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閉ざされた少女の園、そして剃毛――『四人制姉妹百合物帳』

今回の小説は同人誌作品ですが、是非とも紹介したいという思いがあるので、取り上げさせていただきます。

四人制姉妹百合物帳
(↓COMIC ZIN にて委託販売されています)
 四人制姉妹百合物帳

作者はライトノベル作家石川博品氏。
何でも本作は、2011年に書いたもののどこのレーベルに持ち込んでも出版を拒否されたとのことですが……しかしこうして同人誌でも何でも作品を発表するという気概は、存外重要なものかも知れません。デビューしたもののそもそも新作を書く気配すらなく姿を消す作家も多いわけで、書かねば始まりませんから。

本作の舞台はお嬢様学校として知られる女子校・閖村(ゆりむら)学園
この学園の高等部では、生徒たちが「サロン」という――部活動とは異なる――グループに所属するという習慣があります。
そんな中、御厨杜理子(みくりや とりこ)は引っ込み思案で、賑やかなサロンに入る気にはなれなかったのですが、しかし各所のサロンからの勧誘は引きも切らず。
見かねた親友の佐用島紗智(さよしま さち)は、新たなサロン「百合種(ユリシーズ)を自分たちで立ち上げ、二人だけの場にすることに成功します(この漢字にカタカナのルビで独特の言葉遊びになっているネーミングは作中に登場する他のサロンにも共通しており、そういう文化なんだなの思わせてくれるのだから感心します)。

時は流れ、杜理子と紗智は3年生になり……二人だけの場として加入を希望する新入生を断ってきた「百合種」にも、今や2年生の時岡有希奈(ときおか ゆきな)が加わっており、さらには1年生の田北多恵(たきた たえ)が加入を希望してきました。
かくして4人になった「百合種」の「姉妹」たちが繰り広げる様々な騒動の1年間――

「トリちゃんも行こうよ」
「えー、私はいいよぉ」
 そうはいうものの、杜理子は「百合種」のメンバー総出で外を歩くことが好きであった。並んで歩く三人をしまいだと想像して楽しむのだ。一番背の高い杜理子が長女で、次女の紗智、三女の有希奈と、順に低くなっていく。そしてこの姉妹は外見に三者三様に特徴を持っている。
 (石川博品『四人制姉妹百合物帳』、2014、p.43)


この引用文は多恵が正式に加入する前のものなので、まだ三姉妹扱いですが……

タイトルは「捕物帖」とかけていますが、別に何かの事件を追う「日常の謎」的な話、というわけではありません。
前半3分の2くらいは、彼女たちは――もっぱらアクティブな紗智の主導で――バカ騒ぎを起こしています。

しかも、その主題はもっぱら「下の毛(陰毛)を剃ること」なのです。
加入試験として毛を剃れという話から、剃ったつるつるのあそこはどんなものだと言う話になり、それが賭けの題材になり、果ては章タイトルからして「閖村三十人剃毛」と大事になる始末。
陰毛の剃毛という題材は『後宮楽園球場』にもありましたが、今回も剃ったあそこを初めとして裸体についても開けっぴろげに描写されますし、他にも「乳首責め十段」とか、ある種の過激さを感じる性描写の濃さがあります。

もっとも、それでも品があるのが作者の文体の特徴。

 紗智の方は勝ち誇って自分の威光を示すように両手を掲げ、クラスメイトたちは「神の手(ゴッドハンド)!」「乳首神が降臨した!」とひれ伏さんばかりにしていたが、そんな中、杜理子は梓にほのかな反感を持ったことに対する罪滅ぼしのつもりで彼女を助け起こしてやったのでだが、そこで聞いた話によれば、紗智の親指によって上から折りたたまれた乳首の裏を中指の先で細かくこすられて、どろりとしたしびれが背骨の中ほどから股にまで流れ落ちると感じたところに、むかしの漢方医が薬を溶いて塗るのに使ったといわれる薬指でぎゅうぎゅうと乳首の先を締めつけられ、前後不覚におちいたのだという。
 (同書、pp.30-31)


石川氏の「である」調の三人称文体にある独特のしかつめらしさが、卑俗さを脇に追い遣ります。
確かに性感の表現としては中々に強烈ですが、官能小説の系統ならば薬指の名称に関する豆知識などで回り道をするよりも、もっと分かりやすく書くのが普通でしょうし……
『耳刈ネルリ』の元ネタに『韃靼疾風録』が挙げられていたことや、『後宮楽園球場』辺りの歴史めいた舞台設定のせいか、私はこの文体に少しばかり司馬遼太郎的なトーンを感じますが……歴史小説なら、閨房シーンも常備品ですし。

加えて、「百合種」のメンバーが3年生から1年生まで揃っているということは、このメンバーが一緒にいる期間は1年間しかないということです。
作中での季節が進むにつれ、自ずから最後は卒業と別れになることが予想されます。
実際終盤は、青春を共に過ごす仲間のかけがえのなさと別れを描いた、切なくも美しい青春小説となります。
バカ騒ぎのネタであり、引っ込み思案な杜理子は距離を取っていた「剃毛」まで、最後は感動的な場面に活かされるのですから驚かされる手腕です。

女同士の恋愛感情もあるのですが、それが問題になる後半では、官能的な描写は穏やかになるのもまた心憎いところです。


さらにもう一つのポイントとして、本作はタツヤという男子高校生の聞いた話という体裁を取っています。
各エピソードの前後にはタツヤの一人称によるパートが入り、そして伝えられる「百合種」の物語は上述の通りの三人称です。
しかも彼に「百合種」の話を語るのは、四人姉妹の中にいた人物ですらなく、タツヤの小学校時代の同級生にして杜理子の妹・句美子(くみこ)です。
つまり作中で語られる期間中、句美子はまだ中学生で、現場にはいませんでした。句美子自身ですら直接見聞きしていないことをさらに他人に語るという、多重の伝聞になっています。
しかしそれゆえに、姉の杜理子からも、また現在閖村の高等部で共に過ごしている多恵からも話を聞ける立場の句美子の話であるがゆえに、三人称で多様な視点から語ることが可能になっているのです。
そしてこのことにより、前半は杜理子主体であった視点に、後半は多恵や句美子の視点が入り、彼女らの切なくも複雑な関係を浮かび上がらせることも成功しています。

多くの場合、ライトノベルには男主人公(それも中高生の年代)が必要で、百合は流行らないものとされています。
しかしでは、百合にそれを鑑賞する男を放り込んだらどうかというと、それは普通ならば違うでしょう。
「女の園」において期待されるのは、男性目線を意識した恥じらいではなく、むしろ女ばかりだから平然と服を着崩すような無頓着さであり、そこに男を放り込んだら台無しです。

しかし本作の場合、平然と裸になるような女子校の世界を描きながら、なおかつ少年の伝聞という形で、それを男性読者の世界に繋ぐことに成功しています。
タツヤはその中には一切その存在を匂わせず、読者の感情移入の対象にもならないのですが、繋ぎ手たり得ているのです。
そして彼の視点はまた、閖村という閉ざされた少女たちの園が遠い世界であること、それどころかしばしば会って楽しく話している相手である句美子ですら遠い存在であることをも、同時に示します。
最初はタツヤ視点のパートと、「百合種」の物語の季節が並走していたのが次第に開いていき、一足も二足も早く卒業シーズンを迎えてしまうことも、この印象を強めて終わります。

やはり、作者の近さと遠さに関する感覚には卓越したものがあります。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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