しかも熟した果実を厳選する食性、食べたものを2時間程度で排泄する消化機構、開けた場所に糞をする習性…等が種子散布にいかなる役割を果たしているのか……といったことが分析されていきます。

上でも触れましたが、同じ「フィールドの生物学」シリーズの『クマが木に登ると』とは果実食動物の種子散布における役割という点で、『野生のオランウータンを追いかけて』とはボルネコ島(※)の熱帯雨林という点で共通するものがありながら、当然それぞれの研究の観点には違いがあり、そうした他の研究所を時に思い出しながら読むのもなかなか楽しい1冊でした。

※ インドネシアの他の島々と同じく現地名を使うなら「カリマンタン島」ですが、本書中でも「ボルネオ」ひょきが用いられているのでそれに倣います。


ちなみに帯には「魅惑の麝香、幻のコーヒー コピ・ルアク、誘惑する霊猫香」とありますが、それは本書の研究内容にはあまり関係ありません。
とは言え、一応それらについての説明はあります。
コピ・ルアク(シベットコーヒー)とは、コーヒーの実を食べたジャコウネコの糞から取り出したコーヒー豆で作ったコーヒーです。
このコーヒーが美味しいのは、ジャコウネコが食べた果実に漬け込まれたからと言われていますが、ジャコウネコの消化酵素によって変化が起きているからだという研究もあるとか……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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