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医学系日常の謎――『天久鷹央の推理カルテ』

今回取り上げる小説はこちら。
先月から新創刊のレーベル「新潮文庫nex」ですが、私としては今月発売の本作が初めて手に取る作品となります。

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex ち 7-1)天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex ち 7-1)
(2014/09/27)
知念 実希人

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扉は通常の新潮文庫と同じ。カラー口絵がない分、メディアワークス文庫以上に一般寄りという感じですね(表紙の画風に関しては、メディアワークス文庫よりもアニメ絵が多くライトノベル寄りですが)。
モノクロページのイラストも、少なくとも本作の場合、各章の扉のみです。

天久鷹央の推理カルテ 扉

そろそろ本作の話に入りますが、作者の知念実希人氏は現役の内科医にして、福山ミステリー文学新人賞を受賞して『誰がための刃』でデビューした作家です。
プロフィールによれば「医学的知見を生かしたミステリー作家の新星として注目されている」とのことで、今作もやはり医学ミステリ的な作品ですが、ただ殺人事件ではなく「日常の謎」寄りの内容となっています。

舞台は東京都東久留米市にある天医会総合病院。
探偵役はこの病院の女医、天久鷹央(あめく たかお)。圧倒的な知識と頭脳を誇り、27歳の若さにして「統括診断部」という独自の部門の部長と副院長を任せられています。
と言うよりむしろ、統括診断部が鷹央の能力を活かすため、科の垣根を越えて診断の難しい患者を診るために作られた部署なのです。
しかし、鷹央のもとには患者だけでなく、病院の内外での様々な事件に関する相談も寄せられます。もちろん、医師がそんな依頼を引き受ける必要はないはずですが、鷹央が興味を持ってしまう依頼や、院内のことで放ってはおけない事柄もあり……

そんなわけで彼女が相対する事件は、公園の池で河童を見たという少年、夜の病棟で人魂を見たという看護婦、中絶した赤ちゃんがお腹に戻ってきたという女子高校生、原因不明の症状に苦しむ少年――といった内容です。

語り手、いわゆるワトスン役は外科から内科に転向した医師で統括診断部に勤める小鳥遊優(たかなし ゆう)。鷹央より2年年上ですが、彼女の部下です。
奔放で社会性に欠ける鷹央に振り回されるタイプの主人公ですね。

ワガママなヒロインと振り回される主人公という構図はお馴染みのものですが、そのヒロインがティーンエイジャーでなく20代後半だと思うとまた印象の違うものもあります。
しかしともあれ、女子高生のような幼い容姿、感情の機微には疎い代わりの徹底した合理性、男言葉……と、鷹央のキャラもきっちり魅力的に立てることができているのではないでしょうか。

ミステリ的とは言いましたが、本作の謎解きは医学知識を要求しますし、仮に知識があっても必ずしも読者が答えに至れるような「フェアな」仕様にはなっているとは言えません。
ただ、確かに医学的知見の使い方は巧みで、診断の難しい症例を上手く使っています。語り手も医師であり、決して無能という設定ではありません。けれども彼には分からないものを、すぱっと鷹央は見抜きます。分野違いのこともありますが、医師であっても容易には分からない症例とそれを見抜く鷹央の頭脳を見せる上で、なかなかいい題材を出してきます。
どんでん返しを決めてくる話もあって、なまじ知識があると騙されるケースも。

それでいて、後半の話では鷹央も当初見誤ったり、なかなか真相が分からず苦労する姿も描かれていますし、語り手の小鳥遊が医師としての目を発揮してヒントを与える場面もあり、その辺もいい塩梅になっています。

何より、別々と見えた事柄が結び付いて真相に到る展開も堂に入ったもので、四つのエピソードそれぞれの筋も高い完成度になっています。

設定上当然かも知れませんが、主人公の年齢が高いのもやや標準的なライトノベルからは外れているところ。
他方で“依頼人”(あるいは受診者)には子供が多いいのですが、さらには厄介な親が登場して親子関係の問題を描いているエピソードも複数あり、これもかなり印象的なポイントです(親子関係というのも、ライトノベルでは見られはするもののあまり流行らないテーマでしょう)。


さて、本作の事件は刑事事件に繋がるものもありましたが、少なくとも殺人事件は起こりません。
ただ冒頭で、過去に鷹央は「宇宙人に誘拐されたと訴える男による殺人事件、新興宗教が絡む洗脳などの大事件」(p.27)をも解決したと書かれており、それ依頼縁のある刑事も登場します。
続きは作れる仕様の本作ですが、過去の事件を描くという手もありそうで、それも読んでみたい思いはあります。あまり大規模な事件や最初から警察沙汰の事件だと、いささか雰囲気が変わるかも知れませんが……

そう言えば、イラストのいとうのいぢ氏は『涼宮ハルヒ』『灼眼のシャナ』といった一時代を代表するライトノベルの挿絵を手がけた印象の強い人ですが、『涼宮ハルヒ』も中盤は時系列をばらばらにして、先に過去にあった事件を述懐しておいて、後からそれを描くスタイルでしたっけ。


誰がための刃 レゾンデートル誰がための刃 レゾンデートル
(2012/04/26)
知念 実希人

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