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あまりにも遠い故郷の星を求めて――『銀河戦記の実弾兵器 1 高校生の俺が目覚めたら宇宙船にいた件』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
Webサイト「小説家になろう」出身作品です。

銀河戦記の実弾兵器<アンティーク> 1 高校生の俺が目覚めたら宇宙船にいた件 (オーバーラップ文庫)銀河戦記の実弾兵器<アンティーク> 1 高校生の俺が目覚めたら宇宙船にいた件 (オーバーラップ文庫)
(2014/08/22)
Gibson

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主人公の一条太朗は現代日本の高校生、原因不明の腹痛で病院に検査入院した……はずだったのですが、目を覚ますとどういうわけか宇宙船の中でした。
どうやら冷凍冬眠して(させられて)いる内に時代は遙か未来になっていたようで、しかも4211人もいた冷凍冬眠者は太朗を除いて全滅。他には乗組員もおらず、宇宙を漂流している状態です。
この世界がどれくらい未来かと言うと、6000年の歴史を持つ銀河帝国が栄えており、地球という惑星は誰もその存在を確認したことのない伝承上の存在です。

他の乗組員の不在により、この宇宙船の所有者としての権利を認められた太朗は、AIの小梅のサポートを受けつつ、宇宙船を元手に会社を興し、仲間を集めて、地球を探す旅を始めます。
しかもこの世界の宇宙では、「ワインド」と呼ばれる野生化したAIが人類を脅かしており、運送会社だった太朗の会社は次第にその軍事力で大きな存在となっていきます。

話の基本構造としては、異世界召還に近いと言えましょう。召還先の世界で展開されるのがスペースオペラだというだけで。
ただ、そもそも異世界召還物の主人公はあまり「元の世界に帰る」ことを問題にしないケースが多いのですが、太朗ははっきりと「地球に帰る」ことを目標にしています。
しかし、この世界に過去行きのタイムマシンが存在するという示唆が今までのところない以上、異世界召還の場合以上に「元の世界」に帰ることは不可能です。
地球を見付けたところで、太朗の知っている人がいないのはもちろんのこと、どれほど変わり果てているのか検討も付きません。
もちろん、太朗はそのことを承知の上で、それでも地球を見付け出したいと願います。
ある意味では、異世界で出会った大切なものを守るとかいう類の目標よりもずっと遠く、それゆえ馴染みにくいところのある目的ではあります。
ただ、その分ハードさも垣間見える設定です。

この世界では直接記憶を上書きする「オーバーライド」という技術があり、太朗もそれによって銀河帝国標準語と、それに脳内でプログラミングを操る「BISHOP」というシステムを習得させられます。
さらに、プログラミングにおいて太朗には他人にない特別な能力の才能もあったようで、これが彼の活躍の原動力になります。
けれども他方で、オーバーライドは上書きなので、何かを習得すればその分他の記憶を失います。
それでも、危機的な状況ではさらに新たな知識をオーバーライドせねばならない場面もあり、結果として太朗は両親の顔も思い出せなくなっている描写があります。
彼は「故郷に帰る」ことを目標とする主人公でありながら、皮肉にも自分の知る故郷には帰れないばかりか、故郷で生まれ育った記憶まで無くしていく――そこには、ともすればなかなか重い方向にも向かいそうな気配があります。

