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魔王と勇者、あるいは足長おじさんと少女――『世紀末救世主伝説―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~』

半分くらい読んで放置してある本の多いこと。
読み終わらねばその本自体の内容について云々することはできず、「読んだ」ものとして語るわけにも行きませんし……しかし、得たものがないわけではないのであって、こういう積み重ねも存外大切か、と思っています。

 ~~~

さて、今回はこのライトノベルを取り上げさせていただきます。

世紀末救世主伝説 ―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~ (一迅社文庫)世紀末救世主伝説 ―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~ (一迅社文庫)
(2014/08/20)
松山 剛

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最近、一迅社文庫が急激に電子書籍化を進めているので、本作も電子書籍化されている↓のですが、AMAZONでは書籍版と電子書籍版の間に直接リンクがない模様。不便です。

世紀末救世主伝説 ―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~ (一迅社文庫)世紀末救世主伝説 ―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~ (一迅社文庫)
(2014/09/05)
松山 剛

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作者は松山剛氏。一迅社文庫での仕事は6年ぶり、というくらいで結構以前から仕事をしているのですが、電撃文庫での『雨の日のアイリス』で一世を風靡した作家ですね(本作の作者プロフィールにも「代表作に『雨の日のアイリス』」とありますし)。
ただ、『アイリス』に関する私の評価は微妙なものもありましたが……その理由に関しては考えを変えた部分もあるものの……まあいいでしょう。追い追い多少はそれにも触れます。

本作の主人公は、圧倒的な力をもって魔界を統一した魔王ヘメロカリスです。
しかし、統一されすっかり平和になった魔界で、やることは書類の処理だけという日々に退屈していた彼はある日、『でんせつのゆうしゃ』という絵本を目にして触発されます。
自分もそんな勇者と戦いたい……と思って人間界に向かった魔王ヘメロカリスですが、そこで彼は目にした人間界は、「ヒャッハー!」とモヒカンが暴虐を尽くす世紀末。
伝説の勇者の子孫グランディス・ホーリーホック(この時点で3歳の少女)も、病気の母と二人、内職をして食いつなぐ極貧生活を送っていました。
グランディスの健気な姿に心打たれた魔王は、足長おじさんとして彼女を支援することになるのですが……全てはいつか彼女が成長した時に「魔王と勇者の戦い」を実現するために。

というわけで、本作の基本トーンはコメディです。
魔王が勇者を育てるという錯綜した関係もパロディ的ですし、「魔王と勇者」「剣と魔法」のファンタジーに『北斗の拳』風のモヒカンが跋扈する世紀末を接ぎ木するというハチャメチャな世界観も然り。
その上ヘメロカリスの性格はきわめて子供っぽく、思いつきにより軽薄なノリで突っ走ります。彼の正体を知らない人間は戸惑い、参謀のシャルは仕事に引き戻すべく叱る……コメディ調なのは間違いありません。

ただ、本作の軸であり作者の持ち味でもあるのは、むしろ暖かいいい話なのでしょう。
健気かつ真剣にも他人のため、世界のために戦おうとしている勇者の少女と、退屈しのぎを求めているだけの魔王のズレ、それによる二人の奇妙な関係、そして魔王のために真摯に尽くし続けている参謀のシャル(魔王によってグランディスは娘のようなものなので、シャルの方がヒロインですね)……そこにドラマがあります。

その分(それが一迅社らしさと思ったのか)、あえて破天荒なコメディにしようとして空回りしている感は否めません。

『北斗の拳』のモヒカンたちはバイクで走り回っていましたが(こちらも、文明の崩壊した世界でいつまで燃料があるのかという疑問はあるものの)、本作のモヒカンたちは馬車を駆っています。
人間界には領主も国王もいるようで、「魔王と勇者」「剣と魔法」のファンタジーならば前近代的西洋封建制(風)社会という前提も生きているようです。
