オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
悪魔に願っては叶わぬ、ただ一つの願い――『王女コクランと願いの悪魔』
古書が格安の上に生協組合員割引まで加えて買える貴重な機会です。
私の場合、まずは洋書狙い。送料がかからない分、海外から取り寄せるのよりも確実に安いですから。結構掘り出し物もあります。
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さて、それはそうと、今回取り上げる小説はこちらです。
この「富士見L文庫」も新興のレーベルで、イラストは表紙のみで口絵も各章の扉絵も無しと、メディアワークス文庫以上に一般文芸寄りの仕様です。
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作者の入江君人氏はもっぱらライトノベルで活躍していて、『神さまのいない日曜日』などの作品がある作家です。
さて本作は、ランプに宿り呼び出した者の願いを叶える――『アラビアンナイト』でお馴染みの魔神のような――悪魔がランダナリア帝国の第一王女コクランの前に現れるところから始まります。
人の願いを叶えるように定められ、そして人がいかに醜い願いを吐露するかを楽しみにしている悪魔。
しかしコクランが願いとして言うのは「とっとと帰って」のみ。
ですが悪魔としても、その「願い」を聞いてそのまま引き下がる訳にはいかず、コクランの「本心からの願い」を引き出そうとします。
コクランが暮らしているのは後宮――と言ってもそこの女性たちが王の愛人候補ばかりというわけではなく、貴族の娘たちが集まって教育を受ける学園都市のような場所です。
そこにおいて、レクスと名付けられた悪魔は、ある時にはコクランの髪に変身して同行し、ある時には鳥に化けてコクランのペットとして過ごし、ある時には宮女に変身して縦横に行動し、色々と騒動も起こしながら、少しずつコクランと友誼を築いていきます。
後宮においても王女であるコクランの地位は特別なもので、「物語の方」と呼ばれて一目置かれていますが、それは慎重な距離の取り方が求められる相手ということでもあります。
作法や常識に従わないことで疎外される者がいたりと人間関係の難しさが渦巻く光景は、社会的背景は違えど現代の学校教室を思い起こさせる面も多分にあります。
さて、本作のクライマックスはやはりコクランの「願い」に関わるのですが、終盤で明かされることをネタバレしてしまうのもどうかと思うと、少々語りにくくはあります。
ただ、物質的には全てを恵まれたコクランが望んでいたのが「他者」であるのは、自然と理解できることでしょう。
単に王女という地位ゆえに求められる距離に留まらず、誰からも距離を取って孤独に生きざるを得なかったコクランの生き方が明かされる終盤は壮絶です。
けれども悪魔は、人の願いを叶えるためにしか行動できないよう、縛られています。そして願いとして「命じて」しまえば、それで得られるものは単に恣になるものであって、他者ではあり得ません。
一人のかけがえのない相手としてコクランのことを思いやるレクス、しかし願いの悪魔にだけは叶えられぬ願い、それゆえに届かぬ手――そんな悲痛な展開を経て、最後は暖かいハッピーエンドで締めてくれました。
まさに「女子校」と言って良い後宮の設定と言い、女主人公で相手の男の関係をメインにしていることと言い、ドラマの内容と言い、全体に少女漫画的なテイストが強めですが、感動的なのは間違いない作品でした。
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