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異常事態も愛の前には些細なこと、と言うべきか――『高度に発達したラブコメは魔法と区別がつかない』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
『ウは宇宙ヤバイのウ!』『不本意ながらも魔法使い』に続き、一迅社文庫では3冊目となる宮澤伊織氏の新作です。

高度に発達したラブコメは魔法と区別がつかない (一迅社文庫)高度に発達したラブコメは魔法と区別がつかない (一迅社文庫)
(2014/11/20)
宮澤 伊織

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本作の冒頭は、玲瓏高校の校庭にある「伝説の樹」――その下で愛する人に告白すれば想いが叶うという樹の説明から始まります。
『ときめきメモリアル』の印象のお陰か、定番のイメージを与える設定ですね。
もっともベタにすぎて、今やメタ的視点やパロディを含まずに扱う方が難しいネタかも知れませんが、本作もそうしたパロディ色が強いことは、SF作家の発言のパロディになっているタイトルを見ても予想がつくでしょう。

主人公・黒船蓮司(くろふね れんじ)は、この「伝説の樹」の効力のお陰で、いつも喧嘩している相手の少女・甘紙伊月(あまがみ いつき)とやたらとよく接触するようになってしまいます。
登校時に曲がり角でぶつかるとか、そのわざとらしさはメタ的なネタという他ありません。

そんな状況に陥って困っている彼の前に現れたのは、やはり学園の伝説に言われる「恋の魔法使い」
その魔法使いによれば、カップルで行くと別れることになるという「恋愛都市伝説」のスポットが街の各地にあるので、そこに伊月と一緒に行くべし、というのですが……

話の筋としては、「別れるためのデート」を重ねる内に次第に仲良く……というラブコメの定番ですが、同時に、蓮司と他の女の子との間にも様々なラッキースケベやら恋愛フラグやらのイベントが発生する一方、本当にワニが出現したり数々の異常が発生します。
これは人間に認識できる愛と、人間の認識能力の範囲を超えた「非愛(ナルラブ)との境界が崩れることによる異変だということが徐々に分かってくるのですが……

というわけで、本作は紛れもなく、シュールでバカバカしいネタの数々に彩られたハチャメチャSFです。

たとえば恋愛都市伝説というのが、公園の池で「二人でボートに乗ると白いワニが襲ってきて別れる」(p. 82)といった、訳が分からない上に恋愛と関係の薄いものばかり。
この都市伝説については詳細が語られたりもしますが、詳しく聞いてもやはりB級怪談で恋愛は関係ありません。
かと思うと、神社の神様にまつわる伝説が「女神は癇癪持ちで、男神の形態を勝手に覗いた。男神は浪費家で、消費者金融で借金を重ねた上に、女神の友人と浮気をしていた」(p. 108)なんて話になっていたり。

ある女生徒が残したという自作自演の交換日記やプラネタリウムで「非愛」の説明が侵食してくる辺りなど、本当に読んでいて正気度が下がります。

高度に発達したラブコメは魔法と区別がつかない

それでいて、「人間の認識能力は、生き物としての人間のスペックに制限される」「その範囲からは、決して出ることができない」(p. 152)といった記述は、有限な存在としての人間の認識の限界という思想史上の伝統的なテーマを思い起こさせてくれますし……
(無論、人間の認識範囲を超えたものを「愛」とか何とか名指すことに意味があるのかどうか、という疑問は当然、生じますが)

ただ、大筋はやはりラブコメとして定番で無難なところに収まったという物足りなさもあります。
『ウは宇宙ヤバイのウ』の作者であれば、もっとシナリオ面でも想像を超えてあちこちに突っ走ることができたのではないか、と思うのですが。
終盤、主人公がヒロインのために走るというラブコメの山場らしいシリアスなの展開で、行く先々でB級ホラーみたいな異変が発生している(しかも主人公はスルー)というカオスな展開が一番笑えたので、全体をこの勢いで飛ばしてくれれば……と思うのです。

とは言え、ラブコメとして無難に着地した上で、タイトルが活きてくる辺りは流石です。
人を好きになった時、それが実は「恋の魔法」の仕業だったとして、魔法のせいであるか否かを区別することはできるのでしょうか。
何かに操られていようと、操られている当人としてはやはり「私が感じ、思っている」ことに代わりはないのですし、それは間違いとも言えないのですから。
まさに「愛は魔法と区別がつかない」のです。

もっとも、本当に魔法で人に恋愛感情を抱かせることができるとしたら、そうやって人の心を操って良いのか、という倫理的な問題は浮上するかも知れません。当人としても、「この想いが操られた結果かも知れない」と思えば、悩むでしょう。
そうした倫理的な問題のみをメインにしても、作品は作れます。
しかし、そうした倫理面のことを――まったく問わない、というわけではないものの――軽く流して突っ走るのが、作者の持ち味でしょう。

あまりにもベタなラブコメ的イベントは全て伝説の樹なり都市伝説なりの超常の力のせい、という(メタ的でもある)説明をしておいて、最後は超常の力なのか自然なのか区別できない、という締め。やはり鮮やかです。
次は途中過程ももっと暴走気味のものを期待しています。


余談ながら、「服の上からでも乳首が立っている」イラストは久々に見た気がします。良いかと言われるとどうも……

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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