スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Amazonという幻想の入り口――『Amazonで変なもの売ってる』

今回取り上げる小説はこちらです。
シンガーソングライター谷山浩子氏、20年ぶりの新作小説とのこと。

Amazonで変なもの売ってるAmazonで変なもの売ってる
(2014/08/07)
谷山浩子

商品詳細を見る

タイトル通り、大手通信販売サイト Amazon をモチーフにしていますが、これはあとがきによると、当初 Amazon のサイト内にあったウェブマガジン『マトグロッソ』に連載されていた小説であるため(本作の連載中に『マトグロッソ』は Amazon から独立)。

本作の主人公は花見山(はなみやま)ミカルハルルの姉妹。
姉のミカルは大のネットショッピング好きで、好き勝手に突っ走る性格。常識人寄りの妹ハルルはいつも振り回されています。
発端は、ある日ミカルが Amazon で得体の知れない商品を見付けたこと。
なにしろ商品名が「んぐぁをりhkの」です。
正体を知りたいと思い、即断で買ってしまうミカル。
しかしその結果として、二人は世にも奇妙な世界に巻き込まれてしまうのでした。

この件には、人類とは本来相互干渉不可能な存在が関わっていました。
ただ、彼らは人類と干渉する方法を見出し、物理的存在を作り出すことにも成功していました。そもそも Amazon 自体が、彼らの作り出したものを人類のもとに送り込み、その完成度をテストするためのシステムだったのです。

人智を絶した存在からの知られざる干渉……どこかクトゥルー的な話です。そう言えば彼らの代表もグラフトと名乗っていましたし、ラヴクラフトを連想しないこともありません。
ついでに言うと、本来干渉不可能な彼らの存在を人類が見聞きできるのは、特殊なフィルターがかかっているからなのですが、このフィルターを通したものがどう見えるかは人により違い、同じものがミカルには猫に、ハルルには男の子に見えたりするのです。
で、その結果としてグラフト氏の名刺も、

「白夢を彷徨う輩、月蝕夜に這いずる禍々しき追手どもの統率者・グラフト」(ミカル談)
「執事ジェームズ・クラフト」(ハルル談)
 (谷山浩子『Amazonで変なもの売ってる』、イースト・プレス、2014、p.28)


と見えたり。前者の修辞もなにやらクトゥルー的です。
まあこれは、「ミカルにはそう見える」、つまり相手の性質というよりはミカルの趣味なのでしょうけれど。

それはともかく、本作も作者らしく、この世ならざる世界に旅をしてめくるめく幻想的なイメージが展開される作品なのですが、『不思議の国のアリス』でアリスの飛び込んだウサギの穴に相当するのがパソコン画面(Amazon のカスタマーサポートページ)というのが、いかにも現代的です。
しかし考えてみれば、元々通販サイトというのは何が出てくるか分からないところがありますし、名前からして Amazon、未知のジャングルで交易をしているような感覚です。だからこの設定、割としっくり来ます。Amazon だけでなく、「Amazonポイントと楽天ポイントとYahooポイントとTポイントとnanacoポイントとその他いろんな企業のポイントが、競い合うようにたまっては消費されていくらしい」(同書、p.13)なんて実名を列挙した記述も、アクテュアリティを出すのに成功しています。

そして何より、ミカルとハルルの軽妙な掛け合いが実に楽しく、また Amazon に現れる「変なもの」や異世界の描写も笑わせてくれます。

 それは、妙になれなれしい口調の商品説明だった。
 一行目は、こうだ。

 ――えっ、まだ携帯電話をジャラジャラさせて歩いてるの!?

「ジャラジャラ……」
 ハルルは一瞬考えて、
「わかった。ミカちゃん、これストラップだよ。携帯本体じゃなくて」
「あたしもそう思ったんだけど、違うみたい。続き読んでみて」

 ――えっ、まだ携帯電話をジャラジャラさせて歩いてるの!?
 ――携帯ジャラジャラなんてもう古いよ! これからはザザホンの時代!
 ――これ一大で、家族と、友達と、オフィスにかけれる!
 ――すごいでしょ!? 世紀の大発明だよ! ノーベル賞狙ってまーす!
 ――なーんてね。冗談冗談!
 ――でもザザホンがすごいのは冗談じゃないから!
 ――これ使ったら人生360度変わっちゃうよ!

