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人を好きになる権利のために――『生ポアニキ』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

生ポアニキ (オーバーラップ文庫)生ポアニキ (オーバーラップ文庫)
(2014/10/23)
アサウラ

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ゲーマーズ購入特典は書き下ろし4ページブックレット。
サブヒロイン・松笠(まつかさ)アザミを主役とした2ページのショートストーリーに加え、「アニキの生レシピ」なる料理レシピまで載っています。

生ポアニキ特典

実はアニメイト、メロンブックス、Wonder GOOと店舗ごとに違う特典(違うレシピ)が付くとのことですが……さすがに同じものをそれだけ買うのはちょっと……。

さらに公式に作品の特設サイトも作られ、5人の作家による応援コメントと3人の漫画家による漫画まで掲載されているという力の入れようです。


そろそろ作品自体の話に入りましょう。
実は本作の元は、同作者の代表作『ベン・トー』作中人物が考え出したネタだとのことですが……私はあいにくと『ベン・トー』は序盤までしか読んでいないのでそちらのことは語れません。
ただ、帯には当該の『ベン・トー』登場人物、白粉花(おしろい はな)も登場しています。

生ポアニキ帯

さて、タイトルの「生ポ(ナマポ)」とは生活保護の蔑称として使われるスラングです。
本作の世界では、――冒頭で日本国憲法と生活保護法を引用して説明されますが――「健康で文化的な最低限度の生活」の一環として、生活保護は現存の8種類に加えて第9の「恋愛扶助」が認められています。

主人公の木村ユースケはいじめを受けていることもあり不登校気味の高校2年生。カウンセラーから勧められて恋愛生活保護を申請するのですが(恋愛扶助はその性格上、他の生活保護とは独立して申請できます)、その結果として家にやって来たのは、なぜ筋肉ムキムキのアニキでした。
いや、本来の扶助相手である女の子・鳳来寺(ほうらいじ)ユリ(表紙左の赤髪の少女)も隣の公営アパートに引っ越して、学校もユースケのクラスに転校してきているのですが……
(そう言えば、同作者の作品では大体女性キャラの名前が植物の名前になっていますが、ユリという名前は前作『デスニードラウンド』の主人公と同じですね)

かくして、「裸こそ漢(おとこ)の正装」と言ってパンツ一丁で外出するなどアニキの奇矯な発言と行動に周囲が振り回されるコメディが展開されます。
アニキの言行だけでなく、アニキの行きつけの店の非常に男臭いメニューなど、強烈なギャグが満載です。

美少女の代わりにアニキがやって来て……というのがライトノベルの通例に対するパロディとして強烈なインパクなのはもちろんですが、しかしそれをファーストインパクトだけのネタに終わらせず話を展開するのが、スーパー閉店間際の半額弁当を巡って戦いを繰り広げる『ベン・トー』やマスコットキャラと戦うシリアスなガンアクション小説『デスニードラウンド』を作品として仕上げて見せた作者の凄いところです。

ボディービルダーらしく笑顔を絶やさず、家事も得意で面倒見のいいアニキは、親にも逃げられたユースケの面倒を見て、ひ弱な彼を鍛えます。
他方で、なんでこんな何の取り柄もない男のところに……と思って来ていたユリも、何だかんだでその面倒見の良さを発揮し、また気さくなアニキに誘われたこともあって、気が付けばずいぶんと親しくユースケと付き合うようになります。

けれども後半になると、やはりこれは手違いで二重扶助になっていたから、アニキとユリ、どちらの扶助を解消するか選んで欲しい、ということに。
同時に、ユリが扶助相手としてやって来ることになった事情も明かされます。
ユースケが同級生・松笠アザミ(上の4Pブックレット表紙の少女)と――やはり恋愛生活保護がきっかけで――仲良くなったこともあって、身を引こうとするユリ。
やはり彼女は扶助を命じられて来ていただけなのか、と打ちひしがれるユースケ。
けれども、最後はそんな彼が立ち上がって成長を見せます。

