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同朋なき化け物の旅路の果ては―――『アリストクライシIII with you』

論文の仕上げで忙しいとか色々言っていますが、最大の問題は自分のやる気。
少しブログも停滞してしまいましたが、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

アリストクライシIII with you (ファミ通文庫)アリストクライシIII with you (ファミ通文庫)
(2014/08/30)
綾里けいし

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 (前巻の記事

ただし最初に言っておかねばなりませんが、本作はこれにて最終巻です。
作者も売り上げの都合で……と言っている通り、打ち切りです。数字が出ている気配があまりなかったので、懸念はしていましたが。

家族を殺された復讐に、同族の「穴蔵の悪魔(アリストクライシ)を皆殺しにせんとするエリーゼの旅も未完で、「名前のない化け物(グラウエン)とされていたグランの正体に関しては、終盤で少し示唆されただけ。
無理に畳むよりは、再開できる可能性を残したとのことですが、返す返すも残念です。

さて今回、仇たる「穴蔵の悪魔」の姉妹、ベイリークロエがいると聞いたエリーゼは、ロミニアの街にやって来ます。
しかしその街は、「吸血鬼」「少女義賊」の噂で賑わっていました。
この事件にベイリーとクロエはどう絡んでいるのか――

そしてそこでエリーゼに突き付けられるのは、一つの重い問い。
奪った者は奪われる。だからこそエリーゼも、自らの家族を奪った同族たちから今度は奪うべく、復讐の旅を続けています。
けれどもそのことによって、今度はエリーゼも、奪われる立場になるのではないか? 彼女には本当に、奪う覚悟、奪われる覚悟があるのか――

「化け物っていうのは、そういうもの。奪うっていうのは、そういうこと。何もかもを笑い飛ばして、泣き喚いて、持ちたいものだけ持たないといけないの。縋っては駄目」

 欲しいものを傲慢に手に入れることと大切な何かを得てしまうことは、全然違うわ。
 (綾里けいし『アリストクライシIII with you』、エンターブレイン、2014、p.204)


章間に挿入される「彼女の御話」と「少女の御話」は、いかにもエリーゼのことのように見えます。
しかしそれが誰のことなのかは最後に分かり、同時にエリーゼとの重なりが多くを示唆します。こうした構成も相変わらず巧みです。

そして、行く先々に現れた青年・ケンジーの正体も(少しだけですが)語られます。
人間のため、守るために戦わないか、というエリーゼへの誘いも、そこにはありました。
けれども彼女の旅路は――

元々「穴蔵の悪魔」は、「領地」と「賜り物」という異能を持っており、人間より生命力は強いものの、外見はほとんど人間と変わりません。
しかもエリーゼは、とても人間的な心の持ち主です。
けれどもそんなエリーゼが、やはり「穴蔵の悪魔」であることは重大な意味を持ちます。
自らを化け物と自認し、しかも同族の化け物全てを敵とした彼女は、徹底して同朋なき孤独な存在です。
そんな彼女にとって、やはり化け物で、しかも同族すら見当たらないグランは、この世で唯一無二の大切な連れです。


彼女は人間の仲間にはなれるのか。
化け物殺しの化け物として、傲慢に全てを奪う化け物になれるのか。

 辛くはないのか、フロー・リーゼ。
 寂しくないのか、フロー・リーゼ。

 人にも化け物にもなれなくて。
 (同書、p.268)


こんな童謡調の詩を随所に差し挟んだ本作の美しさは、ぜひその目で確認していただきたい。


本作はゴシック・ホラーといって違和感のない作品です。
血腥い事件、しばしば救いなく終わるゲスト登場人物の末路……といった要素はシリーズを通じて変わらない、いやそれどころか最近完結となったデビュー作『B.A.D.』とも共通しています。

それでも、作者の描く物語にはかなりの幅があります。
ただの人間は、怪物的な力を持つ存在に翻弄されるだけの哀れな存在であることもあれば、むしろ特別な力を持たない人間の孕む闇こそが悲劇を生むこともあります。
恐ろしいのは人間か化け物か――作者はそれを必ずしも一義的には描きません。

そしてまた、多くはゲストキャラを中心とした事件に主人公が関わる話なので(『B.A.D.』では主人公の務める霊能探偵事務所に依頼が舞い込み、本作『アリストクライシ』では主人公が旅をして行く先々で事件に出会うという形で)、一見すると途中の話がどうあれ、主人公の話はいつでも進めることも進めないこともできそうに思われます。
ただ、実情はそう簡単ではなく、一つ一つの件の積み重ねがシリーズ全体に生きていることは、今までの成果が確かに現れた『B.A.D.』終盤に顕著でした。
日常系とは別の意味で、似たような繰り返しの中に確かな積み重ねがあります。
『アリストクライシ』もおそらくそうした長期構想があったがゆえに、急に畳むこともできなかったのでしょう。
それが今後において、ライトノベルという急場の売り上げに左右されやすい世界で吉と出るか凶と出るか分かりませんが……


さらに言えば、『ホラーアンソロジー 赤』に収録されていた「猫ノ手ノ子」の原型は作者の大学時代の作ということで、初期の作品と言えると思われるのですが、これもいじめられていた少女と鬼子として恐れられていた少女チヒロとの友情が軸になった話で、「鬼子」という題材は作者のかなり一貫した題材であるように思われます。
『B.A.D.』も、主人公の小田桐勤という男が孕んだ鬼の子を巡る物語と見ることもできます。

本作の場合も、人間から生まれる「鬼子」ではなく化け物(穴蔵の悪魔)は化け物から生まれ、化け物の家族や社会も存在するのですが、エリーゼは人間そっくりであっても人間ではない化け物であると同時に、同朋全てを敵に回したという、二重の意味で鬼子でした。
そんな彼女の、しかも復讐という失うものばかりで得るもののなさそうな旅の果ての運命は――

それを見ることができなかったのは残念である一方、確かにグランと寄り添いつつ終わることができたのは、幸福だったのかも知れません。
でもやはり、再開の機会が万一にもあるならばそれを望みますが。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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