「文章バカすぎる……」
「同感だけど、それより言ってること変じゃない?」
「変だよ。360度ってもとに戻ってるじゃん」
「そこじゃない」
 ミカルは妹の頭をはたいた。
「携帯一台で家族と友達とオフィスにかけられるのが、なんで世紀の大発明なのよ」
「うん……」
 (同書、pp.59-61)


女言葉控えめの二人の口調、ツッコミも備えた掛け合いなど、ライトノベルだと言われても違和感がありません。作者の昔の小説と見比べても差は明らかです。
「んぐぁをりhkの」というネーミングからして、ネット上で時々見かける、キーボードを適当に叩いたネタのような感じですし。
通信販売という現代的なモチーフと言い文体と言い、50代後半にしてなおも現代的なセンスを自然に取り入れる作者の感性のしなやかさに感心します。

「あたしはだまされないよ、グラフト!」
 ミカルが高らかに宣言し、またも人差し指を突きつけた。その表情と声の調子から察するに、どうも何かと戦っているらしい。
「グラフトさん、ミカちゃんはほっといていいです。さっきの続きを聞かせてください
「承知いたしました」
「ヘイ、グラフト、妹をたぶらかそうとしても無駄よ!」
 ミカルの声が半オクターブほど高くなった。目が潤んできらきら輝いている。調子が出てきた証拠だ。姉がどんなものを見て、どんなものと戦っているのか、ハルルには見当もつかなかった。

 部屋のすみに二脚の椅子を持っていき、ハルルとグラフトは向かい合って腰を下ろした。
 ミカルも芝居がかったセリフを吐きながらついてきたが、途中で足を止め「結界が……」「卑怯な……」などとつぶやいたあと急に無口になって、それ以上そばに寄ってこなかった。
 (同書、pp.35-36)


こんなミカルの奇行もライトノベルの「中二病ヒロイン」だと言っても通用しそうです。
まあライトノベル的でないのは、女主人公であることに加えて、二人が二十代の成人女性だということですが。それにしては子供っぽい会話ばかりですが、これはミカルの性格に加えて、姉妹という幼少時からの付き合いの相手と一緒にいる場面がほとんどだということにもよるのでしょうか(彼女たちの年齢が判明するのは後半なので、それまで年齢のイメージが摑めませんでした。「少女的」な世界を描き続けられるのも作者の凄みでしょう)。

はたまた、携帯電話が妙な方向に発達した世界の描写――

「どの携帯も、昔はもっと小さな音でした。それがいつの頃からか、各メーカーが競い合って大きな音の出せる携帯を作るようになったのです。理由はただ、周りの人間に聞かせるためです。電話がかかってくるということは、友達がいること、仕事が忙しいこと、家族に必要とされていることの証明だと誰もが信じ、自分がそういう人間だと周囲にアピールしたがりました。音量協奏は激化し、街は携帯の音に占領されました。騒音のために不眠やストレスで命を落とす者が出始めて、建物の防音設備が義務付けられる事態となりました」
「携帯の音がうるさくて通話ができないんじゃ本末転倒ですよね」
 (同書、pp.74-75)


まあそもそも、本作に登場する異世界の連中は人間には知覚することも触れることもできないという設定なので、文字通りにこういう世界が存在するわけではないのですが……しかしナンセンスなような、どこか寓話的なような。

とは言え、本作のほとんどの部分は意味を求めることは困難です。
やはり、『不思議の国のアリス』的なナンセンスこそが持ち味の一つである作者ですから。

一応、「変なもの」が Amazon に出品される真相は序盤で分かっているので、後はどんなものが出てくるかだけかと思ったら、後半はさらに不可解な事態の連続です。
児童文学的なスタイルだった『お散歩宮・お昼寝宮』などはまだ、少女の冒険・成長・帰還という分かりやすい枠がありましたが、本作はそんなものには囚われず飛ばしているので、なおさらです。

寓意を云々する以前に、何が起こったのかを説明するのも困難なほどに。

ラストは今まで通りの平和に戻ったようでいて、消えたある人物のことを考えると恐ろしくも物悲しいものです。

現代的なテイストをふんだんに取り入れつつ、谷山氏らしさを存分に味わえる一冊でした。

後は、本作をモチーフとした楽曲は出ないのでしょうか?

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。