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その道で生きるということ――『王手桂香取り! 3』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

王手桂香取り! (3) (電撃文庫)王手桂香取り! (3) (電撃文庫)
(2014/11/08)
青葉優一

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 (前巻の記事

今回の前半は前巻で前振りがあった通り、主人公あゆむが桂香先輩と組んで将棋のペアマッチ大会に出場することになります(駒の「歩(ふ)」と区別するため、主人公の名前は平仮名で表記します)。
男女のペアで参加し、交互に指すというルールのこの大会。
もちろん、ここでも思いがけぬ強敵が登場して盛り上がるというのは王道の展開ではありますが……前巻の西本(奨励会三段=プロ一歩手前クラスという中学生)に匹敵する強さの小学生というのは、若干「強さのインフレ」めいたものを感じました。
とは言え、その分衝撃度も盛り上がりも十分。
さらに、貧しい家庭環境のこともあって、十分に厳しい条件を満たせなければプロは目指さないというストイックな西本に対し、無邪気に大目標を口にする少年と、対照的なタイプのライバルを出すことで、改めて「プロを目指すこと」の意義をあゆむに対し問うという構成になっており、これもよく出来ています。

後半は作中時間にして半年以上経ち、桂香先輩の卒業式から始まります。
2巻に引き続きあゆむと桂香のデートもあり、微笑ましくも着実に進展していると見ても良さそうな二人の関係。
そして、奨励会入りするにはプロ棋士を師匠とする必要があるので、桂香の父にして棋界最強と言われる大橋名人と、弟子入りを懸けて試験対局ということに。
将棋に関してはこれが後半の山場になります。
他方で、これまであゆむの師匠であった駒娘たち――とりわけ女王には、あこがれの大橋名人への弟子入りということで動揺したりはしゃいだりしているあゆむを前にして複雑な想いもあるようですが……

もちろん、将棋の神様たる駒娘たち、中でも将棋の全てを知る女王に勝る師はいません。
とは言え、実力に勝る者だけが優れた師だとは限りません。それは強くても教えるのが得意とは限らない、といった要素もありますが、それだけでなく、師というものはそれぞれに固有な存在意義を持つものであって、実力にも教え方にも優れた師が一人いれば他はいらない、とは限らないのです(もちろん、駒娘は教えることにも長けていて、だからこそあゆむは短期間で急成長を見せました)。
だから、あゆむがたとえ将棋の神様の教えを仰いでいようと、人間の師匠も「きちんと学べる師」を欲するのは正当なことですが、もちろん逆も然り。そうそう簡単に「もう師はいらない」と言えるものではありません。

そんなわけで、「その道で生きること」と「師」というものを真剣に問い質す話でした。

前巻での西本との対決及びやりとりを経て、プロを意識するようになったあゆむ。しかしプロになって、それでどうするのか、その先は?

 僕はなぜ奨励会に行こうと思っているのだろう。何を達成させようとしているのだろう。自問してみる。
 プロ棋士としてご飯を食べていきたいという気持ちがある?
 将棋界最高の栄誉である名人の座に就き、『上条あゆむ名人』と読んでもらいたいと思っている?
 今までの人生で一番悔しい敗北を喫した西本に借りを返したい?
 将棋の神様に指導してもらっているから、何となくプロを目指す?
 答えは出てこなかった。僕は現時点で、プロ棋士になりたいという強い意志を持っていない。
 こんな中途半端な気持ちで奨励会に入って、果たして通用するのだろうか。
 (青葉優一『王手桂香取り! 3』、KADOKAWA、2014、pp.130-131)


もちろん、これは非常に厳しい問い方です。中学生とは思えない老成具合です。

たとえば、早ければ10代でプロ入りし、20代~せいぜい30代前半が全盛期となるであるスポーツの場合、選手は子供の時から進路を問われることになります。
それより活躍できる時期は将棋とは言え、将棋の場合も奨励会の年齢制限を鑑みると近い状況はあり得るのかも知れません。

――とは言え、小学生の頃からプロを目指してきてそれを実現したスポーツ選手でさえ、プロ入りが「目標」になってしまっているケースは多い、「仕事をするとはどういうことか考え、自覚しろ」とプロの監督が訓辞を垂れねばならない、という話はよく耳にします。
具体的に高い目標を持つとは、それくらい難しいことなのです。

もちろん、本作中でも桂香や女王は、そんなに最初から意識の高さを求めるばかりが全てではない、と言うのでして、それが常識的でしょう。

ついでに言うと、将棋は個人競技ですから、一つでも上を目指しタイトルを目指すという目標が立てやすくはあるはずです。
それでも、最年少名人になる、と大目標を掲げる陽太少年がいる一方で、小学生時代の大橋名人が「史上最年長の名人になって一日でも長くプロ棋士として将棋を指したい」とあまりにも渋い目標を掲げたというエピソードもあり、目指す形は一つではないことが示唆されています。
あゆむはどんな生き方を目指すのか――