とは言え、本作の基本的なノリはコミカルです。
とりわけ、やたらと皮肉が効いて、おまけに無駄な知識のあるAIの小梅との掛け合いが楽しいところ。

「まぁ、何となくだけどわかったからそれは良しとしよう。でも君の所有者は俺だって言ってたけど、なんなんでしょうかね。個人的にはちょっと嬉しいけど、代金とか払えねぇよ? 後でがっぽり請求されたりとか、ちょっとトラウマがあるんですけど。お店に払うお金と君に払うお金が別々だったりとか、そういうシステムになってたりしない?」
「肯定、並びに否定です変た……ミスター・テイロー。現在記録されている所有者DNA情報は、100%貴方のそれと合致しています。銀河帝国法第228条83項、恒星間飛行における緊急避難の規定により、この船にあらゆる所有権は貴方へと委譲されています。なお、古い性風俗についての情報はデータバンクに記載されておりません。ぽっきり価格に騙される貴方が悪いのですよ、変た……変態」
「いや、『変た』で止められたんだからそこは言い直せよ!」
「それは失礼をば、ミスター・H・テイロー。他に質問はありますか?」
「そのHって、間違いなく変態のHだよね? そうだよね?」
 (Gibson『銀河戦記の実弾兵器 1 高校生の俺が目覚めたら宇宙船にいた件』、オーバーラップ、2014、pp.27-28)


そもそも頭文字が通じるのは日本語だけだろうという疑問はさておいて、「データバンクに記載されておりません」と言いつつ日本の風俗について知っているとしか思えないこの受け答え。この世界から見れば、信頼できる記録は何も残っていないほどの古代の話だというのに!
もっとも、実はこの世界においても小梅のようなAIはイレギュラーで正体不明な存在らしいので、これがただのギャグなのか、それ以上の意味があるのか、ちょっと分からない面もありますが……

この小梅の正体に関する話でもそうですが、そもそも世界設定そのものが読者にとって未知のもので説明を要する中で、さらにこの世界の中でもイレギュラーなものがさらっと出て来たり異例の大事件が起こったりするので、ちょっと置いてきぼり気味な気がするところはあります。
設定自体はそう複雑でも面倒でもないのですが、作中固有の事柄や用語が多く、まだ説明が済んでいない内に異例のものが出てくるので、ちょっと読む上での立脚点を摑みづらいのです。

そもそも、本作は冒頭のプロローグでかなり成り上がった太朗が指揮を取って戦っている場面を描き、それから本編に入ってそうなるに到った経緯を描く、という構成になっています。
しかしどうやら、この1巻の中ではプロローグの場面まで到達していないようです。
さらに、このプロローグ及びカラー口絵のキャラクター紹介では人間そっくりのアンドロイドだった小梅ですが、

銀河戦記の実弾兵器 口絵
 (同書、カラー口絵)

本編開始時点では球体の姿です。

銀河戦記の実弾兵器 小梅
 (同書、p.23)

彼女が冒頭の姿になるまでにも結構かかりました。
一つ一つの場面を結構端折り気味に、話を慌ただしく進めて、それでもこのペースとは、どれだけ消化せねばならないことがあるのやら……という印象はどうしてもあります。

なおタイトルの「実弾兵器」は、ビーム兵器全盛の世界で、敵も対ビームシールドは標準装備としている中で太朗は自船に実弾兵器を搭載する……のですが、これもかなり後半になっての登場。しかも遠隔操作で敵の迎撃を避けて軌道を曲げるという無茶な仕様で、実弾兵器ならではの強みというものはそれほど感じなかったりします。

それとこの手のスペースオペラでありがちなことですが、距離や速度のスケールにしばしば疑問を感じます。
宇宙ステーションとの相対速度が時速200kmというのはいかに何でも遅すぎますし、船が体当たりして「失われた速度分の速さで太朗が吹き飛んだ」(同書、p.61)という場面でも痛いぐらいで住むのも、地上の乗り物の速度をイメージした描写のように思われます(宇宙船には人工重力装置があるようなので、それで衝撃を緩和できるというのならともかく、「失われた速度分」とはっきり書いてしまってはそういう言い訳も使えません)。
砲弾が秒速20kmですら、現実のロケットと比べてそう速いものではありません。

主人公周りの設定に関してはなかなか重いものがあり、またその方向に進んだ方がストーリー的には本作の独自色となるかも知れませんが、基本のトーンはむしろ軽さが持ち味のようにも感じられる作品で、さてこれからどうなるでしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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