生活保護の対象となっているということは、恋愛は誰にでも認められた「権利」だということです。
けれども、「自分のような何の取り柄もない人間が誰かを好きになっても、振り向いて貰えるはずもない」と思うと、そもそも「人を好きになるに値しないのないのではないか」と思うようになってしまいます(周囲もそういう目で見てきます)。
そんな一人の少年が自分を受け入れ、人を好きになれるようになる――本作はそんな、まぎれもなく成長であり青春と言えるものを描いています。


キャラも魅力的。
何と言ってもアニキが売りですが、スポーティで面倒見のいいユリにぬぼーっとしたアザミと、女の子たちも可愛いです。
とりわけアザミは、AA(アスキーアート)(これです → ´・ω・`)のような顔のフードを被ったデザインが先行したキャラらしく、このフードで独特の演出を見せます。

 気のせいだろうか、松笠……いや、アザミの顔は相変わらずぬぼーっとしているけれど……彼女が被っている帽子のA・A風な顔が、さっきまでのシャキーンとした表情のものから、ウィンクの顔に変わっているような……。
 (アサウラ『生ポアニキ』、オーバーラップ、2014、p.145)


こういうギャグなのか凄いテクノロジーなのか、という事態も漫画ならばさらっと見せることができますが、文章で大真面目に書かれると何と反応して良いのやら……でもいい味を出しています。

また作者の持ち味である食事描写も健在
しかもアニキの料理は高タンパク低カロリーに徹しており、それが「自己管理のため自分で食事を作っているからアニキは料理が得意」と設定にも説得力を与えるなど、ちゃんと食事描写は話に結び付いてもいます(これは作者の他作品についても言えることです)。


さらに見ると、本作はセクシュアリティに関してなかなか示唆的です。
まず、主人公のユースケは――冴えないと言われつつイケメンな主人公ではなく――徹底して本当に冴えない容姿の人物として描かれています。

 玄関にある姿見の前に立つ自分は、洗い立てのものを纏っているとはいえ……やはり、憐れさが漂っている。
 先日高校二年生になったものの、身長は一六〇に達さず、まったく運動しないせいでやたらと細い手足なのに、まるで中年のようにお腹だけが妙に出ている餓鬼のような体形。お洒落でもなんでもない分厚い眼鏡。駅構内にある千円カットで雑に着られてそのまま放置している髪……。
 (同書、p.8)


そんな彼に対し、アニキは「筋トレは、全てを解決する」と言い放ってトレーニングを勧めます。

「筋肉だ。いいか、ユースケ。大事なのは筋肉だ。筋肉は差別しない誰にも等しく、自らの手で、勝ち取れるものだ。気まぐれな神様なんてものが与えてくれる運否天賦の結果じゃねぇ。全て、自分の努力で作り上げるものだ! 顔付きだの身長だの、そんなゴミみてぇなのは関係ねぇ!」
「で、でも……」
「でも、とか、だけど、とか言うな。……いいか、とっておきを教えてやる。どんなチビもノッポもイケメンもブサイクもハゲも関係ねぇ。……マッチョだ。どんな生まれであっても、マッチョにさえなれば……そいつはマッチョだ!!」
 (同書、pp.78-79)


衝撃の名台詞。
無論、アニキの言うことも相当に偏っており、それは作中でも周知のことです。
ただ、ここで問題になっているのが容姿のカテゴリーであり、それが性的魅力に繋がるものとして考えられているのは、明らかでしょう。

あるいは、最初ユースケはアニキのことを随分と恐れていました。

 とりあえず区役所とかが対処するまでは同居し続けないといけないとはいえ……出来ることなら必要以上の関係を持ちたくはない、というのが正直な気持ちだった。
 (同書、p.46)


アニキは登場の仕方も異様だった上に正体不明なので、気持ちは分かります。
ただ、――恋愛扶助でやって来た以上、そこに同性愛を連想するのは当然としても――「襲われるかも知れない」という思いがあるなら、それは「同性愛者」と「見境なく襲う」ということを短絡的に結びつけているのであって、随分と失礼な話です(相手をゲイと知った途端に尻を守ろうとする、というありがちなギャグもこの手の差別を含んでいることは風間孝・河口和也他『同性愛と異性愛』が指摘していました)。

