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大いなる知と研究者の倫理――『再生のための創形魔術』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

再生のための創形魔術 (一迅社文庫)再生のための創形魔術 (一迅社文庫)
(2014/09/20)
扇 智史

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作者は扇智史氏。ファミ通文庫でデビューした作家ですが、今年一迅社文庫に移って刊行した『最終戦争は二学期をもって終了しました -壱ノ刀・カグヤ-』が、商業出版社から紙の単行本として出た作品としては6年ぶりの復活刊行となりました。本作はそれ以来の新作、一迅社では2冊目の作品です。

なお、表紙が割と露骨なパンチラになっていますが、これも帯を付けると見えない仕様になっています。
こうした帯を計算した表紙デザインは、ライトノベルにおいてはかなり広く流布したものです。

再生のための創形魔術 表紙

さらに驚いたことに、お色気サービスを意識したイラストはこの表紙だけで、本文中には1枚もありません。
女の子たちの服が溶けるという、ストーリー上は不要で義理で入れたがごときサービスシーンが一箇所ありながら、その箇所にイラストはないのです。
だいたいライトノベルのエロシーンというのは「服が脱げた」といった事実を述べるだけで、文章だけでエロスを感じさせるものは多くはなく、本作もその例に漏れません。
それでいてエロシーンを書くのはイラストを前提としてのことであって、そこにイラストが付かないというのは完全な連携ミス、プロとして反省を求められるレベルのミスだと思うのですが、いかがでしょうか。何しろ結果としては、不要な場面が入っただけなのですから。
責任を問われるのがイラストレーターなのか、イラスト指定をする編集者なのかは知りませんが。

それはそうと、内容の話に入りましょう。
本作は異世界ファンタジー、「光土(クレリア)と呼ばれる特殊な土から様々なものを作り出す「創形魔術(クラフティカ)という魔術が発達した世界を舞台にした物語です。
「創形魔術」には道具を作る「創具術(インストラ)」、自動人形の類を作り出す「創生術(ジェネリア)」、壁などの巨大構造物を作り出す「創築術(ストラクティア)」といった種類があり、さらにその他に生命体を作り出す「創命術(セフィラ)」というのもあるとされていますが、神話や伝承以外でそれを実現した者はいません。

主人公のハジメ・大道(ダイドー)はかつてホムンクルスを作り出す「創命術」を成功させて一躍脚光を浴び、ハルプ公立魔術学院に特待生として入学した少年ですが、そのホムンクルスも10日で死亡、さらにはその再現実験も成功せず、今では寮に籠もって見込みのない再現実験に没頭するあまり授業に出ず、単位も足りないという有様です。
そんな彼は夏期休暇に、3人のやはり単位が足りない落ちこぼれ女子共々、エイヴロンにある分校へと特別研修(補修)に送られることになります。
エイヴロンには、ホムンクルス創造に関わる興味深い研究をしている教授もいるというのですが……

本作の焦点は何でしょうか。

まずは研究者の姿勢と倫理という、なかなかにタイムリーな主題があります。
もっとも、本作で問題になるのは成果の捏造ではありません。ハジメのホムンクルス創造も、一度成功したことに対する疑いが問題になっているわけではないのです。
本作中で問題になるのは、法に反して危険なものを都市に持ち込み、さらには人体実験まで行う、人道に反した研究です。
しかし、法に反していても求めるものに近付けるのであれば……とハジメもそれに心惹かれるものはあります。
さらに、今まで世に出ている知識には、そうした人道に反した研究の上に立脚した成果も、実はたくさんあるのです。その恩恵に与りながら、それに目を瞑って自分は「綺麗な研究」をしているがごとくに振る舞うのが正しいのか……そうしたことを問えるからこそ、なおさら人道に反した研究は魅力的であり、ハジメも態度を問われることになります。

ただ他方で、読者としては、少なくとも一度は創命術が成功したのならば、それは何故なのか、成功しないのは何が足りないのかも、気になるところです。
しかもこの世界には、這獣(クロウラー)と呼ばれる怪物が跋扈しており、これが「光土」から作られた生命体らしいことも物語前半で触れられています。
天然の――あるいは太古に創造された?――光土生命が存在するのならば、なおさらその秘密は何なのか……
物語の終盤は、そのカギとなりそうな存在も大きく関わる展開にはなりますが、しかしそれによって何か大きな答えが出る――ハジメが研究を進展させるとか、あるいは創形魔術への取り組み方を改めることになるとか――ような物語にはなっていません。
上の「研究者の倫理」というテーマに関しても、こちらの天然光土生命の存在が決定的な影響を与えるような展開にはならないのですね。
この方面に関しては続きも可能そうな終わり方になっていますが、この1冊の中で見た場合、どこまで区切りの付いた話になっているかは微妙です。

「研究者の倫理」を問われた駆け出し研究者たる主人公の葛藤、そして決断という点では、話はまとまりを見せてはいますが……
つまるところ、「容易に手の届かない真理」と「それを追究する研究者の態度」という二つのレベルが問題になり、前者がかなりの紙面を費やして描かれながら大部分は謎を提示するに留まり、話の大筋は後者の方でまとめているというのが、本作の構造です。
もう少し前者と後者が有機的に結び付けば、もっと完成度が高くなったのでは……と思ってしまいます。

それから、3人のヒロインのキャラ造形ですね。
ハジメの部屋に押しかけてくるアクティブなヒロインのエリシャ(創具術には長けているが、創生術が壊滅的)、いつも肩に乗せた人形を通して喋るボーイッシュな口調のネネ(術の腕はいいがサボり気味)、妄想の世界に入り気味で「~ですわ」口調の鏡子(きょうこ)(とにかく不器用で作るものを爆発させる)と、3人ともキャラ像は分かりやすく、それぞれに見せ場もあります。
ただ、これまたどこか地味な印象があります。
たとえば、ネネの「人形を通して喋る」にしても、小説である限り本人が喋ろうが人形が喋ろうが同じように台詞を書かざるを得ず、「人形の方が喋っている」感じがあまり出ない――と言えば単に媒体の性質上の問題なのですが、そうした理由で濃さそうなキャラがそれほど引き立たない、という場面が随所に見られるように思います。
会話にしても、相乗効果を発揮したり衝突したりでお互いのキャラを引き立たせるようにはなっていない、というのもあるかも知れません。

キャラはイメージしやすいがインパクトはそれほど強くない、というのは前作『最終戦争は二学期で~』でも感じたことなので、作風なのかも知れません。
そしてそれはおそらく、面白そうなテーマがどこか煮え切らない話になってしまうというストーリー面に関しても言えることです。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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