しかし、しばらくすると、資本家が労働者を搾取する「格差社会」になっていたりします。
また、わらじ編みや造花作りの内職となると今度は、往年の(もちろん日本を舞台にした)ドラマで見たような光景です。
(このズレのせいか、勇者が自分の履いているわらじを脱いで渡すはずが、イラストではブーツを履いているという珍事も。その他にもイラストではビキニ鎧の彼女が上着を脱いで人にかけてやるとか……まあこれらはイラストの問題なのであまりとやかく言わずにおきますが)
さらに言えば、幼稚園まで初等教育は存在しているとか……

こうしたチャンポンな世界観で、場違いなものが出てくるのは確かにギャグの基本ですが、それを売りにするには本作はパンチが弱いと言わざるを得ません。
まずネタとしてモヒカンの「ヒャッハー!」がそう何度も出てくる時点で苦しい。
もっと濃密に、数ページごとに新手の違和感のある存在が出てくるとか、丁寧なツッコミを入れるとか、はたまた「この違和感のある取り合わせを行くところまで突き進めたらどうなってしまうのか?」を追究するくらいでないと物足りません。

これが「いい加減な設定で笑わせるネタ」なのか、それとも単に作者がいい加減なのかと考えた時、前者の意図で書かれたものであっても、ネタとしての扱いがあっさりしているがゆえに後者に見える、あるいは(ネタとしての作りが甘いという意味で)後者になってしまっている、とでも言いましょうか。

そもそも「魔王と勇者」の通常の関係(=勇者が魔王を妥当する)を転倒するのも、魔王や勇者を異他的な世界観に放り込みのも、数知れぬ先行作品の存在するネタです。
いや、「魔王と勇者」というジャンルに限らずとも、同じくらいバカなことをもっと真面目にやりきった作品は存在するのに、本作はバカに徹してやりきらず表面的に流してしまっている、だから物足りないのです。

さらに、タイトルにある魔王の「世直し」ですが、これは描写としては1ページ足らずで終わります。
もっとも、十数年が経つとまた世界が荒廃していたりもするのですが――

「自浄能力がないからです」
 シャルは平然と言い放つ。
「魔王さま、人間界の腐敗を甘く見てはいけません。たしかに、魔王さまのお力により、独裁者も、私服をこやす役人も、主要な犯罪集団もすべて追放されました。しかし、それは一時的なことです。時が経てば貧困と格差は拡大し、このように社会は荒廃します」
「マジかよ……」
 魔王は頭を抱える。
 彼は人間界の腐敗を甘く見ていた。絵本の中に出てくる人間は、基本的に善良な者たちで、たまに悪人が出てきてもそれが全体に広がるということはなかった。悪い王様とか、私服をこやす大臣みたいなのはいても、そいつらをやっつければすぐに国が平和になった。しかし、目の前の人間界はどんなに悪党を成敗しても良くならない。
 (松山剛『世紀末救世主伝説―魔王― ~勇者の少女を育てるために、魔王の俺が人間界の世直し始めました~』、一迅社、2014、p.68)


貧困層の暮らしぶりは魔界の最下層より酷い、という記述と言い、これまた風刺的、寓話的な方向で突き詰めればそれだけでも作品が作れそうなネタですが、こちらもあっさりした扱いに留まっています。
第四章「ブラック企業で働く魔王」では、天下り的に悪人を成敗する魔王の「世直し」とは違う勇者の「世直し」が奏功するという場面もあるのですが、そうした魔王と勇者の対比がその後の展開に活かされるかと言えば、そういうわけでもなく。

結局、作者のスタイルはあくまでヒューマニズムであり、たとえ人間以外の存在やそれにまつわる世界観を描いても、そうしたものをそれとして活用するというよりは、あくまで暖かい「人間ドラマ」に繋げるタイプなのでしょう。極めてヒューマニスティックなロボットたちを描いていた『雨の日のアイリス』と合わせても、そう感じます。
それでも一つの感動的なドラマとしての完成度を誇っていた『アイリス』に対して、本作はギャグを主体にしようとして、上手く消化できていないという印象です。

後半、魔界編に入ると急にエロの比重が上がりますが、エロ描写自体はともかくとして、毎回グランディスの平手打ちで締める定番のオチの繰り返しで、これもいささか……

結局、いつも言っていることですが、作者の持ち味は何かということ、そしてバカなネタでも半端にせず突き詰めるということ、この二点に尽きます。


氷の国のアマリリス (電撃文庫)氷の国のアマリリス (電撃文庫)
(2013/04/10)
松山 剛

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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