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競技者の居場所――『サービス&バトラー 3』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

サービス&バトラー3 (講談社ラノベ文庫)サービス&バトラー3 (講談社ラノベ文庫)
(2014/10/31)
望月 唯一

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 (前巻の記事

第二テニス部のコーチにしてお嬢様・神坂陽菜の執事を務めることになった主人公・水瀬直哉と、部員の女の子たちのテニスに打ち込む青春を描いた本作、今回のメインは、1巻で敵として登場し、その後第二テニス部員となっている藤原珊瑚です。
実は、直哉も含め大にテニス部員は2年生ばかり、珊瑚だけが1年生です。だから直哉たちが引退したら、珊瑚は一人で続けねばならなくなる可能性もあります。
しかも、学校単位の大会に出られるのは第一テニス部だけ。元々第一の勝利至上主義に反対して生まれた第二テニス部は、そうしたことを目標としないところです。
しかし、選手として能力も向上心もある珊瑚をそうした状況に置いて良いのかどうか……ということで、直哉は第一テニス部との和解を図ります。
とは言え、元より考え方が違えばこその分裂、そう簡単に話がまとまるはずもなく、珊瑚と第二テニス部の将来を賭けて、再び勝負をすることに。内容は、女子第一テニス部部長・日照田舞華(ひでりた まいか)&珊瑚の兄にして直哉の友人である修一vs直哉&珊瑚のミクストダブルス

――ただし、作中の季節はまだ7月です。
今回で最終巻ということも念頭に置いて見ると、もう少し直哉たちの引退が目前となってからならまだしも、この時期にこういう話を始めることと合わせ、どこか最終回を前倒しにした感は否めません。

それはひとまず措いて内容に戻りますが、今回のポイントは何と言っても第一テニス部部長・日照田の登場です。
元々男子テニス部は第二との対立には関わっていませんでしたから、「敵」のトップです。
しかし彼女、実際に見てみるとテニスに関しては大変に真摯な人です。

当初の話だと、この学校の生徒たるセレブたちにとって部活動は「将来への投資」、つまり「強豪校にいた」という実績が重要なのであって、だから勝利第一で必死でやっていない生徒を辞めさせた、という話でした。
それは全くの間違いではなかったのかも知れませんが、今回聞く限りだと、第一テニス部員は実力も向上心も高い生徒揃いだというのも事実であり、何よりも「鶏口よりも牛後」という甘い発想を許す部長ではなさそうです。そして日照田の厳しさは部員のことを思ってのことでもありました。

「大有りよ。君も知ってのとおり、第一テニス部の練習は厳しい。全国を目指す部だもの。全員がついてこられるわけではないし、毎年何人も退部する子が出てくる」
 そこで彼女の視線が途端に鋭くなる。まるで試合中に対戦相手を睨みつける時のように。
 ――この瞬間、今回の交渉は失敗に終わったのだと、直感で理解した。
「そんな中で、第二テニス部なんていう『逃げ道』が出来たらどうなると思う?」
 (……)
「この部の門を叩く子の大半は、全国大会を目指してるくらい志の高い子たちよ。それが、一時の誘惑に負けて楽なほうへ逃げてそれで本当にその子たちのためになると思う? 大人になった時、もっとがんばっておけばよかったって――本当に後悔しない?」
 ふと、月城の顔が頭に浮かんだ。
 頑張らなきゃいけない時に頑張れず、それを後悔として引きずっていた少女。
 あいつの後悔を目の当たりにした俺は、今の言葉を否定できない。
 (望月唯一『サービス&バトラー 3』、講談社、2014、pp.55-57)


部から追い出した椿原翠(つばきはら すい)支倉茉莉(はせくら まつり)に対しても、断腸の思いでの判断がったようです。

2巻では何も懸かっていない練習試合をクライマックスに持ってきて、後悔のないよう頑張りたい、勝ちたい、という純粋な想いを描いてみせた本作ですが、今巻は一転、大切なものを賭けた試合が大きなウェイトを占めます。
1巻でも部の存続を賭けて試合をしましたが、今回は懸かっているものの大きさも、それゆえの緊迫感も1巻以上に感じられます。

