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二つで一つの両翼、リーダーの資質――『下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。
徹底して性表現の規制された近未来が舞台のディストピア小説、7巻目です。

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7 (ガガガ文庫)下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7 (ガガガ文庫)
(2014/09/18)
赤城 大空

商品詳細を見る

 (前巻の記事

前巻の最後で綾女が下ネタテロ組織「SOX」の解散を宣言、今巻では組織が綾女率いる「右玉」と狸吉率いる「左玉」に分裂しています。
きっかけは前巻で狸吉が体制側の代表格であるソフィアと協力したことでした。そのようなやり方は守旧派の下ネタテロリストらの反発を招くから、組織を分けるというのが綾女の言い分です。
かくして守旧派の「右玉」が性知識の流布を行い、敵とも協力する狸吉のやり方を受け入れた「左玉」は仲間(各地の変態)を集めるという分業体制で、それはある程度まで上手くいっていました。

やはり、3, 4巻で4大下ネタテロ組織との対決の上、二つの組織を味方に付けたのが一つの転機となったようで、当初は高校生2人の活動から始まった「SOX」は、今や全国レベルで活動できる組織になっています。
しかも今巻は、いきなり「安心確実妊娠セット」なるものから始まります。「SOX」の作成・配布する、子作りの方法と仕組みを解説した冊子に精のつくレシピ、妊娠検査薬まで加えたもの。
性知識の不足により子供ができない悩みを抱えている若夫婦が、「ラブホスピタル」などではなくこの冊子によって子供ができたという事実が広まれば、それは確かに体制に対する有効打となり得るでしょう。

しかし、果たして内ゲバで組織を分けていて良いのか……

そんな中、利権のために今はまだ体制を崩壊させられては困る鬼頭慶介は、「SOX」を潰すためにスキャンダルを起こさせることを考えます。

「――卑猥な知識をなにも知らない無垢な少女を、卑猥な知識満載の狸小僧が、妊娠させちゃうとか」
 (赤城大空『下ネタという概念が存在しない退屈な世界 7』、小学館、2014、p.32)


かくて狸吉は、今や逆レイプを狙う淫獣と化したアンナと共に監禁され、道程を奪われて子作りをさせられる危機に瀕します。
綾女は狸吉を救うべく動くのか……?

まあ実のところ、守旧派の反発による組織の崩壊を未然に防ぐためとか大義名分を掲げてはいますけれど、綾女は実のところ、何でも受け入れ「正しくない」ことを自覚的に引き受けることのできる狸吉を前にして、頑なに自分の正しさを信じて疑わない自分が嫌われるのが怖いのだということは、前巻の時点からある程度分かっています。
下ネタを連呼していてもそういうところがとことん初心な綾女。他方で狸吉も、とりつく島もない彼女にどう向き合っていいのか分からずにいます。
臆病で予防線ばかり張っている、面倒な男女のラブコメです。

ただ、綾女の理論武装にも一定の説得力があるのは事実。
つまるところ、「清濁併せ呑む度量の大きなリーダー」は、まさに「濁を呑む」がゆえに、それを良く思わない人間の反発を受けます。だから大体、分かりやすい敵を作って攻撃するポピュリズムが勝利するのです。
「当選すれば手腕を発揮するけれど、選挙に弱い政治家」というのがいるのもそのためでしょう。そういう政治家が「自分は手腕があるんだ」ということをアピールしても、あまり効力がないことの方が多いものです。人間は情で動くものですから。
さらに、「度量の大きな人間」は、「そんなに何でも受け入れるのはおかしいんじゃないか」と言う者は受け入れるのか。単純なパラドックスですが、厄介な問題です。

この点に関して、本作における体制側のトップである錦ノ宮祠影は大したものなのでしょう。何かを絶対悪として排斥することの限界をよく知り、むしろポピュリズムの暴走を避けるための情報管理を目標にしつつも、表向きは性表現という「分かりやすい敵」を掲げることで大衆を動かし、異なる思惑を抱えた連中を味方に付けることにも成功しているのですから。

だから狸吉は、綾女一人と向き合えばいいわけではありません。むしろ綾女との個人的な関係のためにも、組織の問題と向き合わねばなりません。
問われているのはリーダーの資質なのです。

