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魔法少女という職業と業界の問題――『今すぐ辞めたいアルスマギカ』

今更なようですが、このブログの現行テンプレートだと、左右にプラグインがあって記事の幅がやや狭いため、Amazonリンクの書影を最大にすると書名等の文字表示が右にはみ出すのです。
表紙絵が重要なライトノベルや漫画の紹介には少し画像が小さいというのは事実ですね。

 ~~~

それはそうと、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

今すぐ辞めたいアルスマギカ (富士見ファンタジア文庫)今すぐ辞めたいアルスマギカ (富士見ファンタジア文庫)
(2014/10/18)
氷高 悠

商品詳細を見る

新人作品――第26回ファンタジア大賞の銀賞受賞作品です。

さっそく内容に入りましょう。
本作の主人公、有絵田(ありえだ)ほのりは小学校の時から魔法少女を続けること8年、すでに高校3年生になります。
一頃はもてはやされたものの、すでに熱も冷めて世間の目は冷たく、8年間で80以上の悪の組織を滅ぼしたものの、最近は敵もただの変質者のようなくだらない連中ばかり(それでも魔力には魔力でしか対抗できないので、警察でなく魔法少女が出動せねばならないのです)。
受験生だというのに、給料どころか交通費も無しで戦いを続けねばならない日々。一刻も早く辞めたいと常々言っているのですが、後継者が現れないと辞められないシステムで、それがいつになるかは全く分からないという状況。

ちなみに、彼女をリーダーとする魔法少女チーム「キューティクルチャーム」は3人組ですが、残りのメンバーはと言うと雪姫は可愛いけど女装した男(いわゆる「男の娘」)薙子(なぎこ)はすでに20歳で魔法少女は常時サボり気味という顔ぶれです。
マスコットに相当する妖精も人間大で手足のある蛇という何とも嫌な設定。
どうせ大した敵でないのなら、ほのりも薙子同様にサボれば良さそうなものですが、表向きは大人しい彼女は断れないタイプなので、未だに魔法少女を続けています。

本作の見所は、まずは主人公・ほのりのやさぐれ具合
彼女を魔法少女にした蛇妖精のニョロンには暴行を加えますし、学校に登校するなり熱烈な応援を送ってくるファンに対して、

 うん。ありがとう。全員今すぐ死ね。
「有絵田さん、昨日はおつかれさま! 魔法少女キューティクルチャーム応援団一同、今後ますますの活躍を応援してるぜ!!」
「は、はい……どうもありがとう、ございます……」
 満面の笑みで汗を拭う雉白くんはゴミ虫みたいだけど、人見知りなわたしはとりあえず社交辞令的にぺこりとおじぎする。NOと言えない自分の弱さに、自己嫌悪。
 (氷高悠『今すぐ辞めたいアルスマギカ』、KADOKAWA、2014、pp.44-45)


表面的には大人しくしつつ、内心ではこの通り。嬉々として魔法少女になった過去の自分に対しても「死ねばいいのに」(同書、p.26)、しょうもない敵に対しても「もうこんなバカの相手するの嫌だなぁ」(同書、p.87)と内心では暴言連発。それでも戦いの場では、義務的に魔法少女らしい決め台詞を吐き続けているのですが。

個人的には、こういうやさぐれ系の女主人公は割と好みなので、その時点で悪くはありませんでした。


テーマ面ではどうでしょうか。
再三言っていますが、魔法少女というのは掘り尽くされた鉱脈です。
「先駆者は“最初にそれをやった”だけで偉大であり、後続はさらなる洗練を重ねていく」というのは必ずしも正しくなく、その分野の先駆的な作品は、後発の洗練された作品を色々と見た後でもやはり優れている、ということは多いものです。
つまり、後発作品は先行例に何かを上乗せして当然ということはないのですが、先人にやり尽くされた分野をやるならばやはり、そのテーマについていっそう独自の掘り下げがないと、物足りません。

魔法少女という題材に関しては、単に魔法少女物であるとか、その常識を転倒した邪道だとかいうものだけがやり尽くされていると言うのはではありません。
無給で少女を働かせる「魔法少女」が搾取ではないのか、いい歳になるまで魔法少女を続けたらどうなるのかといった問い自体が先例に溢れている、もっと言えば『魔法少女育成計画』シリーズ一つでほとんど扱われていることです。
「男の魔法少女」に至っては、もう数えるのも億劫なほどです。

もちろん、『育成計画』シリーズは群像撃スタイルで、魔法少女が次々と死んでいくハードな作劇に一つの特徴があります。
しかし、人が死ぬか死なないかだけでは、十全な差別化要因にはなりません。死によって描けるものもあれば、死なないことによって描けるものもあるのであって、それを活かしているかどうかが問題です。

