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何年生きても変わらぬ単純な夢――『武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行』

そう言えば、靴の踵部分の底板が外れかけていたので、昨日修理してきました。その時に、底板を打ち付けている釘が脇から飛び出していることにも気付きました。元々あまり良い品ではなかったのか……
踵だけ貼り替えれば30分で2000円、底全体を貼り替えると1ヶ月で1万円かかるとのこと。
後者だったら買い換えた方がマシそうなので、踵だけ直しました。どれだけ保つか分かりませんが。

 ~~~

それはそうと、今回はこちらのライトノベルを取り上げさせていただきます。

武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行 (富士見ファンタジア文庫)武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行 (富士見ファンタジア文庫)
(2014/08/20)
赤石 赫々

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武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行 (2) (富士見ファンタジア文庫)武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行 (2) (富士見ファンタジア文庫)
(2014/10/18)
赤石 赫々

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本作も例によって Web サイト「小説家になろう」出身の作品です。Web 版も公開を続けているようなので、そちらを試し読みしてみてもいいでしょう。

主人公は武道家のスラヴァ=シジマ。100年を越える生涯を全うした……はずですが、なぜか記憶を持ったままエルフの赤ん坊として転生し、第二の人生を送ることになります。
これだけ見ると「なろう」系によくある異世界転生もののプロットなのですが、本作は実は、異種族への転生ではあっても異世界転生ではありません。スラヴァが人間としての第一の人生を送り死んだ世界は、元々エルフや魔人といった種族が人間と共存しており、竜なども存在するファンタジー世界であって、転生先も同じ世界なのです。スラヴァが息を引き取る冒頭のシーンで、彼の養女であるエルフの娘アルマの存在が、すでにそのことを示唆しています。

しかも彼の没後、アルマはエルフの世界で最も高名な武道家になっており、その師であるスラヴァの名も伝説的なものになっていました。かくして彼は、その名にちなんで、前世と同じスラヴァの名を両親によって付けられたのでした。

……と、この設定だと、第二の人生で前世の知り合いと出会うこともできるのですが、通常ならば主人公が転生し成長するまでにある程度の時間が経っているので、どうしても年代の差がネックになります。
しかし本作は、エルフは長命な種族であるという設定により、エルフである前世の知り合いたちをあまり変わらぬ姿で登場させることに成功しています。
しかも、子供時代は人間よりいくぶん成長が遅いくらいだけれど、外見年齢で10代くらいになってからの加齢は非常に遅いということで、スラヴァが学齢期の少年になってもアルマは若い娘のままという。

裏を返せば、こういう(いくぶんご都合主義な)長寿設定の他には、エルフという存在の設定はさほどの意味を持ちません。
街といい学校といい、エルフの生活は人間とほとんど変わらないように見えます。

こういうのは、ファンタジーとしていい加減と言えばそうも言えますが、道具立てとして割り切って見るならば悪いものではありません。
何より、そうした「道具立て」によって可能になる本作の物語が、なかなかに魅力的なのです。

スラヴァは生粋の武術家で、武の極み――「最強」という壮大な夢を追い求め続けており、生涯を終える時にもその極みに届かずして終わることを何よりも遺憾に思っていたほどです。
第二の人生を得た彼は、迷わず武の極みを目指す修行を続けることになります。
かくして武を巡って繰り広げられる物語。前世の養女であり弟子であるアルマに弟子入りさせられそうになり、前世のライバルであったチェスターと再戦し、そして新たな敵と出会い……