対局の緊迫感を伝える描写はいつもながら圧巻。
今回は、――相変わらず棋譜の掲載はないので、分かるのはせいぜい一部の駒の配置だけですが――今までと比べても山場で具体的な状況が分かる描写になっており、この点でも状況がよく伝わったように思われます(私が慣れてきたせいもあるかも知れませんが)。


ただ、「プロとして飯を食う」ことまで含めて将来の生き方を問われること自体、モラトリアムとしての学校生活とは対極にあり、それはライトノベルの定跡からも外れているという面はあるのかも知れません。

話は逸れるようですが、『週刊少年サンデー』に『MAJOR』という漫画がありました。一時期は『サンデー』史上最長の巻数を記録していた漫画です。この漫画は『MAJOR』というタイトルでありながら、主人公が幼稚園の時から始まり、メジャーリーグ編は終盤です。
喩えるならば『MAJOR』のような作品であるかも知れないものを例えば高校野球漫画の枠で読んでしまい、「甲子園出場/制覇したら」あるいは「卒業したら」終わりだろう、と考える――私が以前に本作に関連して「部活という先入観」と言ったのは、そういうことです。
つまるところ、児童生徒の活動は当然部活という単位で行われるものだ、という先入観。

もちろん、その先入観を裏切り学校という枠を飛び出すことに伴う問題は、当然あります。
そもそも(不思議なことに、と言うべきでしょうか)、ライトノベルにあってはいわゆる「サザエさん時空」の作品は少なく、登場人物が進級し歳を取るのが一般的であるにも関わらず、当初学生であった主人公が卒業し大人になっても続く話はほとんど(いや、全くと言っていいほど)見ません。少年漫画だと、ままあることですが。
学校は卒業せずとも、奨励会入りしてアマチュアの大会に出場できなくなれば、少なくとも部活はすでに「卒業」した感が漂い始めます。ましてやプロになったら……

それから本作の場合、あゆむと桂香の接点がなくなる可能性があるのが最大の問題でしょう。そもそも桂香はもう卒業してしまいましたし……
ただ、この点に関しては実はそれほど危惧していませんでした。というのも、あゆむが桂香一筋で、2巻続けてデートを実現するなど私的な接触を得ていますし、大橋名人に弟子入りすれば大橋家を尋ねる機会も増えるでしょうから。
反面、ハーレムにならないのが駒娘を何人も出した甲斐が薄い、という難点も生んでいるのですが。
まあしかし、女王がなかなか可愛いところを見せ、香車が恋愛面でもあゆむにアドバイスを出したりしているのが、適度にバランスを取っているのではないでしょうか(歩は香車の宥め役中心で、桂馬は本当に影が薄いですが)。

それぞれの作品には内在する容量というものがあって、そこからはみ出すと「蛇足」だとか「話があらぬ方向に向かった」という印象を与えるものだと思うのですが、本作の場合、それこそ奨励会編・プロ編になり、あゆむが大人になって桂香と結婚するところまで言ってもおかしくないだけの度量を、私は真剣に感じていました。


――と思っていたら、最後で「第一部完」
そしてあとがきは「次回作」とか、完全にこれで完結を前提とするような内容。
あらすじに「完結」とか「クライマックス」とか「第一部完」とかその手の言葉が見当たらなかったので完全に油断しました。

そうと分かっていれば……いや、私が何をしようと影響力などは皆無ですが、つい思ってしまいます。
ちょうど開始も完結も本作の1年前(一期前の受賞作)であり、同じく『電撃文庫MAGAZINE』とニコニコの電撃文庫チャンネルの連載もあった『明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。』が、ちょうど今月それらを収録し書き下ろしを加えた短編集の刊行となったので、本作も何とか復活を期待したいのですが……


それから余談ですが、今見ると『電撃PS文庫』掲載の短編(あゆむが2年生に進級していた)は今巻の後に違和感なく収まります。
あゆむが「すでにプロ棋士と同等の棋力」として知られているのも内容通りですし、あゆむは今度の中学校名人戦で優勝したら奨励会に入るつもりなので、まだ学校の将棋部に顔を出しているのも不自然ではありません。
と言うか、よく見るとキャラ紹介からして女王の項目に「意外と恐がりなど」と3巻で出てくる情報が。3巻を脱稿した後にこの短編を書いた結果なのでしょう。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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