しかし考えてみると、これは同性愛者に対する偏見というだけの問題ではないのかも知れません。
作中世界において、恋愛扶助という制度はしばしば公娼の類と混同されて批判や偏見を生んでいます。
早速そういう扱いをされて、ユリははっきりと言います。

「あのね……ユースケ。もう一度資料を読んで欲しいんだけど、必ずしも受給者のパートナーを国が用意するわけじゃないの。単に相性がいいって思われる人間を近くに配置したり、場合によっては連絡先を教えるだけで、それ以上の介入はしない。つまり、どちらかが相手を嫌だと思ったらその時点でおしまいなわけ。わかる? お互いに普通の一般人ってこと」
 (……)
「……はぁ。ここに来る前に紗、過去の前例として暴行事件が何件もあったから気をつけろって言われてて……。男って、みんなそんなふうに考えるんだよね、きっと。アンタもあたしを物か何かと同じようにしか考えてないんでしょ?」
 (同書、p.65)


自分が他者をそういう目で見ているから、自分もそういう目で見られることを恐れるのではありますまいか?
後々、ユースケよりももっとタチの悪い連中が登場することで、そのことはいっそう浮き彫りになります。

この世界でも生活保護が税金の無駄遣い等々との批判を受けていることは言わずもがな。
そして恋愛扶助に関しては、そうした生活保護への偏見が性に関する歪んだ視線と結び付きます。
「俺たちの税金で女を抱くのか」という批判は、異性を「買い物」だと思っていればこそ出てくるものでしょう。

二つの偏見を結び合わせることでいっそう顕著なものにし、それに対して、「買い物」でなく他者を「好きになる」「権利」を問う、それが本作の注目に値するポイントです。
ここでの「権利」とは、「相手は特定のカテゴリの人間(たとえば娼婦だとか犯罪者だとか)だから何をしてもいい」という恣意や暴力とは対極にあるもの、自分と他者の尊厳を認めねば実現できぬものです。

 ―――

ついでながら、ハンバーガー屋ワックのロナウダとか警察のP君とか、『デスニードラウンド』とリンクするネタが結構ありました。
恋愛をも生活保護に組み込む「天才」を生むほどの権利意識がある一方で、『デスニード~』のようなタチの悪い企業を政府が黙認しているのなら、確かに内乱の一つも起こるかも知れません。

 ―――

以下はさらに余談めいてきますが、ファーストインパクトだけで後の勢いが続かないのは悪しき意味での「出落ち」と言われます(「最初に笑いどころが来る」という広い意味で「出落ち」を取るなら、それ以降の内容は関係ないのですが、もっと悪しき含意を持つことが多いでしょう)。
アサウラ氏は基本コンセプトだけ見てもバカバカしく強烈な作品をいくつも書いてきました。
強烈であると同時に、一見するとくだらなすぎてストーリーになると思えない、つまり出落ちになりそうな印象を与えるものでしたが、にもかかわらず氏はそこからちゃんとストーリーを紡いで見せます。

・スーパー閉店間際の半額弁当を巡って真剣に戦う
・マスコットキャラクターと銃で戦う
・美少女の代わりに筋肉アニキがやってくる

実は、こうしたネタを駄弁りの中で口にはしてもそこからストーリーを紡がない(紡げない)人は、新人賞の一次選考で落ちている作家志望者よりもずっとたくさんいます。
つまり、インパクトのあるネタを出すことと話を作ることは別問題なのです。

実際、アサウラ氏の作品を読んでいると、弁当バトルの熱さや饒舌な語りによるギャグ、はたまた過酷であってもこの現実を生きるべく戦うといったテーマは、バカバカしいネタからはある程度まで独立していることに気付きます(これらはしばしば主人公のキャラに深く関わることなので、「キャラがストーリーを引っ張っている」と言ってもいいのですが、これを言い出すと「キャラかストーリーか」という別の面倒な問題系に通じるので、今は措きます)。
そちらの軸をきちんと立てているから、外見がバカバカしいネタでも、ちゃんと話になるのです。

その軸が本作『生ポアニキ』においては何だったのか、この記事では見てきたつもりです。


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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

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コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
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