ファンタジー世界なので、彼の操るシジマ流も魔力で身体を強化するというファンタジー武術ですが、ここでも同一世界への転生という設定が活きて、彼の達人としての技術は第二の人生でも変わらず発揮されます。つまり、主人公は圧倒的な強さであり、その背景となる設定もしっかり芯が通っているのです。
また、スラヴァは年老いた達人らしい人格者ですが、同時にずっと「最強」を追い求め続けるだけのことはあって、強者との戦いを求める熱血漢でもあります。だから戦闘シーンは熱く、その一方でそんな生き方しかできない自分をどこか達観した視点で見るだけの余裕も備えています。

 早く闘いたい。この十二年間、力を隠しながら己のみで行える修行に時を費やしてきた。
 なんともどかしい事であっただろうか。そんな私が、前の生涯を通して互角だった男と全力で拳をぶつけることが出来るのだ。
 これで震わぬ心など、枯れ木にでもくれてやればいい。五十年は無かった様な心の震え。今の私を支配するのは、闘争への期待だけだ。
 (赤石赫々『武に身を捧げて百と余年。エルフでやり直す武者修行』、KADOKAWA、2014、pp. 119-120)


 ――そう。そんなもの、男なら誰でも一度は夢見ること。
 私はただ、くだらない夢を捨てられぬだけだ。……まるで赤子。幼少の頃にふと握りしめた拳を未だ開けずにいるとは、なんとも不器用な事よな。
 (同書、p. 294)


もちろん、美少女たちとの出会いもあり、外見は少年でもそれほどに老成して頼り甲斐のある人物ならば、当然モテます。
ただ、スラヴァ自身は意識が老人なので、女の子たちを前にしても孫を見る祖父の視線。それがまた、関係に余裕を持たせていて、微笑ましくもあります。
もっとも、生涯独身だった彼は女性の扱いに長けているとは言えません。そこに初々しさもあります。
(スラヴァが独身だったという設定は、人間である前世の家族のことを気にせずに済むのにも役立っているのでしょうが)

というわけで、「外見は可愛らしい少年、中身は老いた達人」という設定を、各方面で非常に魅力的に活用している作品です。
バトルは迫力がありますし、ファンタジー世界の設定そのものは話の都合に合わせている感はありますけれど、食事などに表れる旅先の風土の描写も悪くありません。

ただ、ちょっと物足りなく感じるのは、人物の扱いに関する構成でしょうか。
1巻辺り15~20章という細かい章の区切り方は、Web 連載での区切りをあまり再編することなくそのままにしているのがよく分かります。
こういう中でも先々の伏線を張ることはできるかも知れませんが、作者はその方向にそれほど入念な感じではありません。

たとえば、1巻終盤の山場で対決する敵はダグラスという魔人の少年ですが、彼は特に布石もなく終盤になって登場するので、特にバックボーンなどは描写されませんし、年齢的な近さからしても今後のライバルとなるのかと思うと、2巻では姿を見せなかったり。
2巻の敵はかつてエルフの世界を危機に陥れたという魔獣タリスベルグで、巨大な魔獣との戦いは圧巻ですが、相手が言葉も通じない魔獣とあっては当然ながら人格的な描写はなし。新たに仲間となるキャラの活躍も少なくて、人物面では物足りなさも感じました。
それどころか、1巻のラストでは一気に時系列が進んで、スラヴァが学校を卒業し武者修行の旅に出るのですが、ここであっさりと学友たちがフェードアウトしたので驚きました。同級生の少女・セリアなんて三角関係の描写も見せていたのに……

ただ、一貫して敵に関係している要素として、生き物を狂わせ魔獣を生み出す魔力の「結晶」の存在があり、案の定、それを扱っている「敵」と思しき者の動きがあることが示唆されました。長期的に登場して人物面でも描き込まれる敵に関しては、今後に期待しましょう。

メインヒロインはシェリル、ということになるのでしょうか。スラヴァの前世のライバルであるチェスターの孫娘で、エルフと魔人のハーフの少女です。
彼女の「結晶」に関わる謎の能力も物語の鍵になってきそうです。
しかし何より、自分の力を持て余して癇癪を起こす彼女が、その力を制することのできるスラヴァの前では一気に甘えた「子供」になる場面が印象的で、内面・実力ともに余裕のある老いた達人の主人公なればこその関係という感じでした。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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