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少女の戦う空――『ガーリー・エアフォース』

今回取り上げる小説はこちらです。

ガーリー・エアフォース (電撃文庫)ガーリー・エアフォース (電撃文庫)
(2014/09/10)
夏海公司

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作者の夏海公司氏はシステムエンジニアの仕事をリアルに描いた『なれる! SE』を刊行中の作家ですが、久々の新作です。

本作の舞台はプロローグが西暦2015年、本編が2017年と、ほぼ現代です。
プロローグで正体不明の敵「ザイ(災)が中国大陸に出現、大陸は危機に晒されます。
本編では、中国は相当に「ザイ」の侵略が進み、日本もいつ侵略を受けるかという状況になっています。

主人公・鳴谷慧(なるたに けい)は中国暮らしの長い日本人の高校生。幼馴染の少女宋明華(ソン ミンホワ)(日本は神戸生まれの中国籍)たちと共に上海から日本への脱出船に乗っていた時、ザイの攻撃を受けますが、そこで見慣れない戦闘機がザイを撃墜していくのを見ます。しかも、洋上に墜落したその戦闘機のコクピットに乗っていたのはペールピンクの髪の少女で……
その後、石川県の祖父母の家に暮らしていた慧は、色々あって自衛隊小松基地でふたたび彼女と巡り会います。
案の定、あの戦闘機と彼女はいわば自衛隊の秘密兵器だったのですが、彼女は(洋上に墜落したことからも分かるように)問題を抱えており飛べないということで……

ここで語られる設定によれば、ザイは戦闘機のような存在であるものの、人間ならばGに耐えられないほどの機動が可能で、しかもレーダーや人間の感覚を狂わせるシステムまで備えていて射撃は当たらず、普通の戦闘機では勝ち目がない相手です(ただし、攻撃が当たれば撃墜は可能)。
そんなわけで、ペールピンクの髪の少女は人間ではなく、「アニマ」と呼ばれる戦闘機の自動操縦機構でした。アニマならば、人間のパイロットには不可能な機動力を発揮することもできる、というわけです。
本人によれば彼女と機体の関係は脳と身体の関係であって、名前も機種名であるグリペンですから、宇宙船の頭脳体がアンドロイドであった漫画『マップス』に近い設定かも知れません。機体そのものの擬人化とは少し違うような……

さて、戦うことを存在理由としながら不具合を抱えて戦えず、このままでは廃棄処分になるかも知れない少女と、戦う力を欲しながら得られずにいたが、少女をサポートすることになる少年の出会い――何やら懐かしさを感じますが、王道で悪くはない設定です。断片的な知識を与えられてはいても経験に乏しく常識に疎いグリペンの姿や、二人の交流もきちんと描かれているとは思います。
ただ――

この1冊の中では、たとえばザイとは何なのか、ほぼ説明はありません。人間には不可能な動きをできるということは、人間が乗った兵器ではないのでしょうし、彼らの侵略の仕方も人間同士の紛争とは明らかに異質です。ただ今のところは、謎の「人類の敵」としか言いようがありません。
戦闘機の自動操縦機構であるアニマがなぜ人型でなければならないのかも不明です。そもそも、物を食べるくらいなのでロボットでもないようですが、では一体何なのか……

こうした疑問はさておいて、「そういうものだ」と受け入れて、そこから展開される物語を楽しむべきなのか――しかし本作が求める読み筋は必ずしもそうではないと、私には思えます。

本作は専門用語を多用しており、軍事面でも地政学面でも結構綿密な事実調査に基づいて書かれているように見えます。
何しろ、明華がちゃんと難民申請をしているくらいです。中国語で書かれた台詞も少なからずあって(広州天聞角川編集者の協力による、とのこと)、中国を強調しており、舞台が日本海側からの侵略を迎え撃つ前線としての小松基地というのも、リアルな国防を感じさせる設定です。

ザイやアニマ独自のシステムに関する用語は、主人公とともに「詳しいことはよく分からない」ものとして受け流しておけばいいとして――

 鏃のようなシルエットだった。細身の胴体、長く突き出したエンジンノズル、両脇に広がる巨大なデルタ翼。ザイのものとは明らかに違う、だが人民解放軍のそれとも異なる形状だった。
 (夏海公司『ガーリー・エアフォース』、KADOKAWA、2014、p.32)