その点、本作は毒舌に満ちた主人公の語りと各種設定のくだらなさで楽しく読めるコメディとして成立しているので、自らの色彩を出して活かすことには成功していると言っていいでしょう。
方向性としては『魔よりも黒くワガママに魔法少女は夢をみる』に近いでしょう。

加えての本作の特徴は、――「魔法少女がいいものとは限らない」ということを描いた作品は数ある中でも貴重なことに――後継者が現れて実際に引退できることになってからの葛藤を描いていることです。
念願叶って辞められることになったものの、いざ後輩の実力と人気の前に自らの存在が霞むことになると、何とも釈然としない想いに駆られるほのり。
彼女の母は言います。

「んー。ひとつのことを長く続けてるとさ、それがなくなったときの自分ってやつが分かんなくなるんだよね。もうそれ自体が自分の一部になっちゃってるって言うか。だから、今日から『はい、辞めました』ってのは案外難しいものなんだよ。それは身体のどっかを突然持ってかれちゃうのと同じで、必ずあとから痛みが生まれる」
 (同書、p.209)


この点で本作は、「魔法少女」の定番に内在する問題を掘り下げたメタ作品である以上に、現実的な職業のメタファーとして読めるのです。
そもそも、ことさらに魔法少女の正体が秘密ということもなく広く知られていて、学校生活でまで追っかけが付きまとうといった状況が、まさにアイドルを思わせます。
以下のような台詞などはその示唆を端的に要約しています。

「魔法少女なんて、ろくなもんじゃないわ。まともに学園生活は送れないし、気持ち悪いファンはいるし。人気が出たって数年も経てば飽きられて、あっという間に転落人生よ。それなのに世間に色目を使って戦って、なんの意味があるのよ?」
 (同書、pp.245-246)


極めつけは魔法少女の担当区画に関わる話。

「大体、南関東は冷遇されすぎなのよ。東京二十三区の連中は『TKY23』として歌ったりバラエティに出たりしてるし、栃木の奴は『ゆる魔法少女』として観光大使に任命されてるし。一方のわたしたちは何? もうメディアにも飽きられて、変身するたびにひそひそ話をされる始末よ!? いい加減、南関東にも新しい風を呼び込むべきなのよ!!」
 (同書、pp.42-43)


説明するまでもなくアイドルユニット名のパロディですよね。
それでいて他地区の魔法少女などが登場することはなく、まるで別番組の主人公が共演する「魔法少女大戦」の趣にならないのも、メタ色のやや弱い所以でしょう。

まあ他方で、「世界を滅ぼす」と称する敵のやっていることが実にくだらない、といったヒーロー物にありがちなことも押さえており、メタ的に読める要素も確かにありますが。

ただ、だからこその物足りなさも残ります。
本作はあくまで、かつての憧れ、今はうんざりしている魔法少女という「職業」に対するほのりの想いに終始しており、搾取の構造自体が問題になることはありません。そして「辞めたい」のは本当であれ、魔法少女そのものに関しては肯定的に扱って締めてしまいます。

しかしそもそも、「同僚」も雪姫は未だにノリノリで魔法少女を続けており、薙子は嫌ならサボるという対応策を身につけ、両親(ちなみに母親は二児を産むまで魔法少女をやっていて、娘が跡を継いでくれたことを単に喜んでいます)でさえ「ツンデレだなあ」という扱いで、誰も「辞めたい」想いを理解せず共有してくれないところに、ほのりのストレスの源があります。けれどもそれは、皆が「魔法少女は素晴らしい」と思うばかりでその裏にある搾取構造等の暗部に目を向けない分だけ、いっそう病の根が深いことを物語っているのではありますまいか。

これを現実のメタファーとして見るならば言わずもがな(最初から問わないならいざ知らず、ここまで「芸能界の問題点」に踏み込みながら流すのか)、「魔法少女」として見た場合でも、たとえば『育成計画』は魔法少女の悲劇の根には(コスコット妖精個人の外道さもありますが、その暴走を可能にしたものとして)魔法の国という「上層部」の構造的問題があること、魔法少女の現状を変えるための戦いをするなら、それもまた綺麗事だけでは済まないことを描き、今も描き続けています。それに比べると……
これこそ、何度も問われ掘り尽くされてきたテーマだけに物足りなく感じる点です。

後はコメディとして見た場合、敵の変態度によるインパクトもそこまで強くないかな、と思いますが、それはまあいいでしょう。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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