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儚く美しい空想とその危機――『放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。
電撃文庫先月の新巻ということで、気が付けば一ヶ月経ってしまいましたが……

放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い (電撃文庫)放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い (電撃文庫)
(2014/10/10)
杉原 智則

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作者の杉原智則氏は『烙印の紋章』を初めとして、結構色々な作品を出している作家です。

本作の主人公の「ぼく」(名前は出てなかったかと記憶しています)は中学一年生。
ある時から、妖精や怪物やその他ファンタジー的存在の住む魔法の国「マ・ウアー=コギト」に迷い込むようになります。
マ・ウアー=コギトは「魔女」によって焼き尽くされて消滅の危機に瀕しており、「紺色の修復士」コノハさんという少女(「ぼく」から見れば年上のお姉さん)が世界を救うべく戦っています。
しかしどういうわけか――マ・ウアー=コギトは「ぼく」の小学校時代のクラスメートである神永くんが語っていたお伽噺の世界であり、そしてコノハさんは神永くんの姉・ほのかにそっくりなのでした。
行きっぱなしではなく、冒険した後、気が付けば喫茶店「黄枯れ」で目を覚まし、コノハさんは消えているという日々。

後半ではマ・ウアー=コギト誕生の秘密が明らかになり、そして危機を乗り越え綺麗に物語は完結します。

思えば――お話としては普通なら、実際にマ・ウアー=コギトに迷い込んで冒険した時点で「神永くんの言っていたのは作り話ではなく本当だったのか」となりそうなところですが、よく読むと「ぼく」は最初から最後まで、神永くんたちがマ・ウアー=コギトの物語の「作者」であることを疑いはしません。
つまり、これはまさしく人間の想像力を巡る物語なのです。

人間の想像力によって作られ、維持されるファンタジーの世界と、人間が空想を捨てることによるその世界の危機、さらには世界の消えたところが「虚無」になるといったイメージは、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を思い起こさせます。
ただし、『はてしない物語』のファンタージエンが「誰かの」空想を限りなく超えたものとして設定され、随所に登場する「だがこれは別の物語、いつか別のところで語ることにしよう」のフレーズで物語を(タイトル通りに)開かれたものにしているのに対し、本作の物語はどこまでも個人的な問題であり、マ・ウアー=コギトを巡る冒険は続きの存在しようのない形で閉じています。
まあ最後に、創始者が空想を捨ててもそれは受け継がれる、と語って、マ・ウアー=コギトが個人の空想を超えたものになるよう将来にバトンを渡した形になってはいますが。

ただし――本作、肝心の山場が今ひとつ盛り上がりを欠きます。
たとえば、中盤で主人公が戦う力を手に入れるのですが、そこから彼が勇者としてマ・ウアー=コギトの皆に称えられ、マ・ウアー=コギトの全軍が結集して魔女との対決に挑むまで、ほとんどダイジェストのようにあっさりと進んでしまいます。
魔女の正体が明らかになったところで物語は全体の3分の2程度、そこで一区切りあった後で終盤の山場に至るのですが、それにしても中盤の山場が「気が付けばそこまで来てしまっていた」という感覚なのは何とも。

終盤で登場人物のハードな過去が明らかになる場面も、冷静な傍観者である主人公が話を整理して語っているような調子です。
もちろん、主人公が当事者でなく第三者なのも、登場人物の半生を語ろうと思ったらダイジェストになるのもやむを得ませんが、それにしても要所の場面については、もうちょっと当事者視点に乗り移られているように没入して描くこともできたのではありますまいか。ここは相手の記憶が主人公に直接流れ込んでいる場面なのだから、なおさらです。

他方でマ・ウアー=コギトの描写に関しては非常に鮮やかなヴィジュアルイメージがあって、儚さ、美しさ、はたまた竜に載って空を駆ける爽快さといったものがよく伝わります。それがなぜストーリーの要所では活用されないのか。

これは他でもない創作の想像力を巡るお話なのですから、作者も要所での想像力の使い方に関して、もう少し気遣いがあっても良かったのではないか――と。言うことはそれだけです。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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