(……)そもそも自衛隊にデルタ翼の戦闘機など存在しない。いずれも後退翼のスタンダードな機影ばかりだった。
 先尾翼(カナード)にデルタ翼、単発のエンジン。
 (同書、p.58)


これらはパイロットの母親を持ち飛行機に慣れ親しんできた主人公にっっては周知の知識ですが、飛行機マニア以外の読者にとって容易にイメージできるほど馴染み深い単語ではないでしょう。
まあそれでも、何が問題になっているかは分かるので、読むのにさほどの問題はないでしょう。

ただ、こうした専門用語を多用した文体は自ずから、作中オリジナルのSF的事柄に関しても、少なくともある程度の設定は存在することを期待させます。
何しろ本作では、現実に存在する戦闘機に自動操縦機構という架空の技術が接ぎ木されているのであって、両者は近い平面にあって割と密接に結び付いているのですから。

物語としてはこの巻はまだ序章なので、多くの説明が先送りになっているのは仕方ないかも知れません。
とは言え、グリペンに関しては「アニマの中でもイレギュラーなこと」「開発者にも分からないこと」があって、それが民間人の主人公が関わる理由にもなっているのですから、とすれば前提として「アニマ一般について開発者には分かっていること」をもう少しはっきりさせておいても良いのではないか、という気はします。

さらに、それでもグリペンたちの中身に関わるある情報が200ページくらい(全体の3分の2を経過しています)で出てきたかと思うと、それが非常に重大な事柄として扱われながら、それを知った主人公の葛藤が10ページくらいで一決着してしまうのには流石に首を傾げました。
展開のテンポに関して言うと、もう一人のアニマであるイーグルが後半で登場して、それほど活躍しないのに日常シーンには割り込んできたりするのも疑問でした。

話のテンポと情報の出し方に関しては、少なからず疑問が残りました。

それから、もう一つ気になるのはザイの描写ですね。

 不明機は奇妙なシルエットだった。翼がやたらと前方に位置しM字にうねっている。尾翼はなく機尾が円錐状に尖っていた。機種が光っているのは陽光のせいか。塗装も空の青を塗りこんだような不思議な色合いだった。いや……違う、塗装ではなく透き通っているのか。あたかもガラス細工のごとく不明機は周囲の景色をぼんやりと透過させていた。
 (同書、pp.16-17)


(……)ガラス細工のような翼、幾何学的なシルエット、そして機首に煌めく黄金の輪。
 (同書、p.24)


これで具体的なヴィジュアルイメージを抱くのは、少し困難です。
ライトノベルの場合、ヴィジュアルイメージはイラストに委ねるという手もありますが、ザイに関してはイラストもありません。そもそもイラストレーターも、ここからイメージを摑めるのかどうか分かりません(作者とイラストレーターが綿密に打ち合わせをしていれば、イラストレーターは本文以上の情報を得られるでしょうが)。
空戦のシーンを読んでいると、風を切って空を駆けるイメージと感覚は伝わってくるので、作者にヴィジュアルイメージがないわけではないでしょう。
ただ、力が入っている箇所はいいのですが、所によっては「何を読者に伝えておくべきか」がおざなりになっているような……

ボーイミーツガールとしての筋、空戦のロマンといったところは良いので、今後に期待しておきましょう。


マップス 01 (コミックフラッパー)マップス 01 (コミックフラッパー)
(2014/03/31)
長谷川 裕一

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全くの余談ですが、「人間のパイロットには耐えられない動きの機体を駆るアンドロイドの少女」「それと接触し、共に乗り込みもする主人公」といったモチーフは、入間人間氏の『おともだちロボ チョコ』と若干の被りを感じました。
まあチョコと違って本作のアニマはロボットではありませんし、人型ロボットと戦闘機では隔たりも大きいのですが、時期的に重なって共通したネタを見ることがしばしばあるのが面白いところです。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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