もちろん、狸吉たちの目指すのは、現体制のように情報操作でもって人を扇動し操ることではないはずです。
とすれば、いかにして組織に向き合うべきなのか。
自分の正しさを信じる狭量なまでの信念と、異他的なものをも受け入れる包容力、保守と革新、まさに「右」と「左」が互いを補い合うような集団のあり方が、問われているのです(※)。

※ だからカラー口絵でどちらが「右玉」でどちらが「左玉」なのかのキャプションが間違っているのは大いに問題ありです。

これは、4巻の時に言ったように、そもそも生き方が問題になっているのだということと関係しています。
誰もが権力構造の内にいるのであって、テロですら権力構造の内に取り込まれてしまいます。権力と戦うことは、決して外から別の力をぶつける合戦のような形にはなりません。むしろ生き方を確保し、権力構造を内側から塗り替えていくことがポイントとなるのです。

本作は5巻辺りから、高校生の主人公たちにどうにかできるのか疑問に思うほど本格的な体制の動きが見られる一方で、主人公たちの活動として主に描かれるのはむしろ彼らの身の回りの、小規模な事柄へとシフトしていきました。
今回はその一つの佳境として、狸吉と綾女とアンナという三人のラブコメという原点に回帰した感があります。
それが功を奏していて、無理に体制と正面から対決するような大規模な活動をメインで描こうとするよりも筋に説得力があるものになっています。
しかもそれでいて、主人公たちのの動きがピンポイントで体制側の大きな動きに絡む構成は見事、巻を追うごとに向上しています。もちろん、これは上述のように、「SOX」が大きな活動をしようと思えばできる組織になったことが大きいのですが、権力と個の生き方の関係という点でも、実に興味深いことになっているように思われます。

そろそろ変動の時は間近という感じで、アンナに関しても大きな転機が訪れそうな引き。次巻も楽しみです。
――と、その前に単発で新作も予定しているとか。まあ楽しみに待ちましょう。


さて、今回は綾女と狸吉の会話が少なく、それゆえに綾女の下ネタもずいぶんと少ないのですが、それを埋め合わせてあまりある勢いで狸吉の一人称による地の文の下ネタが確実な成長を見せています。

 どちらの組織も、表向きは正常に稼働している。
 僕たちが仲間に引き入れた変態の協力によって、華城先輩たちの《妊娠セット》流布がよりスムーズになるなど、陰の連携もうまくいっている。
 けれどそれは、ガンガン勃起も射精もするけど、実は精子が作られていなかったというな、ぱっと見ではわからない問題を孕んでいるようだった。
 精子がないのに孕むなんて、不思議だね!
 (同書、p.25)


毎ページこの様子です。
作中でも様々な変態と意気投合して仲間に誘うことに成功しているというのですから、やはりこれは変態としての成長なのでしょう。

発情して暴走するアンナとは別に、知的好奇心のために子作りを迫る不破氷菓も相変わらず。今回は狸吉及びアンナと一緒に監禁され、たとえ媚薬で発情ていてもあくまで沈着冷静な持ち前の態度でなかなか美味しい活躍を見せます。

 なんか、頬を紅潮させてはぁはぁしてる不破さんだった。
 なんで、おっぱいを揉みしだこうとするおっさんみたいな手つきなの?
 どうして制服の上から、返り血浴びたようにところどころ赤い白衣を着てるの?
 破瓜なの?
 (……)
「そんなに警戒しないでください。ただちょっと、わたしの自前の試験管に、奥間さんの遺伝子サンプルを保存するだけですから」
 いつもの淡々とした口調でとんでもないことを言いやがった。
 ま●このことを試験管って呼ぶのやめろよ!
 (同書、pp.98-100)


「~~なの? ばかなの?」というのはネットで流布した定型句ですが……

何分作中時期がクリスマスなので……

「このところどころ赤い白衣も、今日のために用意した変装具です。サンタに見えるでしょう?」
 赤と白さえそろえばサンタになれるんなら、処女喪失+中だしでもサンタさんの一丁上がりですわ。
 (同書、p.104)


不破さんの独自の思考回路と地の文で掛け合いが展開されています。

「非処女と判明した幼なじみ」みたいなボロクソな扱い(同書、p.79)とか(これはむしろ下ネタというよりオタク文化に関するメタ的なネタという色彩が強いですが)、パロディとの合わせ技も多用し、時にしばしば喩えとして巧みつつ、勢いの衰えぬ下ネタにも本当に感嘆します。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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