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中国版と台湾版

ごくたまに訊かれることがありますが、私は西洋哲学を西洋語で読んで研究しているけれども、それが日本語にどう翻訳されているか、にはあまり興味を持っていません。
もちろん、日本語で論文を書くためには用語や引用文を翻訳せねばならず、既成の翻訳ではどう訳しているのか、定訳はあるのか、といったことを押さえておかねばならないこともありますが、複数出ている翻訳相互の違いとか、そういうことはあまり問題にする気になりません。
『純粋理性批判』(カント)とか『存在と時間』(ハイデガー)とか、一体いくつ翻訳が出ているのか、とは思いますが。

さて、外国語→日本語の場合、既存の翻訳にはあまり興味を示さない私ですが、日本語→外国語、とりわけ文学の翻訳のことは結構気にしています。合間に趣味でではありますが。


というわけで、何度目かのライトノベル海外翻訳のお話です。
ライトノベルが一番多く翻訳されている国は、今のところおそらく台湾でしょう。
管見に入った限りではただ一例ですが、台湾版あとがきが加筆されていたケースもありました(「舞台となるその地は」の記事参照)。

他方で、一番多くの言語に翻訳されているライトノベルと言えば、『涼宮ハルヒ』シリーズでしょう。
しかし、私も今まで『ハルヒ』の台湾・中国語版には触れてこなかった(西洋語訳は取り上げてきたのに)、ということで……

ハルヒ中国語版

タイトルの違いにお気付きでしょうか。
左が中国大陸版(上海译文出版社)、右が台湾版です。

中国大陸版はこちら↓

凉宮春日的憂鬱凉宮春日的憂鬱
(2012/01/01)
谷川流

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台湾版は Amazon には見当たらないので、台湾角川のサイトから入手しました。

いずれもちゃんとイラストも収録しており、口絵のデザインなども基本はそのままです。
件のハルヒも台詞(「ただの人間には興味ありません~」)もかなり似通っています。
ただ、字には簡体字と繁体字の違いがありますし、文字の大きさなどに若干の違いも……

ハルヒ中国語版 口絵
 (上が台湾版、下が大陸版)

宇宙人が「外星人」、未来人、異世界人、超能力者はほぼそのままなのがお分かりいただけるでしょうか。
ただし、異世界人に関しては、台湾版だと「異世界的人」と「的」(ほぼ日本語の「の」に相当)が入っていますが。
そのまま単語をくっつけて造語していいのか、「の」を入れるべきかは日本語でもしばしば悩むポイントです。

本文は訳者も違い、全く別物です。
何より大きな違いとして、大陸版は横書きです。

ハルヒ中国語版 本文
 (クリックで画像拡大されます)

それから、台湾だとイラストレーターの名前はひらがなのまま表記されていたり。台湾ではそれだけ日本語の通用率が高いから、なのでしょうか。
(大陸版だと「Noizi ITO」とローマ字になっていました。まあ漢字を当てるのも難しそうですし)

ハルヒ台湾版

 ―――

ついでにもう一点。入間人間氏の『安達としまむら』の台湾版です(これも台湾角川より)。

安達としまむら 台湾版

ようやく翻訳の話らしくなりますが、やはり気になるのは、言葉遊びがどう翻訳されるかです。
毎回のように出てくるしまむらの名前ネタに注目してみましょう。

(……)私の名字は島村で、それがどうにも苦手だった。島村といえば、しまむらなのである。どうもみんなからひらがなで呼ばれている気がしてならない。島崎とかの方がよかった。
 (入間人間『安達としまむら』、アスキー・メディアワークス、2013、p.19)


もちろん、「ひらがなで呼ばれている」は日本語以外では表現不可能です。

台湾版ではどうなるのか、該当箇所を見てみましょう。

(……)我姓島村、我對此實在實在轍。說到島村、就是流行服飾品牌「思夢樂」(註・日文中「島村」與日本服飾品牌「思夢樂」同音)。我總覺得大家都把我當成服飾品牌在叫。如果姓島崎之類的還比較好一還。
 (入間人間『安達與島村 1』(哈泥蛙訳)、台湾角川、2014、p.19)


「島村といえば、流行の服飾ブランド『しまむら』なのである(註・日本語では『島村』と「思夢樂(しまむら)」は同音)。みんなが服飾ブランドの名前でわたしのことを呼んでる気がする」という感じでしょうか。
註に頼っていますが、まあそうするしかないのでしょうか。それにしてもファッションセンターしまむらが「思夢樂」とは……。

これまたついでながら、『安達としまむら』の3巻ではしまむらのフルネームが判明しました。しかし、文豪を元ネタにしたその名前はおよそ女の子らしくなく、彼女がその名前よりも苗字の方を苦手に思っているのが不思議に思えるくらいでした。
しかしそれも、文豪の名前とかそのいかめしさを意識する以前に「島村といえば、しまむらなのである」というくらいにファッションセンターしまむらが身近にあるという、生活感の表れなのかも知れません。

彼女たちの生活空間は本当に岐阜の田舎町に根付いていて、デート(安達の認識では)の場所も郊外のショッピングモールだったりしました(3巻では名古屋駅まで足を伸ばしましたが)。
ゾンビに追われて逃げ込むならばともかく、この手のドラマの舞台としては華がないと思われ、あまり選ばれない舞台ではないかと思います。
けれどもそうした舞台に徹するのが、地に足の着いた日常の味わいを描く上での大きなポイントの一つなのでしょう。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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