何度も言ってきましたが、「勝利至上主義」を敵役にしても、その敵と勝負で白黒付けよう、という話ならば、結局勝利至上主義の価値観に与することになりはすまいか、という問題があります。
今巻では、第一テニス部の“悪しき意味での勝利至上主義”のイメージを払拭することで、「勝負」を前面に出すことができたのでしょう。
今回は勝負の内容も結果も一筋縄ではいかず、その緊張感や一喜一憂を存分に味わわせてくれました。

テニス以外では不真面目で、普段はセクハラを繰り返す直哉にいい感情を抱いていなかった女の子たちと徐々に距離を詰めていくストーリーはいつも通り。ここまででは一番直哉への感情が良くなかった珊瑚が、ダブルスのパートナーという関係になって心を開いていく過程は普通に良かったですね。ラブコメ的なイベントはありがちなものですが、珊瑚の身柄が懸かっているということで、直哉の方もその重さを改めて意識する場面があり、絆の意義を感じさせてくれます。
他方で、既巻でイベントを経て仲良くなったヒロイン、つまり陽菜と月城芹葉と直哉との間にはこれといった進展はありません。凡庸なラブコメの要素をあまり増やしても仕方ないのでバランスとしては妥当ですが、3巻完結の犠牲になった感もあり……

それから、修一の見せ場です。
個人的には直哉の親切な友人ながら、第一テニス部(男子部)部員にして珊瑚の兄という立場上、1巻でも3巻でも勝負の場では直哉の敵に回ったりと、いい奴に過ぎて便利に使われている感のあった修一。
しかし彼としても、遠慮して言うべきことを言えずにいたのには忸怩たる思いがあったようで……「便利な友人」キャラがそんな思いを吐露するのも、なかなか感慨深いものがあります。

他方でキャラに関して言えば、翠と茉莉は賑やかしに留まった感もありました。
漫才要員としての茉莉が楽しませてくれるのは確かですが。
そもそも第一テニス部を追い出された彼女たちのために第二テニス部が発足したのであり、敵であった珊瑚に対するそんな彼女たちの思いといった見せ場もあり、また今回はダブルスということでそれを得意分野とする彼女たちは練習相手としても活躍しますが、彼女たちも話が続けばメインの活躍もあったのかもな……とつい思ってしまいます。

と、色々ありましたが、第一テニス部の扱いや関係が変わる中でも、「居場所」としての第二テニス部の意義というテーマは一貫しています。
かつて第二テニスを潰しに来て敗れ、第一テニス部を辞めて第二に入ることになった珊瑚の、だからこそ自分の意思で第二テニス部にいるのだと伝えたい、という想いは、なかなかに心に来るものがあります。

「珊瑚、ずっと不安だったんです。本当はみんな、珊瑚のことを認めてくれていないんじゃないかって。神坂部長との試合に負けて、他に行く場所がないから、仕方なく第二テニス部にいるだけ――そういうふうに、思われているんじゃないかって」
 (同書、p.209)


結局、上の日照田部長への答えに繋がることですが、大会出場のような目標がなく、そういう方面での実力や結果を要求しない第二テニス部のような場は「逃げ道」でしかないのか、固有の価値はないのか、ということです。

これまた『少年スポーツ ダメな大人が子供をつぶす!』にあった話ですが、部活動スポーツに打ち込んできた子が卒業後にクラブチームに入っても、長続きしない例が多いとか。
部活動だって多くの場合辞めることができますが、それと比べても、クラブチームには強制力がありません。本当にぬるいクラブならいいのでしょうが、ハードなクラブだと、強制されるのに慣れてきた人間には辛いのです。
しかし、強制されてやっている人間と、強制力のないところで自主的に取り組める人間、どちらが伸びるのか、という話です。
もちろん強制力がないから堕落する人間も多いのは事実ですが、重要なのは、ことは人と状況によるのであり、必ずしもどちらか一面だけでは語れない、ということです。

とにかく本作は、最後に珊瑚のプレイヤーとしての将来という話になったものの、公式戦出場のような日の当たる舞台とは一切縁がありませんでした。
それによってかえって、外的なものの入り込まない競技への純粋な情熱を――それも軽く楽しむところから全霊を懸けるところまで――描いたという点で、スポーツ物の中でもなかなか稀有な輝きを見せてくれました。
かえすがえすも、これで終わりなのだけが残念です。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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